今日の日経を題材に法律問題をコメント

2005年10月31日(月) 判決が短すぎるとして、裁判官がマイナス評価

 日経ではなく朝日夕刊(H17.10.31)に、横浜地裁の判事の書く判決について、「判決が短すぎる」として横浜地裁所長からマイナス評価を受けたという記事が載っていた。


 横浜地裁所長は浅生重機裁判官であり、理論的であり、結論も妥当な判決をすることから、弁護士には比較的評判がいい裁判官である。


 マイナス評価を受けたのは井上薫裁判官であり、ずいぶん前に、個人破産事件でほとんど免責を認めなかったことから、弁護士から激しく反発されたことのある裁判官である。


 判決が短いことをもってマイナス評価することは司法の独立を侵すようにも思える。

 しかし、憲法は、裁判官の任期を10年と定めているから、裁判官としての適格性を審査することを認めているといえる。

 そして、裁判官の適格性として、当事者が納得することができる判決を書くことは重要であろう。


 したがって、井上裁判官の言い分は認められないのではないかだろうか。



2005年10月28日(金) 最高裁の上告棄却に対し、異議申し立て

 日経(H17.10.28)社会面に、許永中被告の実刑が確定したという記事が載っていた。

 許永中被告は、最高裁に上告を退けられたのであるが、それに異議申し立てており、それが棄却されたというものである。


 裁判は三審制なので、この異議申し立てが安易に認められると、四審制になってしまう。

 それゆえ、異議申し立てが認められることはほとんどない。


 しかし、最高裁まで争う被告人は、だいたいこの異議申し立てをするようである。



2005年10月27日(木) フライデーの記事は真実であり、違法性はないとの判決

 日経(H17.10.27)社会面に、ドンキホーテが、週刊誌のフライデーの記事に対し、名誉毀損で訴えた事件で、東京地裁は、ドンキホーテの請求を棄却したと報じていた。


 フライデーの記事の内容は、ドンキホーテが出身高校の偏差値に基づき採用しており、採用差別であるというものである。


 これに対し、判決では、「記事は真実であり、違法性はない」と認定している。


 名誉棄損が認められない場合、「真実であると信じるにつき相当な理由がある」とされることが多く、「記事の内容は真実である」と明確に認定されることは比較的珍しい。


 訴えた側は、立場がないだろう。



2005年10月26日(水) 海外のハンセン病補償裁判で、異なった判決

 日経(H17.10.26)2面社説に、昨日、東京地裁の二つの部でなされたハンセン病補償裁判の判決について論じていた。

 二つの裁判では、台湾の施設に収容させられた方については補償するという判決がなされたのに対し、韓国の施設に収容させられた方については補償しないという、まったく異なった判決となった。


 これは、東京地裁でも違う部で審理されているためであり、判断が分かれることはあり得ることである。


 ただ、私は、補償を認めなかった方の裁判所の考え方には、賛同できない。

 
 ところが、新聞の論調は、あいまいな法律を制定した国会・行政の責任はを論じるけれど、判断の分かれた裁判所に対する批判は微妙に避けている。

 司法の独立をおもんばかった論調なのであろう。

 
 しかし、それはおかしいのではないかと思う。


 マスコミから非難される判決であったとしても、法解釈上やむを得ない結論であれば、裁判官は毅然とした態度で判断する矜持をもっているはずであり、マスコミの批判によって司法の独立が犯されるとは思わない。


 二つの異なった判決があったときに、法律を作った国会・行政に批判の矛先を向け、司法に対しては批判しないというマスコミの態度は私は納得し難い。



2005年10月25日(火) サーバーに一週間分のテレビを録画

 日経(H17.10.25)社会面に、マンションにサーバーを置いて、一週間分のテレビを録画しておき、そのサーバーを通じて、マンションの住民はいつでも見たいテレビを見ることができるというサービスについて、大阪地裁は、機器の販売の差し止めを認めたと報じていた。


