明後日の風
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2009年11月29日(日) 音楽駅伝

 ピアノを習う、という行為の中で、必ずと言って取り上げられる、15曲からなる曲集を、ほぼ15人からなる、世代の異なるピアニストが次々と弾いていく。
「音楽駅伝」
というべき、その試みが、原宿の小さなスタジオで行われた。
 一人ひとりの個性が、過去の奏者に影響され、そして将来の奏者に影響を与えていく。
 この空間のゆがみ、というものに、なん人も逆らえないし、また、それを楽しむ気分がそのスタジオに広がっていた。そういう不思議な重力場を感じるだけで、この企画はおもしろい。


 久しぶりに竹下通りを歩いてみた。
 20年前、八百屋や米屋、そして定食屋などが並んでいた界隈にもその面影はすでになく、スニーカーや古着等のセレクトショップが一つひとつの個性を発しながら並んでいる。
 この「原宿」に最初の「ゆがみ」を与えたのは、どこだったのだろうか。「楽しい」と思える重力場はどこに向かっているのか。色とりどりのスニーカーが並ぶショップを横切りながら、ちょっとそんなことを考えてみたりする。

 昔、「路地裏を歩く」っていうのが、はやった時期があったな、とふと思う。


2009年11月22日(日) 朝が来た

 随分飲んだのだが、朝は爽快だ。
 山の中のアップダウンを繰り返し、最後には、急な岩場を下ることになり、「本当に大丈夫なんですかぁ〜」と肝を冷やしたものの、やはり体を使ってから飲んだ酒には、悪いことはないらしい。

「ぐっ」と冷え込んだ朝に、もう少し布団に入っていよう、という自分を奮い立たせ、板の間に素足が冷たいと驚きながら、宿にある「塩気」の多い温泉に身を浸した僕は、当然に至福の時を過ごすのだ。小さな湯船には、新しい湯が注がれ、湯気が充満している。

「食事ご用意できましたよ!」
という女将さんの声に、我々は階段を駈け降りていく。

 きらきらと煮汁が光っている魚の煮付け、汁気の多い大根の煮物、そして温泉玉子にお替り自由の「あら汁」。これだけ揃っていれば、
「漁師町の民宿の朝」
を感じるには十分だ。

 小骨の多い煮付けを、猫のように骨をしゃぶりながら、一目散に食べていく。
 客観的に見れば、結構、笑える光景だろうな。
 さあ、今日も山に登ろう。


2009年11月21日(土) 晩秋の山村の風景

 水郡線の西金駅から沢沿いに続く舗装路を登っていく。
 ちょっとした山を登ると家があり、というのを繰り返し、家に隣接する畑には、白菜や大根の葉と並んで、小さな茶畑があったりする。既に冬が近い木々は、既に赤い葉を少しばかり残すという状態で、これで、家の小さな煙突から煙でも出ていれば、昭和40年代まで続いた、「晩秋の山村の風景」というところだろうが、どうもそこまではノスタルジックではないようだ。

 舗装路が木陰で暗い険しい道となり、時々やってくる軽トラックに道を譲りながら、息を荒げて一汗かいた頃には、様相は明るくなりこんもりとした丘になった。その向こうには、厳しい岩稜が日差しに光って屏風の様に広がっている。
 この小さな峠を越え、我々は前面にある岩山に登るのだ。

「本当に登れるの?」
と思えるような垂直な壁に、なぜかうまい具合に道は続いており、山向こうへと続いていくこの道の峠には、広々としたベンチが並んでいる。この麓からの見た目と現実のギャップに驚きながらも、我々は山頂へと登っていく。

 この大円地(おおえんち)峠から既に色づいた広葉樹の林を登りきると、山頂へなだらかなトレイルが見えている。
 奥久慈男体山。
 360度、どこまでも山が続いている。いなりずしがうまい。



2009年11月15日(日) なら

 朝が来た。
 ちょっと早めに宿を出た。
 秋にしては冷たさがきつい空気を吸い込みながら、坂を登っていく。
 まだ、観光客は少なく、散歩やランニングを楽しむ町の人の姿が
「フツーの休日の朝」
を演出している。
 ライトアップでしっとりと美しかった興福寺の五重塔を見上げながら、猿沢池を巡り、僕は奈良公園へと足を運んだ。

 広い春日大社への参道にも、人は少ない。ゆっくりと草を食む鹿を見ながら、緩やかに登っていく玉砂利の参道に、水の流れる音が響いている。参道の四方から、山肌に作られた水路を伝って水が流れている。
「湧き水の豊かな土地だったんだ」
ということに、改めて気付かされる。

 東大寺、そして唐招提寺と歩いた僕は、最後に薬師寺を訪れた。
 とても若いお坊さんが、コミカルに良いお説教をしてくれた。
 時間にして15分。
「病は、心の病もありますよ。鬱、精神病、そういうもんもありますけど、物が欲しい、嫁さんが怖い、舅はゆるせん、そんなんも病なんです。仏さん、半眼になってるでしょう。物を考える時、皆さん目を瞑るでしょ。自分の心を見る、半眼になっているのも意味があるんですよ。」
なんていうのを、うまい具合に話してくれ、最後は参拝者一同で、ヤンヤの拍手喝采。薬師寺金堂の中が「ぽっ」と明るくなった。

「そういえば、じっくり考える時間が減ってるなぁ〜」
 薬師三尊に手を合わせる時間が、少しばかり長くなる。


2009年11月14日(土) お昼寝

 11時25分発の特急しおかぜ16号。
「ぶぅう〜ん」という、いかにも高馬力のディーゼルエンジンの音を響かせながら、気持ちよく松山駅のホームをすべり出す。
 気動車らしい「ぶぉぉ〜ん、どどどど」というような、スロースターターな面影は、今はさらさらない。

 振り子列車特有の、スムースなコーナリングを続けながら、列車は、瀬戸内の海岸線を走っていく。さしずめジェットコースターというのは、単線の予讃線ゆえか。
「しおかぜ」
という疾走感のあるトレインネームは、今のこの高速列車にこそふさわしい。

 海を見ながら「穴子寿司」を食べた僕は、強い睡魔に勝てなかった。 
 夏のような快晴の空からやってくる直射日光に、
「暑い」
と、じっとりとした汗をかきながらも、僕は指定席のちょっとばかりいいリクライニングシートに体を沈めていく。
「窓を開けたら、いい潮風が入るんだろうなぁ〜」


 1時間ばかり寝ただろうか。しおかぜは、瀬戸大橋に向かう高架橋を登っていく。まもなく四国ともお別れだ。


さわ