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2003年06月10日(火) .....LOVE×LOVE×LOVE【2】(涼拓)

(2)

「やっぱりダメだぁあああーーーー!!!」

告るぞ!と意気込んで赤城山までやって来たはいいけれど、告白相手である涼介を見つける前に勇気がしぼんでしまった拓海は、現在ガードレール脇でしゃがみ込んでいた。

考えれば告白する為には相手を見つけなければいけない。
高橋涼介一一一一あまりにも有名な存在なのに、つい最近まで彼を知らなかったという一般人であった拓海は、走り屋でなかった為に『赤城の白い彗星』とか『公道のカリスマ』や、『ロータリーの高橋兄弟』などという数ある有名ともいえる異名など、正直これっぽっちたりとも知るわけがなかったのだ。
群馬最速?
なにそれ……である。
地元の走り屋だって同級生のイツキと一緒にガソリンスタンドでバイトをしなければ知らなかったし、イツキに引っ張りだされなければ、付き合いもなかったのだから、しょうがないと言えばしょうがない。
相手のことを全然知らない一一一一彼が何処にいるのかという事をすっかり念頭に置くのを忘れていた拓海は、今まさに絶望のふちにいるのだった。

同じ学校ならば救いようがある。
けれど相手は年上で『おそらく大学生ぐらい』という何とも曖昧なイメージしかない。
知っているのは名前だけ(あと、顔とか)……。
そんな僅かな手がかりしかない中で、自宅や通っている大学を調べる方法など、拓海が知るよしもなかった。
公道のカリスマと関東でも名高い、走り屋の間では伝説にもなっている高橋涼介のことを調べるならば、手っ取り早くインターネット検索でも何でもすればそれなりの情報を得る事ができるのだが、拓海がインターネットを使えるのは無理に等しい。経済的な面もあるが、一番はパソコンを使えないという時代遅れな為だ。
車にはカセット。無趣味な為にCDなどもってやしない。
なので、今では普及してインターネットカフェとか出来ているが、高校生で貧乏な拓海がそのカフェを利用するのは皆無であった。
自宅にパソコンなどありえない。
逆に拓海自身から『インターネットって何だ?』と聞き返される事だろう。
ちなみに友人のイツキもパソコンは持っていない。ハチゴーの車を手に入れて以来、車の運転の上達の方に夢中でそれ所ではないようだ。
まぁ……拓海が『涼介さんに告白したいから居場所を知りたいんだ』……なんて、相談するはずがないから親友の力を借りるなどは除外。………つうか、そんな事をするわけがない。
告白をするなら自分自身でがもモットーの拓海は、決意して数時間。
こんな簡単な初歩的な事で躓いていたのだった。
「はぁ……どうすっかなぁ………」
迷う事数時間。
「やっぱ、これだよなぁ……」
必死で考えて。
手段は狭まってくるが、これしかないと考えた。

名前の他に知っている唯一の事といえば、高橋涼介が走り屋であるという事実しかなかった。
赤城山をホームにしている『レッドサンズ』のメンバー。
拓海にとってはもう、それを頼りにする他なかったのだ。

前に走り屋に全然興味がなかった頃。
レッドサンズが秋名山に交流戦を申し込みにやって来た時、先輩である池谷がいっていた事を拓海は思い出していた。
彼等は赤城山を走っている走り屋で、そのなかでも有名なのが高橋兄弟の二人であり、兄の涼介は天才ドライバーであるという事だった。
全く興味のなかった拓海としては、ここまで覚えている事は以外であり、覚えていて良かったと今更ながら思っている。まさか同じような質問をできるわけがないのだからと、必死で言われた情報を拓海は思い出した。

