今日の日経を題材に法律問題をコメント

2008年06月30日(月) コカ・コーラの容器が立体商標として認められる

 日経(H20.6.30)16面の「法務インサイド」で、立体商標の認定基準についての記事が載っていた。


 立体物も商標登録は可能であるが、容器の形状は、他の商品と区別する力(識別力)がないとされ、これまで商標登録が認められていなかった。


 今回、知財高裁は、「コカ・コーラの瓶の形状はそれ自体がブランド・シンボルと認識される」とし、立体商標登録を認めなかった特許庁の審決を取り消した。


 おそらく、コカ・コーラの例が特殊というのではなく、今後も容器の形状について立体商標を認めるケースは増えると思われる。


 ただ、そのためには、識別力を希薄化させず、「ブランド・シンボルとして認識させる」ための企業努力が必要ということだろう。



2008年06月27日(金) もう少し分かりやすくなすように工夫できないのか

 日経(H20.6.27)社会面に、うなぎの産地偽装問題で、兵庫県警と徳島県警は合同捜査本部を設置へ協議を始めたと報じていた。


 原産地を誤認させるような行為をした場合には不正競争防止法違反となり、それを「不正の目的をもって」行った場合には刑事罰が課される。


 この事件は架空の会社を介在させるなど極めて悪質であるから、捜査の対象となることは当然であろう。


 それにしても、産地を誤認させる行為を規制する不正競争防止法の規定は分かりにくい。


 不正競争防止法2条1項13号は次のように規定している。


 商品若しくは役務若しくはその広告若しくは取引に用いる書類若しくは通信にその商品の原産地、品質、内容、製造方法、用途若しくは数量若しくはその役務の質、内容、用途若しくは数量について誤認させるような表示をし、又はその表示をした商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供し、若しくはその表示をして役務を提供する行為


 これを一読して分かる人は天才である。



2008年06月26日(木) 「死に神」という表現はいかがなものか

 日経(H20.6.26)社会面に、死刑が確定した後、短期間で死刑執行に署名した鳩山法相を「死に神」と表現した朝日新聞に対し、『全国犯罪被害者の会』が抗議したと報じていた。


 「死に神」と言う以上、朝日新聞の論調は死刑に反対なのだろう。


 もちろん、死刑制度廃止論は傾聴に値する意見であるし、その立場からすれば死刑執行に批判することは当然である。


 しかし、法相だってよろこんで死刑執行に署名しているわけではないはずである。


 それを「死に神」と揶揄することによって、死刑反対を主張するという姿勢はどうか思う。



2008年06月25日(水) 最高裁が懲罰的損害賠償を認める?

 日経(H20.6.25)社会面に、投資詐欺事件に遭い、被害者が損害賠償請求した事件で、最高裁は、損害額から配当金を差し引くことを認めなかったという記事が載っていた。


 2審では損害額から配当金を差し引いていた額を「損害」と認定していたが、これを破棄したものである。


 アメリカでは懲罰的損害賠償という考え方が認められており、実際の損害の何倍もの損害賠償請求が認められる場合がある。


 しかし、日本での従来の考え方は、実際に受けた損害しか請求できないというものであり、懲罰的損害賠償という考えはとっていなかった。


 ところが、最高裁が配当金を控除することを認めなかったということは、損害以上の請求を認めたことになる。


 先日、最高裁は、ヤミ金被害に遭った被害者が損害賠償請求を求めた事件で、最初に受け取った借入金を損害額から控除することを認めなかったが、今回の判決は、これと軌を一にした考え方であろう。


 これらの最高裁の判決は、損害以上の請求を認めないという伝統的考え方を改め、懲罰的損害賠償請求を認める小さな一歩なのかもしれない。



2008年06月24日(火) 松本被告の弁護人を懲戒審査へ

 日経(H20.6.24)社会面に、オウム真理教の松本被告を担当した松井弁護士が期限までに控訴趣意書を提出しなかった問題で、東京弁護士会は、懲戒が審査相当としたと報じていた。


 懲戒請求は2段階に分かれており、綱紀委員会でいったんふるいをかけ、審査が相当と判断した件についてだけ、懲戒委員会で審査する。


 松井弁護士の懲戒請求は、綱紀委員会でふるいをかけられ、これから懲戒委員会で審査するわけだから、審査結果が出るのはまだまだ先である。


 控訴趣意書を提出せず控訴棄却となったのは2年以上前だから、時間がかかりすぎと言われても仕方なく、結論を引き延ばして身内をかばおうとしているのではないかとも思われかねない。


