今日の日経を題材に法律問題をコメント

2015年11月27日(金) オウム真理教元信者の菊地被告に無罪判決

 日経(H27.11.28)1面で、1995年の東京都庁小包爆弾事件で、殺人未遂ほう助罪などに問われたオウム真理教元信者、菊地被告の控訴審で、東京高裁は、懲役5年とした一審の裁判員裁判判決を破棄し、無罪判決を言い渡したと報じていた。


 菊地被告は「運んだ薬品が人を殺傷する事件に使われる認識はなかった」として無罪を主張していた。


 しかし、一審裁判員裁判では、井上死刑囚の「本人に爆薬を見せた」という証言は信用できるとして、有罪の判断をしていた。


 ところが、東京高裁は、井上証言は信用できないとして、菊地被告に無罪判決を言い渡したのである。


 ある証言が信用できるかどうかはなかなか微妙であり、いずれの結論になったとしても、明らかに不合理とはいえない場合が多い。


 最高裁は、一審裁判員裁判における事実認定は原則として尊重せよと述べている。


 それゆえ、一審裁判員裁判で、その証言は信用できると判断したことについて、控訴審で「信用できない」と判断することは、最高裁の基準に外れているように思われる。


 それゆえ、最高裁で、再度判断が覆されることがあるかも知れない。



2015年11月26日(木)

 日経(H27.11.26)1面で、「1票の格差」が最大2.13倍だった2014年12月の衆院選は違憲だとして、選挙無効を求めた計17件の訴訟で、最高裁大法廷は、違憲状態であるとしたが、選挙無効の請求は退けたと報じていた。


 記事では多数意見、少数意見などの要旨も掲載していた。


 それでは十分に分からないが、判決全文を読むと、各裁判官は真剣に悩み、自分の良心のみに従って意見を書いていることがよく分かる。


 そうなのであるが、弁護出身の3人の裁判官が「違憲」の反対意見を書きけ、行政官出身と検察官出身の2人が合憲の意見を書いているのが興味深い。



2015年11月24日(火) 判決期日が延期される理由

 日経(H27.11.24)社会面で、韓国の朴大統領らの名誉を傷つける記事を書いたとして起訴された産経新聞前ソウル支局長の判決が、今月26日から12月17日へ延期されたという記事か載っていた。


 判決日が延期された理由は明らかにされていない。


 ただ、日本の裁判で判決が延期されるケースとして多いのは、裁判官が判決を書いているうちに、その証拠からは、考えていた判決を書けないと思ったときである。


 ある結論を持ったとしても、書面を作成しているうちに、その結論にたどり着かないことが分かってくるのである。


 例えば、有罪の心証を得て判決を書き始めたが、現在ある証拠からは有罪を認定できないことが分かるのである。


 その場合には判決の書き直しになるので、判決期日を延期せざるを得ない。


 逆に、無罪と考えて判決を書き始めたが、証拠からして無罪判決は書けないと思うようになることもあり得るが、ケースとしては少ないのではないだろうか。


 もっとも、外国の裁判のことなので、判決が延期された理由について、上記のことが当てはまるかどうかは分からない。



2015年11月20日(金) 東芝の「ガバナンス強化」について

 日経(H27.11.20)企業面の企業ガバナンスに関する連載記事で、東芝の不正な会計操作について書いていた。


 記事では、「東芝では、過去を反省し、ガバナンスを強化した」と評価しつつ、旧経営陣のうち5人のみを損害賠償の対象としたことについて疑問を呈していた。


 請求金額も合計で3億円と、東芝が被った損害額に比較して金額がかなり少ないように思う。


 東芝は、これまでも、不正な会計操作であるにもかかわらず、「不適切会計」と責任逃れの言い方をしている。


 「ガバナンスを強化した」というが、本当に社外取締役が機能しているのかという疑問はある。



2015年11月18日(水) 妊娠を理由とした降格

 日経(H27.11.18)社会面で、広島市の病院に勤務していた女性が妊娠を理由に降格されたについて、広島高裁は、降格を適法とした一審・広島地裁判決を変更し、約175万円の賠償を病院側に命じたと報じていた。


