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徒然帳 目次未来
2003年05月22日(木) .....LOVE×LOVE×LOVE【1】(涼拓)

告白しよう一一一一一一

そう思った瞬間、俺は飛び出した。
決めたら即決。
今すぐに告白しなくちゃと思ったんだ。



溢れるほどの『好き』という言葉。
その言葉は普通ならば幸せを感じさせてくれるものであるが、時に苦しめるものでもあるのだと、知ってしまった。これほど怖いものだと、思わなくて気がついた時には自分はどうしようもないぐらい脅えて、苦しんだ。
たくさん、たくさん降り積もって、自分の心を全部埋め尽くしてしまう『好き』という感情は、他の考えなど入り込む隙間などなくなるほどに思考を奪ってゆく。
誰かを想う感情を生み出して。
誰かに想われたいと、そんな欲望を孕ませた。
こんなにもたった一人だけの事を考えるとは思いもよらなかった自分は、四六時中何をしても頭の中は『あのひと』の事だけしかなくて、日常生活に異常をきたした時は、流石にその感情の強さに泣いてしまった。
毎日習慣のように……それこそ無意識の内でもそつなく行動できるぐらいに身体に刷り込んだ運転は、今までどんなに荒れていても、キレてしまっていてもヘマをするという事はなかった。そんなギリギリの感覚でコントロールが出来ていた前の自分とは明らかに違って、感情が支障をきたし使い物にならなくなるというのは、本当に初めてのことだった。

淡い恋心とも呼べない小さな想いの時は、単なる憧れでしかない。
ほんのりと優しい感情。そういう感情は特別でもなんでもなかった。
父親に憧れているとか、先生に憧れる。
芸能人の人に、物語の登場人物に憧れる。
そんな延長上にある感情の一部でしかない。
それらは身近にあったりなかったりしても、受ける感情は同じで。
いわば『あの人のようになれたら………』という思考に起因していて、遠くから見ているだけでいいなどの、そんな可愛らしい想いの一つだった。
勿論、『憧れ』は『好き』へとつながっている。
好きだからこそ憧れるわけで、憧れの対象に恋心を抱く、というのは自然な事であるのかも知れない。

一一一一一ただ。
その憧れが同性に向けられているという事を以外をのぞけば………である。



「よし!」
握りこぶしを振り上げて、気合いを入れた高校生・藤原拓海の一世一代の告白は、想うだけではもう苦しすぎてどうしようもなくなっていた………そして、悩みまくったあげくの果て、告白とあいなった。

相手は公道のカリスマ。
高橋涼介(もちろん男だ)

憧れが恋に発展したこの典型的なパターンは、非情に拓海を揺さぶってくれた。まさか自分がよりにもよって同性に想いをよせるなどとは、生まれて初めてのことで予想外である。恋愛沙汰など普段から淡白な性格も含めて、考えもしなかっただけに拓海には世界を揺るがすほどの大事件に等しかった。
同じ学校で密かに好意を抱いていた茂木なつきへの想いなど、木っ端みじんに吹き飛び粉々だ。あの青春真っただ中のような激しいと想ってた感情は、既になくお遊びに等しいものだったのだろう。拓海が高橋涼介を好きになった時に受けた衝撃に比べれば、茂木なつきとも恋愛がいかに拙かったかが解るものだった。
けれどその本気で好きになった相手が悪かった……。
常識からみても外れた存在。
何故、自分は彼を恋愛対象に見てしまったのか、……という説明を本人は出来なかった。
ただ、好き。
それだけなのだ。

同性を好きになる。
あまりの事態に自分はどこかおかしいののではないか、と本気で落ち込んだ。
自分は女の子が好きで、男が好きな訳ではない。
ちゃんと可愛い女の子には反応するし、綺麗な女性には憧れる。
親友であるイツキを見てもそんな感じは受けないし、恋愛対象など無論、却下だ。先輩である人間から告白されたとしてもそれはNO。同性を恋愛対象にするわけがなかった。

