月のシズク
mamico



 クールだの、ワイルドだのって

締め切りのある生活。
緊張感と高揚感が入り乱れて、動きまでキビキビしてくる。
普段のぐにゃぐにゃした私からは、想像しずらいけれど、
生活にリズムが付いたようで、個人的には嫌いじゃない。

ということで、朝から夜更けまでモニタの前に固まっています。
周囲には資料やら文献やらが散乱し、私の眼は血走っています。
みんなは遠慮してか、般若面の私が怖くてか、近寄ってくれません。
なんて、ほんの冗談ですが。

お昼過ぎ、セーターの上にマフラーだけをぐるっと巻いて、コーヒーを
買いに行ったら、同僚の男性が私に気づき、手をあげて合図してくれた。
「なんか、ワイルドだね」と、おもしろそうに笑う。ワイルド?私はいぶかしがる。

夕方頃、小脇に資料を抱えて、廊下を小走りに急いでいたら、
「なんか、格好いいじゃない」と、初老の男性(同僚その2)の声が
後ろから飛んでくる。振り向くと、「今日はクールだよ」と、笑っておられる。
クール?再び、私はいぶかしがる。いつもと形容詞が違う。妙な日だ。

公私ともども、慌ただしい日々が続いておりますが、元気でやっています。
今は逃避するよりも、立ち向かう勇気すらわいてくる自分に驚いています。
追い詰められているからでしょうか。だとしたら、追い詰められることも
時として必要なのかもしれません。心に距離を置く、ということも、
同様に、今は必要としていることなのかもしれません。

I began to know What I need the most. See?

2003年11月27日(木)



 落ち葉を見て

なんだか、近頃の天気は日替わり定食みたい。

一日びしょびしょと冷たい雨が降ったかと思うと、翌日は降水確率0%だなんて
ラジオが言っている。おまけに西高東低の冬型の気圧配置のせいで、湿度が低く
て、喉も肌もカラカラに乾いている。文句を云っても仕方ないんですけど。

さて、私の仕事場の外は、立派な欅並木をはじめとして、たくさんの落葉樹が
植わっているので、11月の終わりにもなると、早朝から、落ち葉掃きの音がする。
ザザーッ、ザザーッと掃き清められる箒の音は、清々しい朝によく似合う。

ブーツの踵をコツコツさせながら歩いていると、足元に大きな葉っぱが落ちていた。
拾い上げると、私の顔が隠れてしまうほど大きい。指でくるくると回しながら、
去年の秋に食べた「大葉の味噌包み」を思い出した。味噌で味付けられた具材が
大葉にくるまれて焼かれるのだ(ここで云う「大葉」とは、シソの葉のことでは
ありません)。皿に載せられた葉包みを開くと、樹木のいい匂いがしたっけ。
逞しい想像力に、じゅるり、と、口元を拭きそうになる。

ところで、りんごの皮の剥き方について(続編)。

みなさん、等分派が多いようですね。確かに、皮を剥いた先から、すぐにお出し
できるので、効率は良いのかもしれません。ふむふむ。でも、くるくる剥く姿って、
サザエさんのエンディング曲の絵柄を思い出しませんか?サザエさんが、ちゃぶ台
の上にのぼって「ほーら、皮が切れずにこんなに長くむけるのよ」と云ってるような
あの光景は、とても微笑ましくて私は好きだなー。今でもあの絵柄はあるのかしら。


2003年11月26日(水)



 秋。引っ越し日和

台所から流れてくる、朝ごはんの匂いで目が覚めた。
「お風呂できてるから、入っておいで」
親友の恋人さんが、馴れた手つきで食事の支度をしていた。

私はもそもそと起き出し、熱く焚かれた湯船に身を沈める。

昨晩、ふたりが飲むために注文しておいたという、2003年のボジョレーを飲んだ。
もちろん、彼女の写真の前には、なみなみと注がれたワイングラスが置かれ、
果たされなかった約束を、形だけでも、果たしてあげた。あんなに飲んだのに、
ぜんぜん酔わなかった。どんなに飲んでも、これっぽっちも酔えない気がした。
「いたこでも、幽霊でも、夢でも、何でもいいからさ、もいっぺん彼女と話がしたい」
と、彼が云う。失った人への愛は、どれだけ言葉にしても、語り尽くせなかった。

