明後日の風
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2010年08月09日(月) 山の名物

 朝、鳥の声で目が覚める。
 暑くもなく寒くもなく、正に「爽やか」という形容が一番適切な高原の朝。ぬるめのお湯で満たされた露天風呂に入り、青空の中の焼岳を眺める。
「ふぅ〜」
という声とともに、標高差1,700m、往復44kmの登山で疲労した体に、温めの単純硫黄泉のお湯がじんわりと沁みこんで行く。

「あんたたち、朝ご飯よ!」
おばちゃんが呼びにやってきた。「ありったけの力をその一言に込めた」という感じの風圧が届いて来る。
 3年前、北アルプス雲ノ平から下山して、「ふっ」とやってきたこの宿の、このおばちゃんとの不思議な間合、本人曰く「田舎料理」というがここでしか食べられない料理、そして、掛け流しのお湯の良さに魅かれ、またしてもやってきたのだ。

「本当に来るか不安だったよぉ」
少し語尾を下げ加減に、3年前と同じボキャブラリーで迎え入れてもらった昨日。なんとなく帰巣本能がくすぐられたのかもしれない。
そして、朝。岐阜県最高峰笠ヶ岳から続く尾根がくっきりと見える快晴の中、
「また、来てねぇ〜」
と、少し語尾を押し出しながら、両手を振って、我々を見送ってくれた。この雰囲気も3年前と変わらない。

 また来るんだろうな、ここ。


2010年08月08日(日) 希望の山

 朝3:50。山荘の朝は早い。
 ヘッドランプを付けて、昨日は足を踏み入れなかった岩山に取り付く。
 白いペンキの目印を頼りに、正に子供の頃に遊んだジャングルジムに登る要領で、岩肌を登っていく。
「ガシガシ登る」
という表現をした友人がいるのだが、正に、そんな雰囲気だ。

 鎖あり、鉄杭あり、梯子あり。
「三点確保」の文字を反芻しながら登ること20分。長い梯子を登った僕は、小さな岩の転がる山頂に顔を出した、に違いない。安堵と共に達成感が広がる。ひょっこり顔を出した先には、三角点の標柱が立っていた。

 360度に存在している山々が一点の光によって少しずつ輝きはじめる。



 南アルプスの先にあるそれは、やはり、だれでもわかるその形をしてそこにあった。

 午前5:00。
 表銀座の大天井岳(おてんしょうだけ)の先の雲の合間から、お天道様が上がってきた。狭い山頂が一斉の歓声で包まれる。


 振り返ると、大きな七色の虹が槍ヶ岳の光背のように広がっていた。


2010年08月07日(土) ペットボトルの水滴

 川は上流に向けて、緩やかに左に曲がっている。
 この左岸に、我々の向かう登山道はゆったりと続いていく。
 夏の強い日差しと、雪解け水から吹き上がってくる風、このコントラストの先に、氷河時代の生き残りというべき、U字谷が見えると、
「ここは日本ではないのではないか」
という気分に、僕は支配される。



 道はU字谷の終点を探すように、道は少しずつ本格的な登山道となり、つづら折りに高度を上げていく。いくつかの沢を渡り、その都度、おいしい清水と出会う。
「ちょっとペットボトルに水を詰めようか」
そこには、水滴で真っ白になったペットボトル。僕は詰めたばかりの冷たい水を「ごっくん」と飲む。とにかく冷たい。

 それまで満開だったハクサンコザクラが陰を潜め、ちょっと頭が重そうに群生している、白いチングルマが風に揺れる頃、その雪渓の向こうに、終着点が見えた。


 北アルプスの希望は、やはりなかなか簡単には登らせてくれない。
 既に、15km以上も、山と格闘しているのだ。 


さわ