今日の日経を題材に法律問題をコメント

2015年10月30日(金) 住宅検査官による検査制度の必要性

 日経(H27.10.30)総合面で、旭化成子会社の旭化成建材による横浜市のマンション杭打ち工事のデータ改ざん事件で、新たに北海道釧路市の道営住宅2カ所と横浜市の中学校でデータ改ざんが見つかったと報じていた。


 問題が担当者個人の不正でなく、会社の体質の問題であったことが判明したといえる。


 おそらく今後もデータ改ざんの事実か明らかになるであろうし、それは旭化成建材に止まらないと思われる。


 かつて日弁連は、欠陥住宅被害を防止するために、第三者としての住宅検査官による検査制度の導入を提言したことがある。


 ただ、検査費用が最終的に住宅購入者の負担となることから、その提言は見向きもされなかったように思う。


 しかし、今回のデータ改ざん事件によって、そのような検査制度の必要性が現実化してきたのかも知れない。



2015年10月29日(木) 著作権と著作者人格権

 日経(H27.10.29)夕刊で、法律専門雑誌「著作権判例百選」の改訂版が著作権を侵害するとして、東京地裁が、出版社の有斐閣に出版差し止めを命じる仮処分の決定を出したという記事が載っていた。


 記事では、「著作物に氏名を表示するかどうかは著作者の権利として認められており、大渕氏は、氏名を載せないのは著作権侵害だと仮処分を申し立てていた。」とある。


 しかし、著作者名を表示する権利(氏名表示権)は著作者人格権の一つであり、著作権ではない。


 すなわち、著作者の権利としては、人格的な利益を保護する『著作者人格権』と、財産的な利益を保護する『著作権』の二つがあり、両者は権利の内容が異なる。


 したがって、「氏名を載せないのは『著作権侵害』だと仮処分を申し立てていた」という記事の表現は誤りであり、「著作者人格権侵害」が正しいことになる。


 記事の見出しでは「『著作権』本が著作権侵害」としていたが、受けを狙い過ぎであり、正確性に欠ける表現である。



2015年10月27日(火) 普天間基地の辺野古への移設問題

 日経(H27.10.27)政治面で、沖縄県の普天間基地の名護市辺野古への移設をめぐり、石井国土交通相は、辺野古埋め立て承認を取り消した県の処分の効力を停止する方針を固めたと報じていた。


 この件は、いずれは沖縄県と国とで訴訟になる可能性がある。


 沖縄県は、公有水面埋立法に基づく仲井真弘多前知事による辺野古の埋め立て承認は「法的瑕疵がある」としている。


 その場合、裁判所は、もっぱら手続き上の瑕疵があるかどうかを争点とすると思われる。


 手続き上の瑕疵とは、例えば、会社内部の争いであれば、株主への通知を怠って株主総会を開催したというたぐいのものである。


 言い換えれば、「埋め立ての必要性はない」と言った主張は通らないのではないだろうか。


 普天間基地の辺野古への移設については議論があるところであり、すべてを沖縄県に押し付けてよいのかとは思うが、裁判上の問題に限定していえば、沖縄県の主張は無理筋のように思われる。



2015年10月23日(金) 大阪の放火事件で再審開始決定

 日経(H27.10.26)夕刊で、大阪市で1995年に女児が死亡した火災で、殺人や現住建造物等放火などの罪で無期懲役の判決が確定した母親ら元被告2人の再審開始決定に対する即時抗告審で、大阪高裁は、再審開始を認めた大阪地裁決定を支持し、検察側の即時抗告を棄却したと報じていた。


