明後日の風
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山登りとはこうもきついものであったのか。
沢沿いの道を登り、滑ったら終わりであろうというべき岩を鎖を伝って50mトラバースし、やっとのところでたどり着いた非難小屋。山菜狩りのメッカらしいこの場所には、その筋の人々が入れ替わり立ち代り意見交換にやってくる。
そんな状況を全く理解する余裕もないほど疲れた僕は、30分ほど小屋の中で寝転んだ。 「う〜ん、ダメ。ダメ。」 そういい残して、板の間からヒンヤリと伝わってくる冷気に自分の体を晒した。 「何より、幸せだ」 気分は少しずつ遠くなっていく。友人達は、笑ってこの30分を許してくれた。
とにかく「2歩登っては1歩下がる」という形容が正に的を得ているかのごとき尾根道がひたすら続いている。 最後のひどく長い急登の先に、岩が転がる山頂があった。 ピラミダルな山容と形容される高妻山はその通り、厳しい山だった。
雲に囲まれてしまった山頂に眺望はなかったが、確実に達成感はあった。いわゆる開放的な達成感という感じではなく、今日は、「随分迷惑をかけてしまったな」という気分と、でも、この体調でよくここまで歩いて来た、という気分とが、複雑な心境として交錯しているのだ。 「一人では山は登れない」 修験道の山が与えてくれた実体験。山にはそれなりの力がやはり存在していることの証明かもしれない。
仕事を終えて地下鉄に乗る。 夕方の電車。 地下鉄が地上に出てくると、うっすらと夕方の太陽が射してくる。 この感じが、人の帰巣本能をくすぐってくれる、と思っている。
列車は最寄り駅に到着。 すっかり人気のなくなった商店街を、街灯を頼りにとぼとぼと歩くのだが常なのだが、今日は、まだまだ八百屋は活気があり、メロンパン屋からは甘い香りが漂ってきて、ママチャリは縦横無尽、傍若無人に道を横切っていく。
西に向かって続く、この一方通行の商店街。 両側を2階、3階建の商店に遮られ、その道の行く先にある小さな空だけが、赤く浮き上がる。 赤というよりは、梅雨らしい黒っぽい雲で屈折させられた、濃いピンク色。その水彩画のようにみずっぽさのある色は、とにかく美しい。
その空に向かって、僕は歩いている。 こういう時間に帰ることが、本当のことなんだな、と思いたい。
さわ
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