 もちろん、意識的に引き延ばしているはずがなく、懲戒請求が多く、しかもこの件だけを優先的に審査するわけにはいかないという事情があるのだと思う。(懲戒請求が、控訴棄却直後でなく、大分遅れてなされた可能性もある)


 ただ、このような社会的に注目されている件については、優先的に審査することもあってはいいのではないかと思う。(ちなみに、私は、控訴趣意書を提出しないことは、懲戒事由にあたると思う)



2008年06月20日(金) 個人責任の追及だけに終わらせてはいけない

 日経(H20.6.20)社会面に、小6年生の転落死の続報がされていた。


 それによれば、杉並区が、設計士に、「屋上には児童は入らない」と説明したため、その設計士は安全柵を設置しなかった、それにもかかわらず、学校は児童の立ち入りをさせていたということである。


 この事件の責任が誰にあるかを追及することは大事なことであろう。

 
 しかし、それだけでは根本的解決にはならず、再発防止策としても、「生徒を屋上に上げない」「鍵をかける」とする程度で終わってしまいかねない。


 事故のあった校舎は、天窓に登ることができ、落下を防止する措置も講じていないのだから、建物の設置自体に瑕疵があるといえる。


 その場合には、たとえ管理者に過失がないとしても、公共団体には損害賠償義務がある(国賠法2条)。


 責任の追及に終始するだけでなく、構造上の欠陥であることを強く認識し、早急に安全柵を取り付けるなどの対策を講じることこそが重要であろう。


 以前、プールの排水口のふたが取り外しできるようになっており、そのため排水口に吸い込まれる事故が相次いだが、ふたが取り外しできることが欠陥であるという認識が薄く、そのためすべての学校で改善がなされたわけではなかった。


 それと同じ轍を踏んではいけないと思う。



2008年06月19日(木) 小6の生徒が天窓から転落死−校舎の構造に瑕疵があるのではないか

 日経(H20.6.19)社会面トップに、小学6年の生徒が校舎屋上に設置された天窓を破り、12メートル下のホールに転落して死亡したという記事が載っていた。


 設計上、天窓に人が乗ることは想定していなかったそうであるが、それは想定しないほうがおかしいのではないか。


 天窓の下には金属製の網をはめておき、万一のときの落下防止策を施しておくべきであろう。(この校舎では強化ガラスがはめ込まれていたが、それも突き破っている)


 そのような落下防止策を施していなかったこと自体が瑕疵といえるのではないだろうか。


 今後、引率した教諭の刑事責任が問題になるのだろうが、それ以上に学校や区の責任が問題にされるべきであると思う。



2008年06月17日(火) ストーカー判事に最高裁が訴追請求

 日経(H20.6.17)社会面に、ストーカー規制法違反で起訴された判事に対し、最高裁は、国会の訴追委員会に罷免のための訴追を請求したという記事が載っていた。


これまで訴追請求されたのは、

「一週間の無断欠勤」(罷免せず)
「知人への家宅捜索示唆」(罷免せず)
「略式命令請求事件失効」
「当事者から飲食の提供」
「首相へのニセ電話」
「破産管財人からの物品の提供」
「児童買春」

である。(Wikipediaより)


 60数年間のうち、訴追されたのがこれだけというのはあまりに少ない。


 公表せずに、依願退職などで処理したのもあるのではないかと疑ってしまう。



2008年06月16日(月) 「関連検索」「キャッシュ」は適法か

 日経(H20.6.16)13面に、ネット中傷に企業が悩むという記事が載っていた。


 記事によれば、ある住宅関連会社では、検索エンジンで自社名を入力すると、「関連検索」で、「自社名 悪徳」などと表示されることから、検索サービス会社に対し、表示の差し止めを求める仮処分を申し立てたそうである。


