明後日の風
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2010年09月20日(月) 一つのもの

 まだまだ夜明け前の暗い時間。
 小さい白熱電球が灯る食堂で、温かい朝食が振舞われる。
 小さい小屋の、3000mとはとても思えない手がかかった食事の数々。
 それは、お昼のお弁当にもしっかりと表れている。



「いなりずし・・・」
辛しいなり等の変わりいなりを詰め込んだこのお弁当。驚くべきは、6個がすっぽりと納まる弁当箱、そして弁当箱を包む紙袋の適度な大きさ、こんなところに「計算され尽されている」という事実が、品良く主張されているのである。
「いい山だった」
という塩見岳の感想は、この小屋の思い出とともに「一つのもの」として記憶されている。
 
 三伏峠までの道は快調で、
「これで見納めか?」
と思いながら、塩見岳を何度も振り返って眺めていく。


 
 峠で一休みしてから急坂を下っていく。
 振り返ると、既に山の陰になってしまった塩見岳に替わり、甲斐駒ヶ岳が一際輝いていた。


2010年09月19日(日) 憧れの山

 尾根をトラバースして道は着実に上がっていく。
 軽自動車の中で数時間ばかり仮眠しただけ、という体にとって、決して楽な道とは言えないのだが、かといって辛いということもない。「程よく脂肪が燃焼しております」、そんなリズムを与えてくれる道がず〜っと続いている。9月の標高3000m近くは、既にしっかり秋であり、曇った空も手伝って、ひんやりとした空気で満たされている。

 「三伏(さんぷく)峠」

 日本一高い峠、として有名だが、それは取りも直さず、登るのが「しんどい」ということでもあり、だからこそ、この更に先にある「塩見岳」は憧れの山である、という等式が成り立つとも言えるのである。
 少しばかり尾根を歩くと、塩見岳はその重量感をたっぷりと与えてくれる。曇りがちだった空もしっかりと晴天になり、山は凛々しい。



 南アルプスの山らしい「森の山」でもあるのだが、遠目に見たその雰囲気は、山頂直下の塩見小屋に到着する頃には、しっかりと裏切られ、
「冗談でしょ」
という絵面に変貌する。


「どこに道があるねん」
と心の中で叫びたくなるほどに登山道はなかなかに急峻で、天気が悪かったら、即「退却!」と号令をかけたいくらいなのだが、吹き上げる風と、南アルプスの大展望に誘われて「ガシガシ」と岩肌を登っていくのである。間ノ岳、北岳、甲斐駒ヶ岳、仙丈ヶ岳、といった名峰が一望できる。


 そして、山頂。


 天を突くその先で、めずらしく格好をつけてフィルムに収まる。いわゆるハイテンション!、ということなのだが、これも「憧れの山」故の神様の仕業だ、と思いたい。ブロッケン現象というオマケも頂戴し、下山開始。



 1時間ほど後、振り返ると岩山の塩見岳が見えている。
「さ、ビール飲もぅ!」
500ml缶を買い込んできた僕に、友達が柿ピーを差し出した。


2010年09月11日(土) オーバーラップ

「テントの中の方、起きてくださいよ!」
監視員の声にたたき起こされ、「もさもさ」とシュラフから身を出す。しょぼしょぼした目を擦りながら、テントの外に出る。
 昨晩、「星がきれいだなぁ〜。もうオリオン座も見える」と思いながら、50度のウイスキーを飲んでいたのだが、その通り、今日は快晴だ。

 カップそばの朝食を摂ってから、登山道に足を踏み入れる。こういうスタイルを最近はいつも踏襲している。あえて変えないところがいいのか、少しずつ山に対する親和性が良くなっていると実感する。

 比較的緩やかな樹林帯の道は、直射日光を防いでくれ、ひんやりとした空気に満たされている。さすがに標高1800mで、しかも早朝というロケーションの賜物だ。道幅も広く歩きやすい、いわゆる「いい道」でもあり、我々は軽快に足取りを進めていく。
「いや、いいところですね」
このフレーズを何度となく交わしながら、コースタイムを大幅に短縮して、我々は森林限界に到達した。



「もう少しで最高の展望ですから」
前からやってきた下山者が我々に声をかけてくれた。この景色は、正にその意味を正確に伝えてくれている。

 富士のお山はやっぱり美しいのだ。

 このきっぱりとしたシルエットは、スピード感をもってここにやってきた今日の山行に良くオーバーラップしている。気分の良さは、こんなところにも原因があるんだから、不思議なものだ。
 そして今日、我々は鳳凰三山の一つ一つをこなしていく。


 薬師岳、最高点である観音岳、そしてオベリスクのある地蔵岳。白砂の照り返しに閉口し、ざれた砂に足をすくわれて苦労させられるのだが、それでも、この開放的な稜線は魅力的だ。

「これから1300mの急坂を下りますよ」
そんな声を聞こえたのか、今日の道を振り返る。



 鳳凰三山の尾根の脇に、富士のお山はまだしっかりとそこにある。
「さぁ〜て、下りますか・・・」 


さわ