A Will
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2005年09月22日(木) 題名、後ほど。

京ちゃんが死んだとき前田さんはまだこの町にはいなかった。

前田さんが、いつこの町に来たのか私はちっとも知らなかったし、
そのことについて前田さんに聞いたことも、また聞きたいと思ったこともない。



ただ。
京ちゃんが生きてるときと死んだとき、前田さんはこの町にはいなかったのだ。




















前田さんの肩に乗ったインコが、ピョンと跳ねる。
羽が短く切られてるインコは、そのまま地面にポトリと落ちた。


前田さんのちょっと長い前髪からのぞく細い目が、もっと細められた。



「なんか、まつりちゃんに似てるよね」



インコを優しく肩に乗せて、前田さんは表情を変えずにいった。
きっと、本当にただ単純な感想だったのだろう。






空は、気持ちが良いほど曇天だった。


仰ぐと涙が出そうだから、私はただ前ばかり見てた。


泣きたいときは泣けば良い、なんてそんな気の利いたことを言うような人じゃない。
泣いたって頭を撫でてくれるとか抱きしめてくれるとか、そんな人でもない。


ちょっと長い前髪からのぞく細い目が、きっと面倒くさそうに歪むだけだ。

















この日も曇天。

前田さんは、何一つ知らないから、
私は前田さんの前でだけなら、思う存分に悲しむことができた。


前田さんはちょっとだけ面倒そうに、いつだって黙ってる。



だけど、この日は珍しく口を開いた。
口を開くと同時に、私の手に触れた。


「君は僕を保健室か何かと勘違いしてない?」



いつもの面倒そうな感じじゃなくって、もっと楽しい冗談みたいな、そんな感じ。




前田さん=保健室

・・・・・・・・・・・・。うん、確かに。



















前田さんには、もう会ってない。
もしかしたら、前田さんのことだから、どこかで誰かの保健室でもしてるかもしれない。




前田さんに救われたことなんて一度だってない。

でも掬い上げられてる。いつも。こんなにも。




















題名『気持ちの良い曇天だったので、、』  

まつり


2005年09月19日(月) 帰りたくない子。

それは1つの小さな癖だった。
小学校5年生からの小さな習慣。

家の玄関を開ける前に、必ず中の物音を確認してから家に入ってた。


中で喧嘩していたら、ものの落ちる音とか壊れる音とか怒鳴り声とか。
聞こえても、聞こえてなくても、
わたしは素知らぬ顔で「ただいま」を言うしかなかったのだけれど。





怒る人は嫌い。
だって人の話聞かないんだもん。






楽しい話題を見つけてた。
楽しくないと、不穏な空気が流れはじめると心臓がバタバタしちゃって仕方なかった。




我慢、という言葉を覚えたのはいつだったんだろう。







黙って、わたしを全否定するセリフを聞いてればそれで済んだ。
時々は殴られたりしたけれど、それはそれで痛いだけで済むからどうでもよかった。



わたしは、部屋も片付けられないダメな子で、
そうして、ちっとも家族を大切になんかしない冷たい子で、
家族じゃないみたいな子供、らしい。



あぁそうなのか、と黙って聞いていた。





伝えたいことが思い浮かばなかった。
聞いて欲しい出来事が、ずっと昔から家に帰ると萎むのが反射みたいになって、

ただ、黙って、怒ってる顔を見てれば、時間がどうにか過ぎてくれるのを知ってるから。






「分かって欲しいことなんか1つもないよ。そうやって育てられたんだよ」

やっと言った一言に、なんで傷ついた顔をされなきゃならないんだろう。





分かってもらおうなんて、あの頃に本気でそんなことを目指してたら、
わたしきっと耐えられなくて死んじゃってたに決まってる。


何回、同じ事を求めれば良いの。
何回、同じ事で傷つけば良いの。



悪いけど、そんなの飽きちゃうよ。






どうして、そんなことにさえ気付かないんだろう。






わかんなかった。
わかりたくもなかった。


ホント微塵もうっすらとも興味を抱かせない。