病院の宿舎を引き揚げる前夜。私は新幹線に乗ってやって来た。
そして、親友が生前暮らしていた別宅、彼女の恋人さん宅に泊めてもらった。

「とにかく料理が上手なの。すごく美味しくて。私、ここに住み始めてから、
お料理を忘れちゃったよ」と、親友が誇らしげに云っていた通り、恋人さんの
腕前は相当なもので、夕食も、朝食も、普段の私からは信じられないくらい
たくさん食べた。朝風呂から上がると、彼女が絶賛していた、卵焼きができていた。
ふんわりした黄色で、きれいな形をし、口に入れると、しゅわっと溶けた。

「なんかさ、嫌になっちゃうくらい天気がいいよ。引っ越し日和、っていうのかな」
窓の外は、真っ青な秋空で、山は紅葉し、ススキがゆらゆら揺れていた。
朝食の後、紅茶をのんで気合いを入れ直し、彼女が勤務していた病院へ向かう。

病院の敷地内にある彼女の部屋は、もうすでにいくつも荷造りがされていた。
彼女のご家族と合流して、片っ端から遺品を片付ける。棄てるもの、実家に送る
もの。ちゃっちゃと分別する。たくさんのゴミ袋と段ボール箱が積まれてゆく。

「ここにはほとんど住んでなかったのにね。物持ちがいい子だったから」
お母さまが腰に手を当てて苦笑し、とっちらかった部屋を見渡す。

午後には、引っ越し業者が来て、あっという間に荷物がトラックに積まれた。
私たちは、空っぽになった彼女の部屋を振り返る。窓に、赤いカーテンが
吊られたままだった。それをそのままにして、ドアに鍵をかけた。

それから高速に乗って、駅まで送ってもらった。
形のない悲しみを、ぽっかりと空いた虚無感を、やるせない想いを、胸にかき抱く。
彼女が好きだったCDを聞きながら、私は彼女が何度も見たであろう風景を見送る。
夕暮れ。山の稜線が赤く燃え、東の空に一番星が光っていた。

2003年11月25日(火)



 雨の音、光の匂い、うさちゃんりんご

昨日はずっと雨が降っていた。傘をさすほど出歩いてはいないが、
4階の仕事場の窓から見える風景は、ずっと白い靄がかかっていた。
夕方、雲間から西日が透け、水蒸気に音が吸収され、世界が静止したかのようだった。

雨の音を聴きながら眠った、深夜二時。
朝の光に瞼をなでられて目覚めた、午前八時。
外の空気は、しっとりと湿ってぬるく、私は半袖のニットを着た。

目をつぶると、自然と他の感覚が情報をキャッチしようと動作する。
呼吸する音や、街が動いている音、暖房の空気の動きや、雨が乾く匂い。
私は子どもの頃から、ずっとそうやって生きてきたような気がする。

閑話休題

突然ですが、りんごの皮を剥くとき、丸のままくるくる皮を剥いてから等分するか、
等分してから、ひとつづつ皮を剥くか、みなさんならどちらの方法を取りますか?

先日、教授のところに「ふじ」りんごが届いたというので、仕事の合間に
いただきました。私は「くるくる派」なのですが、その所作を見て、彼女が、
「おもしろい剥き方をするわね」と云われたので、ちょっと気になって。

だって、くるくると剥いて皮が途中で切れなかったら嬉しいじゃないですか。
効率はどちらの方がいいのかしら?それに、清潔さ(手に触れる時間)も。
でも、ときどき「うさぎ剥き」にするときは、私も後者の方法ですよ。
うさちゃんりんご。子どものころ、お弁当箱から出てくると嬉しかったな。


2003年11月21日(金)



 Still, Life Goes On

書きたいことが、しこたまあるというのに、それを ひとつ ひとつ 取り出して、
理路整然と 脈絡を持たせて並べることが できない、今日このごろ。
みなさま、いかが お過ごしですか?(人に振るな)

