2002年12月29日(日) |
さみしさの周波数/乙一 |
短編集です。 「未来予報 あした、晴れればいい。」、「手を握る泥棒の物語」「フィルムの中の少女」「失はれた物語」が収録。 「失はれた物語」は書き下ろし。 ファンタジーあり、ユーモアあり、ぷちホラーあり、涙ありの短編集です。 乙一氏らしいというか、乙一さんの世界ですね、どれも。 特に「手を握る泥棒の物語」はご本人も言われているように、のりのりで書いた雰囲気があって面白いです。 ところで、乙一氏、あとがきで「ちなみに、小生の新作はこれを最後に当分、発表されない予定である。そのうち小生の死亡説が流れることを請け合っても良い。」なんて書かれていますが、本当にしばらくお休みされるんでしょうか。 だとしたら、待ちきれない私は近いうち、ハードカヴァ「GOTH」に手を出してしまいますね、きっと。
僕たちの間には言葉で表現できる「関係」は存在しなかった。ただ透明な川が二人の間を隔てて流れているように、あるような、ないような距離を保っていた。(「未来予報 あした、晴れればいい。」)
乙一:さみしさの周波数,p.62,角川書店.
2002年12月21日(土) |
海賊島事件 the man in pirate's island/上遠野浩平 |
事件シリーズ第3弾。久しぶりです、このシリーズの新刊。 巨大組織ソキマ・ジェスタルスは3代続くムガンドゥ一族の束ねる海賊。世界最強を自負する帝国の魔導艦隊が海賊に要求するものは、密室殺人の容疑者引き渡し。一瞬即発の膠着状態を仲介するために、レーゼは依頼を受けた。海賊と帝国の仲介の行方、そして殺人事件の真相は…。 上遠野氏の物語はファンタジックなのになにかこう…死生観みたいなものがあるんですよね。これはこのシリーズにもしかり。 今回の主人公はもうずばり、イーサー・インガ・ムガンドゥ三世。EDもかっこよくはあるんですが、三世の毒気にはかないませんね。年齢不詳だし、ボーイさんになりすましてるし、殺しても死なないし、不遜で頭キレて、もう本当にすてき。最後のシーンのレーゼになりたいです。 さて、次は“禁涙境事件”ですか。いつになるのでしょう。期待しないで待ってます。
「私は――いや、僕は」 少年のような表情になって、彼はぽつりと囁くように言う。 「僕が、なにものなのか知りたいんだよ――」
上遠野浩平:海賊島事件 the man in pirate's island,p.293,講談社.
2002年12月14日(土) |
試験に出ないパズル 千葉千波の事件日記九月〜一月/高田崇史 |
千波くんの事件日記シリーズの第3弾です。もしかして、このシリーズの最終巻なんでしょうか。最後まで主人公”ぴいくん=八丁堀”の本名は不明のままでしたが…。 日常にある論理パズルがメイン(?)の九月から一月までの短編5つと、いつもどおりの解答編「追伸簿」もついてます。 今回の解説は有栖川有栖さんです。このシリーズ、すごい人ばかりが解説書きますね。みなさんきっとパズラーなんでしょうね。 私は全然パズラーでもないし、千波くんのパズル解きに拘っていない、むしろぴいくんのような人間なので、パズルを必死に解こうとは思わないのですが、ついついこのシリーズは読んでしまいます。話自体がとてもおもしろいので。 とうとう一月まできて、ぴいくんと慎之介の浪人生活も終わりってことでシリーズ終了なんでしょうね。できるなら、千波くんも大学生になった2年後の話が読みたいです。まぁ、スラリサラリパサリで頭脳明晰な千波くんとぴいくんが同じ大学に行くなんてことはありえないと思うのですが…。
でも、試験なんて運が65%だっていうからね。これは決して言い訳じゃないよ。きちんとした統計に基づいてるんだ。但し、ぼくの経験上だけど。(「追伸簿」より)
高田崇史:試験に出ないパズル 千葉千波の事件日記九月〜一月,p.277,講談社.
奇談シリーズの新刊です。15作目ですか…。 クリスマス・イヴに持ち込まれた依頼。それは思い出のテーマパークからだった。テーマパークでふたりを待っていたのは…。 いやぁ、このシリーズどんどん甘くなりますが、進展はあまりしません。じれったい。
「(前略)俺のいるところがいつだって君の居場所だと、そう自惚れさせてくれるんじゃなかったのかい?」
椹野道流:楽園奇談,p.262,講談社.
2002年12月06日(金) |
スリー・アゲーツ The Three Agates 三つの瑪瑙/五條瑛 |
鉱物シリーズ第2弾の文庫版です。 700p以上はさすがに分厚いです。でも前作プラチナ・ビーズの文庫版よりは若干薄い(というよりも軽い)ですね。 日本に潜入した北朝鮮の工作員チョン。彼の任務とは?そして男のもつ北朝鮮と日本のふたつの家族はどうなるのか。国家と家族の間で男は…。 このお話は”家族”について考えさせられます。自分にとっての家族の存在ってなんだろう、家族のために自分がすることって…。 前作のようなガン・アクションはないけど、葉山さんのアナリストとしての成長(なんと言ってもあのエディさんと取り引きをするほど)も感じることができます。文庫版恒例(?)の書き下ろし短編「Game」も意味深でおもしろい。 シリーズの次巻「THE PERFECT QUARTZ」が早く読みたいですね。
「カーブは投げられないのか?」 「練習したことがありません」 「覚えておくことだ」 「なぜ?」(略) 「変化球があった方が、よりゲームをエンジョイできる。ベースボールも情報戦も同じだ」(「Game」より)
五條瑛:スリー・アゲーツ The Three Agates 三つの瑪瑙,p.735,集英社.
2002年12月01日(日) |
カラフル colorful/森絵都 |
気づくとぼくは魂だった。そしていいかげんな天使が、一度死んだはずのぼくに言った。「おめでとうございます、抽選にあたりました!」 そんなわけで、(ありがたくもないけど)ぼくは下界に戻され、他人(小林真)の体にホームステイすることになった。 ホームステイしている間に、ぼくが生前犯した罪を思い出さなければいけない。ぼくの犯した罪って…。 最近はまっている、森絵都さんです。 こののほほんとしていて、それでいていろんなことを訴えかけてくるこの感じが好きです。 森絵都さんのお話は、今読んでもおもしろいのですが、主人公と同世代の頃に読むことができたら、もっといろんなことを感じただろうな、と思います。 天使さんが、おもしろくてやさしくてちょっと冷たくてステキです。
「(略)今日と明日はぜんぜんちがう。明日っていうのは今日のつづきじゃないんだ(後略)」
森絵都:カラフル colorful,p.239,理論社.
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