 この事件では、最高裁が、「妊娠による降格は原則禁止であり、自由意思で同意しているか、業務上の理由など特段の事情がなければ違法で無効」との初判断を示して、広島高裁に差し戻していたから、違法とする結論は予想されていた。


 ところで、最高裁では、妊娠中の降格が違法か否かのみを判断した、原審では、育児休業からの復帰後の職場配置についても争われていた。


 そして、育児休業から復帰後の職場配置が降格になる場合には、先の最高裁判決の考え方からすれば、業務上の必要性がある場合や、本人が同意している場合に限られることになる。(最高裁の補足意見でも同旨のことが述べられている。)


 したがって、育児休業から復帰後にどの職場に配置するかは、本人の希望も考慮しつつ、予め職場を明示しておき、本人の同意を取っておくことが重要になると思われる。



2015年11月17日(火) 労務管理が稚拙である

 日経(H27.11.17)社会面で、福島第一原発事故直後に国外に避難したことを理由に契約を解除されたのは不当だとして、NHK委託スタッフだったフランス人女性が解除の無効確認などを求めた訴訟で、東京地裁は、契約解除は無効と認め、NHK側に約510万円の支払いを命じたと報じていた。


 この女性は業務を行わなかったのであるから、債務を履行していないことになる。


 したがって、理屈から言えば解除は可能なはずである。


 ただ、この女性スタッフは3月15日に出国し、それに対しNHKは、3月24日に解除通知をしており、これは解除が早すぎである。


 勤務していないので給与は発生しないのであるから、そんなに焦る必要はない。


 それゆえ、NHKは、もう少し時間をかけて、そのスタッフの再来日の可能性などを探るべきであった。


 労務管理の稚拙さが出た事案であると思う。



2015年11月16日(月) 著作権侵害の非親告罪化

 日経(H27.11.16)法務面で、文化審議会は、著作権侵害の処罰を著作権者による告訴がいらない非親告罪とすることに関し、パロディーなどの二次創作に影響が出ないようにするため、海賊版にのみ非親告罪を適用する方向であるという記事が載っていた。


 著作権侵害について非親告罪化した場合、権利者の意図に関係なく、捜査機関が独自に捜査できることになる。


 もっとも、捜査機関は、権利者に被害届を提出させるであろうから、「権利者の意図に関係なく」捜査するということはなく、捜査の実態はこれまでとあまり変わらないとは思う。


 ただ、非親告罪になれば二次的創作において萎縮効果が生じるという問題は残る。


 それゆえ、今回改正案のように、海賊版にのみ非親告罪を適用するというのは妥当な改正であると思う。



2015年11月12日(木) 不正請求への対策

 日経(H27.11.12)社説で、東京都内の接骨院が、国民健康保険を運営する自治体から療養費をだまし取っていたとして、警視庁は暴力団幹部や柔道整復師らを詐欺の疑いで逮捕した事件について論じていた。


 社説は、「不正受給の温床になっている」と指摘されていた制度の抜本的対策を求めるものであるが、審査を厳しくすべきという程度の指摘であり、対策としては不十分のように思う。


 療養費で、保険が使えるのはねんざ、打撲など原因がはっきりしているけがに対してだけであるのに、保険対象でない施術にまで保険を適用し、療養費を自治体などに請求するケースが多数ある。


 また、医療費についても、行っていない治療まで請求するなどの不正請求が数多く存在する。


 実際、医療過誤事件でカルテなどを開示させたことがあるが、多数の不正請求がなされていた。


 これらの不正請求は詐欺罪に該当するケースが多いと思われる。


 今回の事件は、暴力団が介在し、組織的で極めて悪質なので警察が捜査に入ったのであろうが、不正請求が蔓延している現状では、もう少し積極的に捜査すべきではないだろうか。