 大阪地裁の判断は、機器販売は複製行為と同視でき、著作隣接権を侵害するということのようである。


 「販売行為が複製行為と同視できる」という裁判所の判断については、議論の余地があり得ると思う。

 その意味で、法律上興味を引く問題である。


 もっとも、販売行為ではなく、テレビを録画する行為が著作権法違反になることは間違いないと思う。

 ただ、このようなサービスがあるとテレビを見てくれる機会が増えるわけであるから、テレビ局にとって実際上の不都合はないように思えるのだが・・。
(民放5社が揃って訴えているから、不都合があるのかもしれない。)



2005年10月24日(月) 「プロ投資家」には説明を簡略化

 日経(H17.10.24)3面に、金融庁が、金融リスク商品について、金融に詳しい「プロ投資家」に販売する場合には、商品説明などを簡略化できるよう、投資サービス法の改正をする方針であると報じていた。


 金融に詳しい投資家に対してまで詳細な商品説明をしても、説明する方にも投資家にも時間の無駄である。

 それゆえ、金融庁の考え方は理解できないではない。


 ただ、悪質な金融業者が、販売しようとするお客に少々の投資経験があると、それを大げさに評価し、勝手に「プロ投資家」と認定してしまうという危険がある。

 その点が心配である。



2005年10月21日(金) 住民基本台帳を原則非公開に

 日経(H17.10.21)社会面に、政府は、現在、原則公開となっている住民基本台帳について、営利目的の閲覧を禁止するよう法改正する方針であると報じていた。


 国が有する個人のプライバシー情報を営利目的で利用されたら誰しも困るであろう。

 
 法改正は当然といえる。



2005年10月20日(木) 「株主代表訴訟のリスク」は和解に応じない理由にはならない

 日経(H17.10.20)7面に、住友信託銀行がUFJに対し、東京三菱との統合で損害を被ったとして訴えた事件で、和解協議がなされていたが、和解は決裂したという記事が載っていた。


 その記事の中で、「両行とも、和解で大幅に譲歩すれば、株主代表訴訟のリスクがあると考えたようである」と書いていた。

 
 和解に応じない理由として、このように株主代表訴訟のリスクをいうことがよくある。


 しかし、裁判上の和解である以上、和解の内容にはそれなりに根拠はある。

 かりに、その和解は株主の利益を害するとして、株主代表訴訟を提起された場合には、和解に至るまでの経過資料を証拠として提出すればよい。

 そうすれば、その和解が株主の利益を害するという認定はまずなされないだろう。


 和解に応じない理由として「株主代表訴訟のリスク」を使う場合は、要するに、本音は和解をしたくないのだろう。



2005年10月19日(水) クッキーの差し入れは出来ない

 日経(H17.10.19)文化面の連載小説の「愛の流刑地」で、また変なことを書いていた。

 逮捕・勾留されている主人公に、旧友が面会に来たのだが、その旧友が主人公に「差し入れとしてクッキーを持ってきたよ」と言う場面があった。


 しかし、差し入れは、人の家に訪問するときの手土産とはわけが違う。


 拘置所などで、指定の業者を通じてお菓子を差し入れることは出来ることはあるが、自分で持っていったお菓子を差し入れることはできない。
 
 へんな薬でも入っていたら大ごとになるからである。



2005年10月18日(火) 日弁連が、成年後見人に同意権の付与を求める

 日経(H17.10.18)社会面に、「成年後見人に治療同意権を」という記事が載っていた。


 成年後見が必要な人は、ほとんどは医療行為が必要である。


 それにもかかわらず、成年後見人に同意権がないため、医師も困るし、成年後見人も対応の仕様がないという不都合が生じていた。


 そこで、日弁連は、成年後見人に治療同意権を付与するよう求めている。


 ただ、成年後見人に同意権が付与されると、成年後見人は、それに応じた責任も生じることになる。

 成年後見人は、そのことを十分自覚すべきである(私も成年後見人になっており、自戒を込めて・・)