そして、来ました赤城山。
レッドサンズのホームコースにやって来た拓海は、山道をのらりくらりと歩いて登っていたのだった。
流石に車ではどうかと思い、徒歩で来訪。これならば目立つハチロクのドライバーだとは思われないだろうと、拓海にしては頭を働かせてやって来たのだった。
最近、地元以外でもハイロクは有名になってきたのか、よく「声をかけられる」と、ハチゴーのイツキがそんな事を言っている。秋名を走るハチロクが少なくなってきたのも理由だろう。
戦う度に勝つ度に。
池谷が言うには「秋名でハチロクを走る勇気のあるやつはいない」とまで言われるぐらいに有名らしいと、拓海は全く自覚はなかったが聞いていた。拓海的にはあくまでも「そんな馬鹿な!」であったのだ。
そんな自覚のなかった拓海でも赤城をハチロクで走る自信はない。
その理由は唯一つ!
高橋兄弟に勝ってしまったからだ。
あの有名な高橋兄弟の追っ掛けは、イツキや先輩達から嫌なぐらい聞いていた。実際にバトルした時の秋名山のギャラリーの半分以上が、兄弟の追っ掛けだったという。しかも男女問わずのファンで溢れかえっていたのを拓海自身が見たのだ。
その兄弟にはからずとも勝ってしまった拓海は言わば赤城の敵である。
憎っきというやつだ。そんな反感を買いまくリの拓海が、挑発するかのように赤城にハチロクで来れるわけはなかった。
(行ったら……バトルしろとか言われそうだもんなぁ……)
高橋兄弟は、涼介も啓介もそんな事を気にする事はない人柄だろうとは思っている。短い会話と付き合いだったが、二人とも大人で女々しい所がないと、拓海は憧れを持っているのだ。
実際、二人は大人だった。啓介はやや短気な所はあるが、引く所はきっちり引くタイプで、それこそ男らしいのを知っている。だから二人とも拓海がハチロクで赤城を訪れたとしても何も言わないだろう。
けれど周りは違うというのを拓海は知っていた。
拓海はファンにとっては、憧れの人の記録を潰した悪人。悪役なのだ。
「……………。」
とぼとぼ歩いて、歩いて中腹まで登った。
整備された道路脇を歩きながら………だが、そこで拓海は嫌な事実に気がついてしまったのだ。


レッドサンズを探す → 高橋涼介がいる

高橋涼介の側に行く → レッドサンズのメンバー及びファンが沢山いる

「………………。」

そこで告白????

「げっ!!」

気がついてしまったら恐ろしい。
ルックス、スタイルどれをとっても上質な涼介には追っかけがいる。そりゃもうわんさかと勿論男女共に溢れるほどいるのだ。秋名でバトルした時にも気がついたが、みんな涼介目当てだというギャラリーの山。(しかも啓介よりもダントツと多いのだ)
本当は無敗を誇るハチロク目当ても半分ほどいたのだが、一般人を自負する拓海にはギャラリー全部がレッドサンズの応援だと思っていたので、ギャラリー全部がレッドサンズ側だと思い込んでいた。ましてや高橋涼介は凄くモテルという認識が強かったのにも輪をかけて、赤城には予想以上の人間があるだろうと思い込んでしまったのだ。
そんなこんなの思考回路はひとつ。
今更ながらに赤城はギャラリーの山だと思い至ってしまったのだった。
幾度かバトルを体験した拓海は、頂上付近のそりゃもう、凄い人数のギャラリーがいるのを知っている。キャーキャーと喚く多くの女性と、ドライビング見たさに集まった男達。
そんな集まりが展開されている場所で告白などできるわけないと、拓海はその場でしゃがみ込んでしまったのだった。

最悪のステージじゃん………。
涼介さんに会えてもこれでは………(涙)。

だいぶ暗くなった道路を走り上がる車のテールランプを見ながら、拓海は盛大に溜息をついて、何でこんなに簡単な事がわからなかったのだろうと、後悔していた。
勢い良く秋名を出てきた元気はすでになく、
「ああ……俺って馬鹿………」
虚しく響く言葉が赤城を走り抜ける風に攫われたのだった。






---メモ---
これいじょうはこっぱずかしくて書けなかったり(>_<)
途中退場〜〜〜


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