週末、神戸に行って来ました。
遠くへ旅立った親友の戒名は、「温顔明照信女位」という、なんともハッピーな
名前。クールビューティな遺影の前には、なぜか大口を開いて美味しそうなパイ
に喰らいつく彼女(本来の)姿の写真。お母さま、よく判っておられる(笑)

ご両親と私で、彼女の遺影に向かって散々「あほ」だの「ばかたれ」だの、
悪態を付いてはわらう。悲しむことは、ひとまず置いておいて、云いたい放題
文句をたれてきた(苦笑)。各々、悲しみは痛いほど感じているのだから、
私たちは精一杯、彼女の前でわらってきた。それでいいよね、あっこ?

ところで、せっかく神戸へ行くのだから、神戸のおしゃれなカフェやバーに
行きまくってやる!などと、鼻息も荒く、事前にいろいろ調べてみた。
[ハニーマミー]さんの[神戸カフェリンク]には、本当にお世話になりました。
二日間で合計6つのカフェ&バーにおじゃましてきました。

しかし、関西のひとは心配りが細やかですね。
ひとりでお店に入り、ぼーっとしていたら、「雑誌いかがですか?」とか、
「夕刊よみます?」とか、いろいろ声をかけていただいて、東京なら「ほっとけ」
と思う場面でも、なんだか嬉しくて。久々に新聞を一面から開いてみたり(笑)

旅先からムリヤリ葉書を送りつけられたみなさま
そろそろ届きましたでしょうか?

2003年11月18日(火)



 砂漠で生きるドイツ女のように

アメリカのロードマップを広げていたからだろうか。
『バクダットカフェ』のざらっとした、くすんだ優しい映像が観たくなった。

東から西へ向かうR66、ラスベガスを越えてカリフォルニアへと続く砂漠の道。
その途中のニューベリースプリングという小さな町で、その映画は撮影された。
カメラをこのカフェ一点に据え、特に大きな事件も起こらない、淡々とした映画。
それでも、なぜか懐かしく感じる肌触りが、私はたまらなく好きだ。

イライラをぶちまける女主人のところに転がり込んだ、丸々と太ったドイツ女。
ふたりはすごく対照的ではあるけれど、女、という揺るぎのない共通点がある。
私はそれに、ほっとさせられるのかもしれない。無口だけど、柔らかで、
人をよせつける(美貌とは違う)魅力を持ったドイツ女は、とても素敵だ。

印象的な場面がある。
人口も娯楽も少ない土地で、ギスギスしたバッハしか弾けなかった少年の
ピアノが、いつしか、とてもゆったりとした調べになったところ。
あの映画の優しさは、そんな些細な情景にしっくり馴染んでいる。

と、こう書いている間にも我慢しきれなくなり、ホリー・コールのCDをかけた。
"Calling You"は、砂漠の砂が巻き上がる町に住む、それぞれの淋しさを
抱え持った人々が、小さく声を上げて、誰かを呼んでいるような歌だ。
その根底には、常に、人間が生きてゆく強さが流れている。


 << 生真面目なドイツ女の仕事っぷりがほほ笑ましい

2003年11月13日(木)



 足元をみて、コロモガエ

午前中、パジャマのまま、顔も洗わず、もそもそと納品作業。
先方から「OK」の電話をいただき、ほっと一息つく。つめたくなった
はだしのあんよ。爪先にひっかかった、モコモコのフリース製スリッパ。
オレンジ色に茶色の縁取り。うん、なんか、いい感じ。

ということで、今回のトップ、秋冬ヴァージョンのネタ元は「スリッパ」。
賛否両論あろうかと思われますが(「前の方がよかったー」とか)、ま、
私の部屋履き、オレンジ・スリッパに免じて、ガマンしてやってください。
(「そんなの知るかよ」という突っ込みは、受け付けません)

ちなみに、使用した画像は、春先に欧州へ旅行したときのもの。
夕暮れ時の、パリ、サン・ラザーロ駅ちかく。ちょうどライトアップが
始まった時刻で、駅周辺には家路へ急ぐパリジャンの姿が見られました。