嫌いなんだ、と言ったわたしに、君は急に笑ってあの時
「厄介だね」と一言いってくれたのを、ふと思い出した。




家族がいなくて不自由なのと
家族があって不自由なのと、どっちがどれだけ不便かな、と言い合った。




ないよりは、あるほうが便利だよ。多分ね、と結論。





家族って苦手。

苦手、というよりは嫌いなんだ。どちらかといえば。




けれど大切。ものすごく。




だから思う。


家族って悲劇。


2005年09月15日(木) 秋。恋色。

高速道路。140キロのスピード。広がってるのは都会の夜景。


ふと、誰かに抱かれたい、と思った。
それが誰なのか分からなくて、けれど隣で運転してるこの人じゃないことに、
珍しくも罪悪感なんかを感じたりした。



窓を大きく開けて、入り込む風を半ば暴力的だと思いながら、
乱れる髪の毛をまとめようとも思わないでそのままにしてた。


乱れてるよ。すごいよ。

その指摘に笑い返したら、そのまま窓を閉められた。





悲しかった。なんだかすごく。
どうしようもなかった。どうしてなんだろう、と何度も思った。




欲しいものは手に入らないのに。

欲しくないものは、こうも容易い。









優しくされたいだけなのだ。
優しい人が、ただ一晩中一緒にいてくれれば満足なのに。


優しい人に会ったことは未だない。


一緒に夜を過そうとすると、どうしても食い違いが生じる。
「そんなつもりじゃない」と言ったところで通じたことなんかない。


どういうわけか、わたしも容易く受け入れてしまうのがダメなんだけど。






ダメだ。ネガティブすぎる・・・

うん。けど。涼しい秋風に吹かれてると、恋したいなぁって思うよね。


2005年09月07日(水) なんにもなかったよ。

まさか、読まれてるなんて思わなかった。
正直に書きすぎた。あぁ、失敗。


失敗は。
正直になってしまうことだ。

楽なんて求めるもんじゃないね。




あの人と寝ました、と言ったら、どうしようもないらしい。


寝るなんて、わたしにとったら大したことじゃなくて、
どうでも良いことで、だからもう面倒くさい。


好きだといわれる。
心が動かない。


捨てて欲しい。見限って欲しい。



わたしは、もう、1人でいい。






これの、どこまでが真実か、どうしてそんなことが大切だって思うの?




本当のことってそんなに大切?






何も欲しくない。
ただ、わたしはちょっと休みたいだけ。

この夏、はしゃぎすぎたから。


少し、休みたいのに。





わたしを責める、君は紛れもなく正当。
まったく信じられないくらい、真っ直ぐで正直なんだね。



それに見合うだけの、何かをわたしも持ってれば良いんだけど。




わたしは、あんまり現実を生きたいなんて思わないよ。







愛してる愛してる愛してる。


ねぇ、これ、どこまでが本当だと思うの?




わたしを信じるっていうなら
わたしは君を今度こそちゃんと疑おうと思うよ。


2005年09月04日(日) なくしたから良かった。

深夜の「会いたい」に最後だからと応えてもらった。


手をつないで、近所の土手を歩いて、
ぎゅうぎゅうと繋いだ手からほろほろ零れてしまいそうだと、
なんとなく思った。


あぁ。9月になってしまったのだ。



サンダルを履くのはやめよう。
タンクトップでうろつくのもやめよう。
爪の色もオレンジからもっと落ち着いた色にしよう。




相変わらずの、優しい手つきに、苛々した。
乱暴でよかった。無理やりで良かった。意地悪でよかった。


優しさなんて感じたくなかった。






優しい、ずるい、愛しい人だから。

いつだって喜んで騙される準備はできてるのだ。





ありがと。ほんとにありがとう。どうもありがと。

何度も思ったよ。
良かったって思えちゃうの。強がりじゃなくて。



すごいね。




また今度。


それが、もう二度となくなっただけなのに。
そのことがこんなに悲しいなんて。





でも、悲しくてよかった。


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