 この事件では、弁護側が火災の再現実験を実施して、放火でなく自然発火の可能性を指摘しており、それが再審開始の有力な証拠となった。


 その火災の再現実験には数百万円の費用が必要だったと思われるが、それは弁護士団の手弁当であろう。


 弁護団の熱心な弁護活動に脱帽である。



2015年10月22日(木) 週刊新潮の記事

日経(H27.10.22)5面下の週刊新潮の広告で、「下着ドロボーから大出世 高木毅復興相の露出壁」という見出しが載っていた。


 これが事実でないとすると、ひどい中傷である。


 仮に高木復興相が名誉棄損で訴えた場合、週刊新潮は、これが事実であるか、相当な資料に基づき事実と信じたことを証明しなければならない。


 しかし、高木復興相は訴訟提起しないようである。


 裁判によって、真実が暴かれるのを避けたのかもしれない。


 ただ、大臣という公的な立場とはいえ、30年も前のことであり、しかも立件もされていないことをここまで大騒ぎする必要があるのかと思う。



2015年10月21日(水) 臨時会の招集決定義務

 日経(H27.10.21)夕刊で、野党5党が、憲法53条の規定に基づき臨時国会を召集するよう衆院議長に申し入れたと報じていた。


 憲法53条は、衆参両院でいずれかの4分の1以上の議員が求めれば内閣に召集義務が生じると定めている。


 そして、その義務は法的義務であると解釈されている。


 ただ、内閣がいつ臨時会を開会しなければならないのかという規定がないため、議員が臨時会の開催を要求しても、数か月して招集されることがまれではなく、運用としては形骸化している。


 内閣としては、頻繁に臨時会が開催されると大変な負担であろうから、開催期日については、ある程度内閣の裁量に委ねられてよい。


 ただ、議員による臨時会招集決定の要求については憲法の明文で定めているのだから、その趣旨にできるだけ沿った運用がなされるべきではないかと思う。



2015年10月20日(火) 刑事補償法に基づき、氏名の表示

 日経でなく、朝日(H27.10.20)社会面下の広告欄で、東京高裁が、「刑事補償法による補償決定の公示」として、強姦致傷事件で無罪になった人に対し刑事補償金458万7500円を支払う決定をしたとして、その人の氏名と住所を記載していた。


 無罪になったとはいえ、氏名と住所を公開していていいのかという疑問があるかもしれない。


 しかし、これは刑事補償法に基づき、本人の申し立てによって掲載されているものである。


 本人の名誉回復と、プライバシーの尊重を考慮した、なかなか優れた制度だと思う。



2015年10月19日(月) 死刑求刑が予想される事件の弁護活動

 日経(H27.10.19)夕刊で、死刑求刑が予想される事件で適切な弁護活動をするため、日弁連が会員向け手引を作成したという記事が載っていた。


 手引きでは、死刑を回避するためには、警察や検察の捜査とは別に独自の調査をして可能な限り情報を集め、立証計画を立てるべきだと指摘しており、もっともな見解だと思う。


 ただ、被害者や遺族が裁判で被告に直接質問することができる「被害者参加」に反対したり、黙秘を勧めていることについては、議論の余地がある。


 一人の弁護人としてそのような弁護活動をすることについては、被告人が納得している限り問題はない。


 しかし、様々な議論がある中で、日弁連という公的な組織が、被害者参加に反対したり、被告人に黙秘を勧めるのはいかがなものであろうか。



2015年10月16日(金) 再婚禁止規定について

 日経(H27.10.16)社会面で、離婚後の再婚を女性にだけ6カ月間禁じた民法の規定は、法の下の平等を定めた憲法に違反するなどとして、婚姻届を受理されなかった静岡県の20代の男女と2人の間の子供が、国に計300万円の損害賠償を求める訴えを東京地裁に起こしたという記事が載っていた。


 再婚禁止期間の趣旨は、待婚なく婚姻を認めると、前婚の夫と後婚の夫とどちらが子どもの父親かが分からなくなるためである。


 しかし、そのためには6か月間も婚姻を禁止する必要はない。


 そのため、6か月間の再婚禁止規定には合理性がなく、違憲であるという見解が強い。


 再婚禁止規定については、最高裁大法廷が年内にも憲法判断が示される見通しと言われており、違憲判決が出るのではないかと思う。



2015年10月14日(水) 郵便局局長が約9億円をだまし取る

 日経(H27.10.14)社会面で、日本郵便信越支社は、長野県小諸市の諸簡易郵便局の元局長が、顧客ら約180人から計約8億9000万円をだまし取っていたと発表したという記事が載っていた。


 この元局長は、「金を預けてくれれば半年に1割の利子をつける」などとうそを言ってだまし取っていたとのことである。


 大半の被害者とは局の窓口でやりとりし、現金を預かると「預り証」を渡していたので、被害者は信用したようである。


 しかし、「半年で1割の利子」という約束は出資法に違反している。


 たとえそのような知識がなくとも、かかる高利の利息を約束する場合には、間違いなく詐欺であると思うべきである。



2015年10月13日(火) 企業秘密の管理

 今日は休刊日のため、昨日の日経(H27.10.12)法務面で、営業秘密の流出防止を目的とする改正不正競争防止法が成立し、企業の技術情報などを盗む行為に厳罰を科すことになったが、中小企業は管理が後手に回っている例が多いという記事が載っていた。