 しかし、裁判所は、「自社名 悪徳」と表示されても、「その会社が悪徳である」と表示したことにはならず、「名誉毀損にあたらない」として請求を退けた。
 

 検索エンジンについては、「キャッシュ」機能が著作権侵害ではないかという問題もある。


 この点は、アメリカでは訴訟になったが、裁判所は「グーグルの行為はプロバイダーが行っているのと同じで、故意がなく著作権侵害ではない」と判断したそうである。


 「グーグルの行為がプロバイダーと同じ」なのか、「故意がない」といえるのかは疑問である。


 しかし、「「関連検索」も「キャッシュ」も、その有用性に着目すると、価値判断として違法とすることはできないということなのだろう。



2008年06月13日(金) 東京高裁が株主名簿閲覧請求を認める

 日経(H20.6.13)11面に、株主の原弘産が、TOBを提案している日本ハウズイングの株式名簿閲覧・謄写を求めた事件で、東京高裁は、東京地裁の決定を取り消し、閲覧・謄写を認める決定をしたと報じていた。


 会社法では、株主は、いつでも株主名簿の閲覧等者請求ができるとしつつ、請求している株主と会社とが競争関係にあるときなどは閲覧を拒否できるとしている。(会社法の制定で新しく規定された)


 しかし、「競争関係にある場合には閲覧請求を拒否できる」という規定については、M&Aの場合は競業関係にあることが多いため、委任状勧誘の障害になるとして批判されていた。


 他方、株主名簿は誰が会社に出資しているかの名簿であるから、会社にとって重要な情報である。


 とくに競争会社には知られたくない情報であろう。


 また、他の株主にも、安易に自分の個人情報を知られたくないという利益があるだろう。


 これらの利益を総合考慮する必要があり、なかなか難しい問題である。

(以前、競争関係にある場合は閲覧を拒絶できるという会社法の規定は問題であると書いたかもしれないが、そう簡単に言える問題ではないようである)


 一審は、閲覧請求を認めなかった。


 これに対し、東京高裁は、「株主の権利行使のための調査目的であると証明できたとき」という条件をつけつつも、閲覧請求を認めたものである。


 日経にしては小さな扱いの記事だったが、重要な判例だと思う。



2008年06月12日(木) 悪質商法に対する規制を強化

 日経(H20.6.12)7面に、悪質な訪問販売などを規制するために改正した特定商取引法と割賦販売法が成立したと報じていた。


 改正割賦販売法では、販売方法に問題があれば、すでに支払った代金の返還も可能となった。


 悪質商法では、高額商品を売りつけ、それを分割払い契約させることが多い。


 分割払いだから、当然信販会社を使う。

 
 信販会社としては取扱高を伸ばしたいから、トラブルの多い業者であることを知っていても加盟店契約を維持することが多かった。


 ところが、あまりにトラブルが多いので、先の記事では「信販会社はトラブルが多い販売業者との取引打ち切りに着手し」「取引高は約3割減少した」と書いていた。


 ということは、問題ある取引が3割もあったということになる。


 その取引の多さと信販会社の無神経さに驚いた。



2008年06月11日(水) ヤミ金から借りた金は返す必要がない

 日経(H20.6.11)社会面に、ヤミ金被害を受けた人が、ヤミ金に対し損害賠償請求した事件で、最高裁は、悪質性の高い不法行為の場合には、元本を相殺して賠償額から差し引くことは許されないという初判断を示したという記事が載っていた。


 「元本を相殺して賠償額から差し引くことは許されない」ということは、ヤミ金から借りた金は、利息を払う必要がないだけでなく、受け取った金も返す必要がないということになる。


 借りた元本分くらいは返すべきという考え方もあり得るだろうし、実際、高裁レベルでは判断は分かれていた。


 しかし、最高裁は、悪質性の高さと比較考量して、返す必要がないとしたものである。


 ヤミ金の被害で警察に相談しても、「借りた金くらい返さないといけないんじゃないの」と言って、まともに取り合わないこともあったが、これからはそのようなことも減ると思われる判決である。



