明後日の風
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2009年05月31日(日) 鳥の前触れ

 小さい小川に架けられた橋を渡り、
「対向車が来ないかなぁ〜」
と恐る恐るハンドルを握る小さい舗装路が山の上に続いていく。ほどなく、道は広くなり、ぐいぐいと高度を稼ぐのだが、それにつれて、霧が広がっていく。よく考えると、昨日の大台ヶ原と状況は同じだ。

 道路は、広々とした駐車場につながっていた。
「500円ね」
という、おばあさんに駐車料金を支払い、車を停める。
「この先の坂を登ってね。すぐだから」
ぶっきらぼうなんだか、愛嬌があるのか、よくわからないその声に従い、霧で先の見えない坂道を登っていく。

 ひんやりとした空気が広がる中に、青々とした草原が広がっていた。霧で眺望はないが、遠くで、
「キャッキャ」
という声が響いている。林間学校にはちょっとばかり早いのだが、どうも小学生の遠足といった感じらしい。そのうち、
「チチチチ」
という鳥の鳴き声が響きだした。それは前触れだったのかもしれないが、霧が晴れた。



 曽爾高原(そにこうげん)。
 秋にはススキが一面を覆うという。
 僕は、小高い丘を越えて行く。


2009年05月30日(土) 水の山

「不思議だな」
と思いながら、僕は登山道を歩いている。

 山登りと言えば、すっきりとした快晴がいいに決まっているのに、今日の濃霧と小雨はどうだろう。
「10円玉ほどの雨が降る」
と言われる大台ヶ原。麓の大宇陀の集落ではほどよく晴れていたのに、大台ヶ原に近づくに連れて、しっかりと雲が垂れ込めてきた。さすがだ。

 それでも、歩きはじめてみると不思議と気分が良いのだ。湿度が高いこの山域には、それに見合った植生と空気、それから生まれる雰囲気があるらしい。新緑の季節ゆえの淡い色調が、水滴により一層映える、という効果もあるようだ。



 次々に現れる「みずみずしさ」を楽しみながら、透明な水が満たされている登山道を歩いていく。
 これこそが、この山の楽しみなんだろう、と実感する。

 夕方。

 晴れた。
 修験道の山、大峰山に向かって、雲海が広がっている。
 どこまでも、ここは水の山だ。



2009年05月28日(木) とにかく乗りましょう

宿の人に送迎してもらい、改札に急ぐ。
「キップは中で買って!」
と駅員に諭されて、列車に飛び乗った。

ほどなく、2両編成の小さな電車が出発する。
少しばかり小高い温泉地から、列車は小さなカーブを切りながら下っていく。




コトコトと周期的に音を立てながら、列車は進んで行く。
歓楽温泉街を襲う不景気の波は決して小さくない。それでも、湯上りに、うまいラーメンを食べ、ほのかに灯りが広がる射的屋の前を歩き、朝の送迎の途中に、共同浴場の新築が進んでいる、という主人の話しを聞くと、すっきりとした空気が漂うのはなぜだろう。


2009年05月23日(土) のほほん

 単線を走る特急電車は、夕暮れ時の駅に到着した。
 ここから、いわゆる汽車に乗り換える。
 「ぐぅぐぅ〜、キー」
というブレーキ音を立てて、二両編成の列車が一番ホームにやってきた。

 高校生や地元の人々で満席の車内。
 帰宅時間帯というのはこうなんだろうが、よく考えると、
「こういうコミュニケーション満載の車内」
というのは、東京にはないな、と思ったりもする。

 僕は、ドアに体を預けながら、海を見ていた。
 列車の震動でさざなみを立てているのではないか、と思うほどに、ゆるやかな海。西にしっかりと日は沈み、ほんのりと明るい。
 
 彼杵(そのぎ)駅で降りた僕は、路線バスに乗った。
 僕だけを乗せたバスは、嬉野温泉に向かっていく。
「通過します」
という運転手の声が響きながら、ノンストップで走るバス。

 ちょっと寂しいような、ちょっとうれしいような、不思議な感覚を覚えながら、バスは走っていく。

 
 


2009年05月07日(木) いたずら




新緑の季節の興福寺。
霧雨の中に、瑞々しさが表れている。
天平を感じる東金堂から、隊列を組んでのお出ましだ。
奈良のシンボル、五重塔に向かって進んでいく。

「ぎゃあぁぁ!」

と、鹿に後ろから突かれた女性が声を上げていた。
愛くるしい鹿たちはいたずら好きらしい。
声は、境内に響いていく。この雰囲気が微笑になるほど、京都にはないゆったりとした時間が奈良にはあるように思う。

鹿は柵を越えて五重塔の背後に消えて行った。
次の被害者はだれだろう。



2009年05月05日(火) 自他一如

 久しぶりの雨だ。
 しかも土砂降りという感じで、まとまった雨は最近めずらしい。

 自宅でぼんやり過ごしていた訳だが、どうも、頭の中にあるいろいろなものがまとまって来ない。あれやこれや考えあぐねるのだが、神様が降りてこない、とはこのことだ。
「最近、山を歩いてないもんな」
なんとなく体調がすぐれず、自宅でぐずっている毎日は、やはり頭の健康も損なうものらしい。

 ところで、山の中の温泉は、雨のためかそれほど混んでいない。
 霧の張った湿度の高い空気も、露天風呂の熱気から考えれば、爽やかだ。1時間半、雨の中を飛ばしてきたドライブもこれで報われる。

 「自他一如」という言葉が蘇る。作家の五木寛之がどこかで話していたような気がする。
 すっきりとした頭に、スパッと光が通った。
「アイデアは力ずくで出すものではなく、自然とそこに落ち着くもんだよなぁ」
と常々思っているのだが、今日はその感慨に耽りながら、畳の上で転寝する。

 雨は小雨になった。


2009年05月04日(月) チラリズム

 峠越えをしようと、交差点でハンドルを左に切る。
 と、その時、予想外の景色が目の前に入ってきた。
 ウィンカーを出して、路肩に車を停める。




 それまで、ちっとも顔を見せなかった富士の山が、ぽっかりと雲の上に頭を出していた。夕焼けの中、少なくもなく多くもない、この「チラリズム」は絶妙だ。

 車は、ターボーチャージャーの「ずんずん登る」という重力を感じながら、登っていく。山を越えると山中湖だ。


さわ