2015年11月10日(火) 東芝の調査委員会の報告には問題がある

 日経(H27.11.10)1面で、東芝が、会計不祥事を調査した役員責任調査委員会の報告書を公表したという記事が載っといた。


 その報告書では、西田厚聡元社長ら5人が、不適切会計を防いだり是正したりする「善管注意義務」に違反していたと指摘し、5人に対して不祥事で生じた損害の賠償責任を追及するのが相当としている。


 ただ、5人の行為は「個人の利益を目的としたものでもなく、会社に特別の損害を加えようと画策したものでもない」として、損害額の算定などでそうした点を考慮する余地があるとしている。


 しかし、損害賠償請求における請求額は、実際の損害額が基準になるべきであり、個人の利益を目的としたかどうかは、損害の算定にはほとんど影響しない。(悪質性という意味で、増額の要素にはなるかも知れないが)


 確かに、個人に対する請求であるから、巨額の賠償金を請求しても現実的ではない。


 それゆえ、請求額を決めるにあたって、役員の支払能力を考慮することはあり得る。


 しかし、個人の利益の目的の有無や、会社に特別の損害を加えようと画策したか否かを請求額の算定において考慮するのはおかしいのではないだろうか。


 調査委員会の報告には問題があるように思う。



2015年11月09日(月) 被害者参加制度の対象事件外の事件に被害者が参加

日経(H27.11.9)夕刊で、 被害者参加制度の対象ではない事件で、検察官を通じて被害者参加の申し出があり、東京地裁が対象事件でないことに気付かずに許可していたという記事が載っていた。


 ただ、控訴審の東京高裁は「訴訟手続きに法令違反があることは明らか」としつつ、量刑には影響しないとして懲役3年を維持している。


 しかし、被害者が参加することにより、被害感情を直接訴えているのに、量刑に影響はなかったのだろうか。


 逆に、被害者が参加しているのに量刑に影響がなかったとすると、被害者参加制度の意義は半減することになのではないだろうか。



2015年11月05日(木) 製品に瑕疵がある可能性があるのに、そのまま出荷していいのか

 日経(H27.11.5)3面で、エアバッグメーカーであるタカタの主要取引先のホンダが、タカタ製エアバッグ部品の採用中止を表明したという記事が載っていた。


 ホンダに出した性能評価で不適切なデータが見つかったことが原因のようである。


 アメリカでは、運輸当局への情報提供が遅れたことへの制裁として、7千万ドルの制裁金が課されている。


 タカタはグローバル企業と思っていたが、実際の対応は泥縄的であり、会社の危機管理がきちんとできていないように思われる。


 そもそも異常破裂の原因が不明なのであるのだから、今後出荷する製品にも瑕疵がある可能性がある。


 しかも、その瑕疵によって人の死亡という重大事故が発生しているのである。


 そうであるのに、そのまま製造・出荷していいのかと思うのだが。



2015年11月04日(水) 『再婚禁止期間』と『夫婦同姓』について最高裁大法廷で弁論が開かれる

 日経(H27.11.4)夕刊で、女性の再婚禁止期間を定めた規定が憲法違反かどうかの訴訟で、最高裁大法廷は、当事者双方の意見を聞く弁論を開いたと報じていた。
 
 また、同日、「夫婦別姓」を認めない民法の規定が違憲かを問う訴訟の弁論も大法廷で開かれる。


 大法廷で弁論が開かれることは、数日前からマスコミが報じており、関心の高さがうかがわれる。


 再婚禁止期間については、6か月間とすることに合理性があるとは思えないので、場合によっては、違憲判断が多数意見になるかも知れない。


 他方、「夫婦別姓」については、世間の見解は分かれていることもあり、立法裁量の問題であるとして、全員一致で「夫婦同姓」とすることについて合憲と判断されるのではないだろうか。


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