しかし世の中には、自分と言う人間の一部には例外というものがあるらしい。
拓海は高橋涼介だけに、『好き』の感情を持って、反応してしまっていた。
もう、彼以外いらないのだ。
他の男の人一一一一一例えば涼介にいくらか近い弟の高橋啓介をあてはまるとそれが解る。啓介は好きな人間だが、それは恋人としてではなく、友人として。ライバル……が一番しっくり来るかも知れない。
(あの人だけ………)
涼介以外は本当にお断りなのだ。

じっくり考える。
自分のこの想いが勘違いで済ますわけにはいかないから……と、一番のネックだった事にもちゃんと拓海は向き合って考えた。
精神と体力を消耗したあのバトル。
その時の興奮は言葉になりはしない。
今でもあの時の事を考えれば心臓が早くなりどきどきする。生きていてはじめて味わった興奮とスリル。バトルの延長で勘違いをしているかもと……疑いもした。あの時の興奮が強すぎて、恋と勘違いしてしまったのでは……と。
けれど日に日に大きくなっていゆく想いは違うと告げた。勘違いなどではなく、拓海がはじめて女の子を好きになった初恋とよべる感情と同じ感覚であるという事を、衝撃と共に思い知ったのだ。
彼の事を考える度に襲われるなんとも言えない胸の痛みが、本当に彼の事を『好き』なのだという事を知らしめ、いやが応にも自覚させてくれた。
そうなれば『好き』が『大好き』に変わるの早く、拓海は増々にっちもさっちもいかなくなり、大きくなった想いを抱えて途方にくれる事となった。
そこで拓海が女性であれば何の問題もなかっただろう。
生まれてしまった想いも当たり前のこととして受け止められ、こんなにも苦しめられる事にはならなかっただろう。

事実。早朝の配達でハチロクを走らせていた拓海は、勢いあまってガードレールにぶつかりかけるという危うい事態になっていたりする。ドリフトも正確なラインが掴めなくなったり、あれほど染み付いた運転の仕方も解らなくなるという厄介な事態に発展していったのだ。
事故は今の所ないが、このままではいつか……なんてことになりかねない。
今の状態のままでは時間の問題になってしまうのは明白である。
ついに父親である文太が、
『何があったか知んねぇが、決着つけてこい一一一一一一』
と、ハチロク禁止令まで出してしまった。
と、いう訳で。
考えた結果一一一一告って玉砕しよう!
これしかないと、拓海は腹をくくった。

女性ならばまだしも受け入れてもらえる可能性はある。
どんなに相手がレベルが高くても、ほんのチョットの可能性は残っているのだ。
しかし……それが同性となれば話は別である。
男が男を好きになる。友情を越えて親友止まりや憧れならまだ良かった。けれど拓海のは完全に『恋愛』であり、女が男を好きになるのと一緒だったのだ。
だから一一一、拓海は自分の想いが受け入れられるとは考えていない。
同性である拓海の想いを受け止めてもらえるハズがないと、自覚も覚悟しているのだ。
何故、告白するかといえば………それは、溢れるような涼介への想いに決着をつける為だ。うだうだ燻るままよりは、ハッキリ、クッキリ、キッパリっと玉砕して諦めようと考えたのだ。
このままでは自分はダメになる。そう思っての行動だった。

いつまでも好きなままではしょうがない。
『好き』を『好きだった』にしよう。
想いを過去形に変えるべく、拓海は一歩前進する事にしたのだった。

だって、好きなんだ。
好きで、好きで………もう黙っているのは絶えられない。
このまま黙って痛みを抱えるなら
いっそ告って、玉砕してもいいから自分の想いを知って欲しい。
それによって嫌われてもいい。
ただ、俺があの人のことを好きだったというのを知って欲しい。

それだけが拓海をつき動かす1つの原動力だった。



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2003年05月21日(水) .....小さな嵐/お試し版(イニシャルD)

それはある晴れた日の午後。
ぽかぽか陽気に涼しい風。こんな日は何時にもまして洗濯日和だと奥様方が喜びそうな天気の良い日。しかも休日とあっては家族旅行なんてするのに最適な日かもしれない。
日帰り旅行もいい感じで堪能できそうな、そんな日曜日である。