2008年06月10日(火) 秋葉原無差別殺傷事件

 日経(H20.6.10)社会面で、8日の秋葉原の無差別殺傷事件の続報をしていた。


 ところで、この事件では、情報化社会の中での犯行という印象を強く受けた。


 犯人は、携帯掲示板に犯行までの行動を詳しくメールしていた。

 福井で、犯人がサバイバルナイフを買った際の様子が防犯ビデオに残っていた。

 犯人の運転する車が歩行者天国にいた人たちに突入する瞬間が写っていた。

 犯人が警察官と対峙しているシーン、逮捕されるシーンを一般の人が撮影していた。

 マスコミで放映された映像以外にも、YouTubeには、一般の人が撮影した犯行直後の映像が流されている。


 すなわち、犯行に至る経緯、犯行の様子などをほとんどリアルタイムで見ることができたわけである。


 情報化社会ならでは、といえる事件なのであろう。


 それにしても、7人もの人を殺した以上、死刑判決は当然だろう。


 そして、これだけ残虐な犯行を見ると、死刑廃止論は吹っ飛んでしまう。



2008年06月06日(金) 「気を配る」ところがずれている

 日経(H20.6.6)17面に、『広がる買収防衛策』という3回シリーズのコラムで、旭化成が買収防衛策を導入したことについて、担当者(副社長)にインタビューしていた。

 そのインタビューの中で、担当者(副社長)は、「防衛策でとくに気を配ったのが、発動の是非を判断する独立委員会の人選である」と答えていた。


 しかし、「気を配る」ところがずれているのではないか。


 防衛策発動の是非が裁判で争われたときに、独立委員会に独立性があるからといって防衛策が適法という論理にはならないだろう。


 それゆえ、裁判では独立性はほとんど問題にならないと思われるからである。


 そもそも、買収防衛策は、現経営陣の保身の効果しかなく、不要なコストが生じるだけだと思うのだが・・。



2008年06月05日(木) 20年間で家族や親子関係の意識は変化したか

 日経(H20.6.5)1面で、「最高裁が国籍法の規定は『違憲』と判断」という記事が載っていた。


 この事件は、結婚していない日本人の父と外国人の母との間に生まれ、生後に認知された子どもが、日本国籍の確認を求めたものである。


 国籍法では、未婚の日本人の父と外国人の母との間に生まれた子が生後に認知された場合、父母が結婚すれば日本国籍が得られる。

 ところが、父母が結婚しなければ、認知されても日本国籍は得られない。

 そのような国籍法の規定が不合理な差別かどうかが問題になったものである。


 最高裁は不合理な差別と判断したわけだが、面白いのは、立法当時の1984年の時点では、父母の結婚を要件することに相応の理由があったとしていることである。

 その上で、現在(2003年)では家族生活や親子関係の意識が変化しているので、父母の結婚を要件とすることは不合理であると判断している。


 「この20年でそんなに世の中の考え方が変化したのか」思うと感慨深いものがある。
(世の中の考え方にそれほど劇的な変化があるわけでなく、立法当時から違憲であるという見解や、劇的な変化はないから合憲であるという見解もあり得るだろうけど)



2008年06月04日(水) 成年後見人は誘惑に駆られやすい

 日経(H20.6.4)社会面に、成年後見人である妹が、交通事故で重い障害を負った実兄の保険金を着服したとして、業務上横領の疑いで逮捕したという記事が載っていた。


 成年後見人が横領して刑事事件になったケースはいくつかある。


 成年後見人はあらゆる権限を持っており、預金の引き出しも自由にできるから、誘惑に駆られる機会は多い。


 そのため、被後見人の資産が多額の場合には、親族ではなく弁護士など第三者が成年後見人に選任されるのが普通である。


 記事のケースでは実兄の資産は1億8000万円もあったというから、裁判所はなぜ最初から第三者を成年後見人に選任しなかったのだろうか。



2008年06月03日(火) 担保不動産を「迅速」に処分できる制度を導入

 日経(H20.6.3)1面に、自民党の司法制度調査会は、担保権者全員の同意がなくても、すべての抵当権を抹消し、売却できる制度を導入する方針と報じていた。


 現在は、担保権者全員の同意がなければ実際上売れない。


 そのため、上位の担保権者が売却に賛成でも、下位の担保権者が同意の条件として高額な支払いを要求するなどして任意売却がまとまらない場合がある。

 
 そこで、担保権者全員の同意がなくても売却できるようにして、不動産の迅速な処分を促そうとするものである。


 実は、すでに破産法には似たような制度として「不動産の担保権消滅請求」がある。


 しかし、手続きに3か月くらいかかり迅速性に欠けるなどの理由のため、あまり使われていないと思う(私が破産管財人になった場合も、通常の任意売却で処理している)。


 もちろん、記事のような制度を創設することは悪いことではない。


 ただ、担保権者の利益も考慮して制度設計せざるを得ないため、期待したほどの効果は上がらないのではないだろうか。


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