朝から火事があった。家からも見えた。山の上に住んでいるので、時々火事が見える。
　ニュースによれば、燃えたのは居酒屋さんだった。その店に行ったことはなかったけれど、前にあったうどん屋さんには、結婚前後にダンナとよく通った。建物の中に屋台を突っ込んだ店だった。うどんが注文されると、お湯の中で揺れていた昔話に出てくるような大きな徳利から、どんどんダシが注がれる。もちろん注ぎ足しながら使っていたのだろうけど、注ぐところしか見たことがなかったから、いつまでも減らない魔法の徳利のようにも見えた。煮込んだすじ肉が乗ったうどんが大好きだった。おぼろ昆布が乗ったこんぶうどんも時々頼んだ。おでんと熱燗も。店の名前は覚えていないが、あちこちにエスパーシールが貼ってあったので、「エスパーうどん」と呼んでいた。コシも何もない、長崎らしい、細くてほの甘いうどん。エスパーうどんはとっくの昔になくて、屋台が突っ込んでいた建物だけが居酒屋となって残っていて、そこを通るたびにちらりとエスパーうどんを思い出していたのだが、今朝、そこが焼けた。

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