そして、只今、午後三時すぎ。
いい加減、パジャマを脱いで、顔を洗って、選挙にでも行ってきます。
(いわゆる、ダメダメダメ子さんに成り下がった、日曜の午後なり)

2003年11月09日(日)



 近況

ご心配おかけいたしました。スミマセン。
みなさんの温かく、優しいお心づかいに感謝しています。

親友の急逝の連絡を受けたその日、埃っぽかったテレビの上を片付けて
彼女の写真と、お香、お花を活けました。朝な、夕な、その写真に向かって
話しかけて暮らしているわけですが、いえ、その、痛いなぁ、という感じでは
まるでなく(つまり、先に逝かれた孫の遺影に、涙にくれる老婆的なものでなく)
私のバカげたつぶやきに、付き合ってもらっているという感じです。

その写真というのが、また、「遺影」というには相応しくなく、あのですねぇ、
水着姿なんです。はい。彼女の写真をいろいろ探してみたのですが、大概の
ものはふたりで写ってまして、それでもいいんですけど、でも、それですと、
私まで故人になってしまいますものねぇ。そりゃイカンだろ。

というわけで、パラオにダイビングに行ったとき、ボートの上から撮ったもの
にしました。背景が、青い海に漂うサメの大群だったりするんですけど(苦笑)。
そして彼女、色っぽいビキニで、ニッコリと微笑んでおります。

悲しみがないわけでは ないのです。
あまりに急だった上に、喪の儀式(私が報告を受けたのは、家族だけで葬儀を
終えた後でした)に参加していないので、なんというか、ピリオドというケジメを
体験しそびれているのです。おまけにご実家が神戸なので、すぐにお悔やみに
伺えず、何とも宙ぶらりんな気分で、喪失感を求めています。

来週、時間を作って、彼女に挨拶してきます。
そして、彼女と歩いた神戸の街を、今度はひとりで踏みしめてみようと思います。


2003年11月06日(木)



 正午過ぎ 東京上空、なんとか曇り

彼女のお母さまから電話で知らせを聞いた後、ベランダへ出た。

もう冷めてしまった珈琲を飲みながら、煙草を吸おうとしたけれど、
うまく肺の中に空気が入ってこなかった。人は、混乱しすぎると、
何も考えられなくなる。正午すぎ、空はどんより曇っていた。

トレーニングウェアに着替え、ジョギングシューズを履く。
記録会をしている陸上競技場の様子を少しうかがった後、落ち葉に覆われた
ロードを走り始めた。いつもの公園(中島飛行場跡地)に着き、準備運動を
してから、芝生の上を走る。厚いソールを通して、足の裏に土の感触がした。
フィールドでは、子どもたちがサッカーの試合をしている。

「本気やの? そんな走ったら、心臓止まるんちゃうん?
 ムリしたらあかんで。まだまだ時間あるんだからさ」

私はまだ、彼女に走り始めたことを、伝えていなかった。
でもきっと、彼女に言ったら、大きな目をさらに大きく見開いて、
低いハスキーな声で、笑いの要素がたくさん詰まったあの声で、
こう続けただろう。「ほな、私も応援いくわ。ゴールで待ってる」と。

一時間のトレーニングを終えて、水飲み場で顔を洗う。
見上げると、雨雲が厚く空を覆っていた。まだ雨は落ちてこない。

「東京上陸間近。また派手に嵐を連れて行くから覚悟してね」

彼女が東京に来るときは、いつも雨だった(そして↑なメイルをくれた)。
それも、しとしとという淑やかなものではなく、バケツをひっくり返し、雷鳴を
かき鳴らすほどの大雨。彼女の旅行鞄には、いつもピンクの折りたたみ
傘が常備されていた。10年前からずっと、同じ傘を使っていた。
「物持ちがいいのよ」と笑いながら、その鮮やかな色の傘をさしていた。

軽くジョギングをしながら家へ帰る。
シャワーを浴びて着替え、ベランダに出る。
せき止めていてくれてありがとう。やっと雨が落ちてきたよ。

2003年11月03日(月)
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