車を走らせる事が3度の飯より好きと豪語する高橋啓介は、珍しくリビングにいた。
起きたばかりを代弁する寝癖をそのままに、啓介はテーブルを占領している沢山の写真の束を何やら一心不乱に整理していた。
「これは……あれだろうし……」
うむむむと唸りながら散らばった写真を幾つかの山に別けていき、それを再度調整したりしている。ネガ番号を書き込んで、どうやら焼き増しの確認をしているのだろう。
「あれ?これはどこのだ?」
「妙義に行った時のだ」
「ああ、そっか」
向いからかけられた言葉に頷くと、啓介は手に取った写真を再び選り分け始めた。
こうして啓介が迷い悩むと、涼介の助言が時折入るので作業は一応は止まらない。早いとは言えないが、確実に進んでいるのは確かだった。
これがもし、啓介一人であったなら………啓介は何日経っても写真の整理は出来なかったであろう。片付かない写真の束に悪戦苦闘して仕舞いには投げ出してしまうのが、普段の啓介の性格から予想し易い。そうなれば自然としわ寄せがくるのは兄である涼介となる。
これは昔から『兄』という立場故か……。
だから……という訳ではないが、助言するだけして啓介に片付けさせてしまった方が、後で自分だけに押し付けられるよりは良いと判断して、啓介の向いに座ってノートパソコンをにらめっこしながら涼介は時折助言して手伝っているのだ。
「これは………」
「秋名の五連続ヘアピンか。そんなものまで写したのか?」
「ああ、史浩が資料にって」
「アイツはマメだからな」
「そうそう。で、これが藤原拓海だな。うへーーー良く撮れたなぁ」
「隠し撮りって訳じゃなさそうだ」
啓介がひらりと手にした一枚の写真を覗けば、ぼーとした表情の少年が写っている。
穏やかな……というかどこか眠そうな表情をしていた。
しかも高校の制服を着た、涼介と啓介にはちょっと珍しいと思う姿だった。
写真の少年は藤原拓海一一一一一秋名のハチロクと言えば記憶に深い、今現在もっとも二人が注目している人物だ。
そのドライビングテクニックから個人的にまで興味をそそられると、言っても過言ではない気になる男の子。いつも予想外の反応をするのが面白いと、涼介も啓介も二人とも年下のこの不思議な少年に夢中になっていたりする。
どこにもいない受け答えが気に入ったのだろうとは史浩の言い分だ。
涼介も啓介も彼の持つ意外性という武器にやれれてしまったのだろうと……。
その史浩が撮った渾身の一枚がこれだ。
どうやって拓海から撮ったのかは疑問だが、深くは考えまい。写真を撮られるのが嫌いなあの少年から例え一枚でも撮れただけでも貴重なのだ。
(前に啓介が写真を撮ろうとしてぶっ飛ばされたんだよな……)
とにかく。
藤原拓海の貴重な制服の写真は、その後、焼き増しに次ぐ焼き増しを大量にされる事になるのはまた別の話だ。

「兄貴もいる?」
「いや、俺は違うの持ってる」
「……………。」
流石は涼介。
やる事に抜かりはない。
「うっわっーーーーーーすっげえ、ずりぃよ。兄貴〜〜〜!」
「努力の賜物だな」
「その言葉……兄貴には一番、似合わねぇ」
「そうか?」
きっと……涼介が手に入れた写真は一枚や二枚ではないだろう。
知りたい事があったらハッキングも犯罪も構わないという、頭のネジが10本ほどは抜け落ちている事間違いなしの人間である事を、弟を20年以上もやっていると解ってしまう。
(しかし………。兄貴、いったいどんな手を………)
恐れながらチラチラ視線を寄越す啓介の瞳には『どうやって?』という疑問がありありと見える。しかしそれを無視して、涼介はパソコンの方に再度取りかかっていた。