 特許庁の外郭団体が設置した窓口「営業秘密110番」では、半年で約120件の相談が寄せられ、解雇を告げられた社員が業務用端末からデータを抜き去ったり、起業した元従業員が取引先リストなどを持ち出したりした例が目立つとのことである。

 
 また記事では、取引先の部品会社から「工程サンプルが欲しい」と頼まれ、やむを得ずサンプルを渡したところ、「その会社がサンプルを東南アジアの金型メーカーに流し安く部品を作らせ」注文がゼロになった例も書いていた。


 いずれも似たような相談をいくつも受けた。


 しかし、ほとんどは訴訟提起ができなかった。


 企業の管理に問題があり、「訴訟すればこちらに有利でしょう」となかなか言えないからである。


 中小企業では、従業員であればだれでもアクセスでき、とても「秘密」と言えないことが多い。


 しかし、意識を切り替え、「秘密」と位置付けてきちんと管理することこそが重要なのである。



2015年10月09日(金) 安保保障関連法の無効確認訴訟で、却下判決

 日経(H27.10.9)社会面で 9月に成立した安全保障関連法の無効確認などを求めた訴訟が提起されたが、東京地裁は、「具体的な権利義務に関する訴えではなく不適法」として、門前払いに当たる「却下」の判決を言い渡したと報じていた。


 これまでの裁判例からすれば、予想された判決であり、訴えた側も、最初から結論は分かっていたはずである。


 裁判を政治的アピールの場にすることを全否定するつもりはないが、却下判決では政治的アピールにもならないだろう。


 少なくとも、審理が開始されるように策を練って訴訟提起すべきではないかと思う。



2015年10月07日(水) 相続争いが増えている

 日経(H27.10.6)朝刊で、「家裁の活用法 相続協議がまとまらない 裁判官が非公開で調停・審判」という見出しで、遺産の分割について相続人間で協議がまとまらないときには家庭裁判所の調停を利用することを書いていた。


 最近は相続争いが増加傾向にあり、家庭裁判所における遺産分割調停は10年間で約1.4倍になっている。


  今後も相続争いは増えると思われる。


 それゆえ、遺言書の作成が重要になるのであるが、遺留分を無視した遺言書を作成して、かえって紛争を引き起こしているケースもあるので、注意が必要である。



2015年10月05日(月) 学校は、生徒に対する安全配慮の意識が低いのではないか

 日経(H27.10.5)夕刊で、大阪府八尾市の市立中学校で今年9月の体育大会で、10段ピラミッドが崩れて男子生徒が骨折したという記事が載っていた。

 
 昨年9月にもピラミッドなどの演目中、生徒2人が右足首や足の指の骨を折ったほか、練習中に生徒2人が骨折。一昨年の練習中にも2人が骨折しているそうである。


 大阪市教委は、重大事故を防ぐため、ピラミッドの高さを5段までとする規制を採択している。


 この中学校は、その規制に反して10段ピラミッドを強行したのであるから、学校側には重大な過失がある。


 学校内では、学校側がもう少し安全配慮に気を配っていれば防げた事故がしばしば起きており、いくつも裁判例がある。


 学校側は生徒に対する安全配慮についてもっと危機意識を持つべきであると思う。



2015年10月02日(金) 司法試験の漏えいの原因

 日経(H27.10.2)2面で、司法試験の考査委員が問題を漏えいした事件で、「考査委員の任期の長期化が弊害になっている」という記事が載っていた。


 しかし、問題は任期の長期化ではなく、法科大学院教授が考査委員をしていることであろう。


 学生からすると、考査委員の教授の授業を受けると答案作成のヒントが得られるのではと期待するのは当然であり、そのような心理にさせること自体に問題である。


 また、地方で勉強をしている学生にとっては著しい不公平感をもたらしている。


 教授でないと試験問題が作成できないという懸念が指摘されているが、基本的な問題を出題すればよいのであって、裁判官などの実務家が作成することは十分可能であろうと思う。


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