明後日の風
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朝、テントは強い風と雨に揺さぶられていた。 「こりゃ、天気悪いな」 ということで、外に出ると雪がうっすらと積もっている。初雪だ。 テントを片付け、小屋にデポして山頂に向かう。
一山越えて最後の登り。登るに連れて、手はかじかみ、積雪は増えていく。一面の雪の中に続く足跡に連れられて、山頂に立った。 飯豊山は、大きく豊かな山だ。それだけでなく、登山口の初秋のイメージから、山頂の冬景色まで、景観に富む山でもあった。
山頂直下の小屋にまたしても飛び込んだ。 「お湯あるよ」 と、小屋の主人らしき人が声をかけてくれた。大鍋で「ぐつぐつ」と味噌汁が作られている。その熱気で小屋の中はほのかに暖かい。これから団体さんでもやってくるのだろうか?。お湯もいいけど、あの味噌汁が正直飲みたい、という気分の中、下山を急ぐ。
天気予報通り、天候は少しずつ回復していく。 雪が止み、風が弱まり、青空が広がって行く。
振り返ると、遠くに飯豊本山が鎮座している。
朝、テント場を起きると、爽やかな青空が広がっていた。 めっきり秋なのだが、となりの小川はゴーゴーと音を立てて流れていて、まだまだ瑞々しさが残っている。東北の山シーズンの終わり、を意識するのは、登山者の少なさ、くらいである。
今回は久しぶりのテント泊。ずっしりと重いザックがぴったりと背中にフィットする。自然と「頑張ろう」という気持ちが宿ってくるのはだから、面白い。 広々とした林道はやがて厳しい登りの続く登山道となり、ひたすら広葉樹が広がる豊かな森の中、つづら折りに標高をあげていく。無心に登った急登が平行道となり、落ち着くと、滑りやすい岩場の登りとなり、 「ひぇ〜、ここ登るのぉ〜」 と心の中で思いながら進んでいく。登りきると、きれいな山小屋があった。 「三国小屋」 曇りから雨に天候が悪化する中、我々は小屋に飛び込んだ。
天候悪化の中で、ここを宿とするか次まで行くかと悩むパーティーもあれば、山の標識の調査に来ましたといい先を急ぐ作業員もおり、なかなかにこのシーズンの山歩きも悲喜交々だ。
時折雲の切れ目から見える尾根には紅葉が広がっている。
やせ尾根が続いた登山道の前に、広い平原が現れると今日の宿は近い。 「切合小屋」 その近くに、我々はテントを張った。
バーナーをつけると、テントの中が「ほっ」と暖かくなり、冷え切った体に血が通ってくる。 今日の夜は、同行者が、ブルジョア登山というべき豪勢な食事を用意してくれた。苦労して持ち上げたビールがうまい。今日は良い誕生日だ。 ぐっと冷えたテントの中、もそもそとシュラフに身を沈める。
「あ〜ぁ、眠い」 山登りは楽しいが、朝が早いのは得意ではない。いつも、このギャップを越えて登山口に行く訳で、しかも、登り始めは決して楽しくない。 「どうしてこんなところへ来たんだろう」 と思うのが常なのだ。マラソンも同じらしい。走り始めの後悔と達成した時の喜び、このアンバランスを楽しみのが、実はこの手の楽しみの特徴なのかもしれない。
朝、松本の友人宅の窓から外を見る。 晴れてはいる。しかし、窓から見える北アルプス連峰には、うっすらと雲がかかっている。その状況を見て、更に後悔は募る。
とりあえず出発した。友人の運転する軽自動車で山を越えていく。助手席の僕はしっかり居眠り。申し訳ないと思いながら「船を漕ぐ」。こうなると目覚めることは非常にムツカシイ。 「はっ」 と起きては、 「寝ちゃだめ」 と意識しながら、無意識が勝利し、またしても眠りに入ってしまう。
そうこうしている間に新穂高温泉に到着した。到着して驚いた。「快晴だ」 昨日まで天候不順だったためか、観光客や登山客は少なく、順調にロープウェイで2000mを越えていく。
これまで何度か挑戦をした西穂高岳独標。より正確に言えば、なんとなくロープウェイに乗ってしまい、なんとなく西穂高の方に歩いてみて、時間がなくなったり、雪が積もっていたりで、登頂できていないだけなのだが、今回は違う。しっかりと、「後悔」を背負いながら 「西穂高岳に登るんだ」 と決めてやってきたのだ。
そういう数回の挑戦を経て、既に見慣れた感じの尾根道を進みながら西穂山荘に向かう。 「この辺りで退散したな」 という思い出のある場所から、急登を頑張れば、軽い山登りで、簡単に山荘に到着。ロープウェイの山頂駅からは1時間くらいの軽いコースだった。昔、 「この先に宿はありますか?」 という不自然な質問をした家族連れに出会ったことがあるが、確かに気軽に来られる山小屋であることは事実のようだ。
ここから先は急にアルペンムードになる。岩がごろごろした道を少し進むと、砂礫帯となり、快晴の空の中に、穂高連峰がしっかりと見えている。独標近くの岩場をさらさらと登ると山頂。
西には笠ヶ岳から、雲ノ平方面の北アルプスの核心部、北には西穂高岳はもちろん、槍穂高連峰の峰々、南には焼岳から乗鞍へと続く稜線、東には霞沢岳と麓の上高地と、360度の展望だ。
「後悔」を「喜び」に変えてくれた時間のはじまり。「何時間いてもいいと思う気分」を楽しみながら、お弁当を開く。
さわ
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