明後日の風
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小さい小川に架けられた橋を渡り、 「対向車が来ないかなぁ〜」 と恐る恐るハンドルを握る小さい舗装路が山の上に続いていく。ほどなく、道は広くなり、ぐいぐいと高度を稼ぐのだが、それにつれて、霧が広がっていく。よく考えると、昨日の大台ヶ原と状況は同じだ。
道路は、広々とした駐車場につながっていた。 「500円ね」 という、おばあさんに駐車料金を支払い、車を停める。 「この先の坂を登ってね。すぐだから」 ぶっきらぼうなんだか、愛嬌があるのか、よくわからないその声に従い、霧で先の見えない坂道を登っていく。
ひんやりとした空気が広がる中に、青々とした草原が広がっていた。霧で眺望はないが、遠くで、 「キャッキャ」 という声が響いている。林間学校にはちょっとばかり早いのだが、どうも小学生の遠足といった感じらしい。そのうち、 「チチチチ」 という鳥の鳴き声が響きだした。それは前触れだったのかもしれないが、霧が晴れた。
曽爾高原(そにこうげん)。 秋にはススキが一面を覆うという。 僕は、小高い丘を越えて行く。
「不思議だな」 と思いながら、僕は登山道を歩いている。
山登りと言えば、すっきりとした快晴がいいに決まっているのに、今日の濃霧と小雨はどうだろう。 「10円玉ほどの雨が降る」 と言われる大台ヶ原。麓の大宇陀の集落ではほどよく晴れていたのに、大台ヶ原に近づくに連れて、しっかりと雲が垂れ込めてきた。さすがだ。
それでも、歩きはじめてみると不思議と気分が良いのだ。湿度が高いこの山域には、それに見合った植生と空気、それから生まれる雰囲気があるらしい。新緑の季節ゆえの淡い色調が、水滴により一層映える、という効果もあるようだ。
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| | 次々に現れる「みずみずしさ」を楽しみながら、透明な水が満たされている登山道を歩いていく。 これこそが、この山の楽しみなんだろう、と実感する。
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夕方。
晴れた。 修験道の山、大峰山に向かって、雲海が広がっている。 どこまでも、ここは水の山だ。
2009年05月28日(木) |
とにかく乗りましょう |
宿の人に送迎してもらい、改札に急ぐ。 「キップは中で買って!」 と駅員に諭されて、列車に飛び乗った。
ほどなく、2両編成の小さな電車が出発する。 少しばかり小高い温泉地から、列車は小さなカーブを切りながら下っていく。
コトコトと周期的に音を立てながら、列車は進んで行く。 歓楽温泉街を襲う不景気の波は決して小さくない。それでも、湯上りに、うまいラーメンを食べ、ほのかに灯りが広がる射的屋の前を歩き、朝の送迎の途中に、共同浴場の新築が進んでいる、という主人の話しを聞くと、すっきりとした空気が漂うのはなぜだろう。
単線を走る特急電車は、夕暮れ時の駅に到着した。 ここから、いわゆる汽車に乗り換える。 「ぐぅぐぅ〜、キー」 というブレーキ音を立てて、二両編成の列車が一番ホームにやってきた。
高校生や地元の人々で満席の車内。 帰宅時間帯というのはこうなんだろうが、よく考えると、 「こういうコミュニケーション満載の車内」 というのは、東京にはないな、と思ったりもする。
僕は、ドアに体を預けながら、海を見ていた。 列車の震動でさざなみを立てているのではないか、と思うほどに、ゆるやかな海。西にしっかりと日は沈み、ほんのりと明るい。 彼杵(そのぎ)駅で降りた僕は、路線バスに乗った。 僕だけを乗せたバスは、嬉野温泉に向かっていく。 「通過します」 という運転手の声が響きながら、ノンストップで走るバス。
ちょっと寂しいような、ちょっとうれしいような、不思議な感覚を覚えながら、バスは走っていく。
新緑の季節の興福寺。 霧雨の中に、瑞々しさが表れている。 天平を感じる東金堂から、隊列を組んでのお出ましだ。 奈良のシンボル、五重塔に向かって進んでいく。
「ぎゃあぁぁ!」
と、鹿に後ろから突かれた女性が声を上げていた。 愛くるしい鹿たちはいたずら好きらしい。 声は、境内に響いていく。この雰囲気が微笑になるほど、京都にはないゆったりとした時間が奈良にはあるように思う。
鹿は柵を越えて五重塔の背後に消えて行った。 次の被害者はだれだろう。
久しぶりの雨だ。 しかも土砂降りという感じで、まとまった雨は最近めずらしい。
自宅でぼんやり過ごしていた訳だが、どうも、頭の中にあるいろいろなものがまとまって来ない。あれやこれや考えあぐねるのだが、神様が降りてこない、とはこのことだ。 「最近、山を歩いてないもんな」 なんとなく体調がすぐれず、自宅でぐずっている毎日は、やはり頭の健康も損なうものらしい。
ところで、山の中の温泉は、雨のためかそれほど混んでいない。 霧の張った湿度の高い空気も、露天風呂の熱気から考えれば、爽やかだ。1時間半、雨の中を飛ばしてきたドライブもこれで報われる。
「自他一如」という言葉が蘇る。作家の五木寛之がどこかで話していたような気がする。 すっきりとした頭に、スパッと光が通った。 「アイデアは力ずくで出すものではなく、自然とそこに落ち着くもんだよなぁ」 と常々思っているのだが、今日はその感慨に耽りながら、畳の上で転寝する。
雨は小雨になった。
峠越えをしようと、交差点でハンドルを左に切る。 と、その時、予想外の景色が目の前に入ってきた。 ウィンカーを出して、路肩に車を停める。
それまで、ちっとも顔を見せなかった富士の山が、ぽっかりと雲の上に頭を出していた。夕焼けの中、少なくもなく多くもない、この「チラリズム」は絶妙だ。
車は、ターボーチャージャーの「ずんずん登る」という重力を感じながら、登っていく。山を越えると山中湖だ。
さわ
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