まさか言えまい。
衛星をハッキングして盗撮したなどとは………。
流石は涼介。既に犯罪者顔負けだ。
しかも痕跡を完璧に消してしまっているというオプション付き。
現在大学に在籍しているが、既に色々な機関からのオファーがある事を車関係での兄の面しか知らない啓介には知るよしもない。そんな事は知る必要はないのだと、涼介は完璧な笑顔で啓介に微笑むのだった。
みんなが騙される涼介スマイルに啓介もころっと騙され、写真整理を再び始める。
そんな折、啓介の座るソファーの後ろから兄弟の良く知る声が飛び込んできた。

「あ!拓ちゃんだ〜〜〜〜!」
「おわっ……!!て、…… 緒美ィ??!」

何だか聞き慣れた単語を聞いた二人は、思わず顔を見合わせた。
パソコンから顔をあげた涼介の流れるような指先が、完全に止まっている。先程から啓介と会話しながらもキーを打ち続けていた涼介なのに、珍しく微動だにまったく動かない彫像と化した姿がそこにはあった。
写真整理していた啓介の手からは件の写真と一緒に、未整理の写真の束がバサバサ落ちた。
折角、苦労して整理したモノと混じってしまって、再び整理のし直しをしなければならない事態が、見事にテーブルに広がっていた。
ポカーンと口を間抜けに開いたままの啓介の背後から、問題発言をした少女がニコニコと件の写真を覗き込んで、ひらりと取り上げた。

「ねぇ、啓兄ィ。これ緒美にちょうだいv」
ひらひら振るのは唯一、盗撮に成功した垂涎の一枚だ。
無論、そんなお願いは従姉妹と言えども却下である。
‥‥が、動揺している啓介にはそんなもんはどうでも良かったらしい。こくこくと無意識に頷いていて、了承してしまっていた。数秒後、慌てて気づくが後の祭り。啓介曰く、藤原拓海ベストショットの一枚は緒美の胸ポケットにしまわれる事となった。
過ぎたものはしょうがない。潔く諦めた写真であったが、こちらは諦めきれないと、啓介は緒美の肩をガシッと掴んで問いただした。
「つ、緒美………お前、今なんて………」
拓ちゃんとか言わなかったか……?と問えば、従姉妹の少女が面白そうに笑っている。その表情は涼介と似通っていて、近親者だと思わせるような笑顔だった。一見、クセがなさそうでおっとりとしている彼女こそ、高橋兄弟の二人が適わない存在のひとりである。その性格たるやマジで甘く見れば痛い目に合う事を予感させるものであった。
「ん?なに、啓兄ィ〜〜?」
「いや………お前……藤原拓海知ってるのか?」
ズバリ直球聞いてみました啓介君。
やっぱり自分には駆け引きは出来ないと、凄く自分の事をわかっている展開である。涼介だったらここで睨み合い、腹の探り合いがもたらされる。けれど単純思考の啓介にはそれは無理である。
この手の場合は聞いたもの勝ちだ。
優位に立とうとしなければ、素直に聞いた方が実に早いのである。
「知ってるよ」
「な、な、な、な〜〜〜〜〜〜!!」
「意外なところから関係者が出てきたな………」
驚くリアクションが大きい啓介とは対照的に涼介の驚きは目を見張っただけであった。
「知ってて当たり前だよ?だって、叔母様も伯父様も知ってるよ?」
爆弾投下。
啓介の混乱した絶叫がリビングに木霊した。



「それってどーゆーことか説明しやがれーーーーっ!!!」



もっともな言葉である。
だが、説明を聞いて更に叫ぶ事になろうとは、この時啓介にも涼介にも予想は出来なかったに違いない。




「だって拓ちゃんは、緒美の従兄弟だもん」




ひゅるり〜〜〜
リビングに季節外れの突風が吹き込んだ。
思わず無言の兄弟である。
説明を簡単に省略してくれた緒美は、のほほんと自分だけに注いだコーヒー(ミルクと砂糖半々以上の代物)を飲んで、空いているソファーに陣取っていた。




---メモ---
と、ここまで書いてみた。
続きは‥‥‥考えてません(苦笑)


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