2005年10月17日(月) 企業買収防止策 法律事務所主導で紛争が拡大

 日経(H17.10.17)16面に、企業買収防止策について、東京地裁商事部の裁判長のインタビュー記事が載っていた。


 そこで、裁判官が「法律事務所主導で紛争が拡大している傾向が見受けられる」と述べていた。


 一部の大手法律事務所は、ここが売り込みどきと考えて、敵対的買収防止策について積極的な営業活動をしたようである。


 しかし、わざわざ裁判官が、「法律事務所主導で紛争が拡大している」というぐらいだから、その営業活動は目に余るほどだったのだろうなあ。



2005年10月14日(金) 仕入れ価格の公表は適法である

 日経(H17.10.14)社会面に、薬局チェーンが、薬の仕入れ価格を公表してセールをした事件で、最高裁は、仕入れ価格の公表は適法であると判断したと報じていた。


 この事件で、契約で、仕入れ価格を公表しないということを謳っていたかどうかは不明である。


 仮に、契約では仕入れ価格を公表しないという条項がない場合の事案であれば、今後、メーカー側としては、契約条項に「仕入れ価格を公表しないこと」という内容を入れておく必要があるだろう。



2005年10月13日(木) 法律は、すべて文章にしようとして無理をしている

 日経(H17.10.13)31面の「経済教室」という欄に、「保険点数表の形式見直せ」という論文が掲載されていた。

 その中で、点数表が文章で書かれているため、曖昧さを残しているという問題を指摘していた。


 法律も、すべて文章で書こうとしているために、表現が分かりにくいところがある。


 例えば、刑法で、「有期懲役は1年以上15年以下とする。」という規定がある。

 この程度であれば、文章であってもよいが、

 これは
 1年<有期懲役<15年(不等号の下にイコールの記号を付けていないので不正確だが)

とした方が一目瞭然ではないかと思うのだが。



2005年10月12日(水) 被告人が証人尋問することはあまりない

 日経(H17.10.12)社会面に、1億円ヤミ献金事件で、橋本元首相が証人として出廷し、尋問を受けたと報じていた。

 証人尋問の最後には、被告人である村岡元官房長官が自ら尋問したようである。

  
 憲法は「刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を十分に与えられる」としており、それを受けて、刑事訴訟法は、「検察官、被告人又は弁護人は、尋問することができる」と定めている。

 したがって、村岡被人が、証人尋問しても何らおかしくない。


 ただ、被告人が尋問すると、感情的になって、証人と罵り合いになったり、被告人の意見を言うだけに終わることが多く、証人尋問という本来の目的が達成されないことが多い。


 そのため、被告人自身が尋問するということはあまりなく、私の経験でも、被告人が尋問したことはない。


 したがって、村岡被告自身が証人尋問したということは、比較的めずらしいケースと思う。



2005年10月11日(火) 受動禁煙の損害賠償請求

 昨日の日経(H17.10.10)16面に、「職場の受動禁煙で病気になったら補償を受けることができるか」というコラムが載っていた。


その記事では、
平成15年5月に施行された健康増進法には罰則規定はないこと、
裁判では受動禁煙と健康被害との因果関係の証明が焦点
と書いていた。


 しかし、罰則規定がないとはいえ、健康増進法は、受動喫煙の防止義務を課している。

 また、受動禁煙と健康被害との因果関係の立証は難しいとしても、受動禁煙により精神的な損害を受けたということは主張・立証しやすいのではないか。


 とするなら、今後、受動禁煙による損害賠償請求が認められてる可能性は高いのではないだろうか(すでに認められた判例が一件ある)。



2005年10月07日(金) 新聞記事の見出しの無断使用は違法

 日経(H17.10.7)1面に、知財高裁は、新聞記事の見出しの無断使用は違法であるとの判断を下したと報じていた。


 この事件は、ネットニュース配信社が、読売新聞の見出しを無断で使用してネット配信したことに対し、読売新聞が、配信の差止めと損害賠償を求めたものである。


 一般には、見出しには創作性がないため、著作権は認められないと言われている。


 これに対し、知財高裁は、一般論としては、見出しに著作権が認められることがあり得るとした。


 ただ、本件については見出しに著作権を認めなかった。


 その上で、「見出しは多大な労力、費用をかけており、相応の工夫がされている」として、それを無断で使用することは違法であると判断した。


 なかなか味のある判決である。


 もっとも、損害賠償額が無断使用1か月あたり1万円というのは、議論があり得るだろう。

 その程度の金額では、「無断でも使ったほうが得」ということになりかねないからである。



2005年10月06日(木) 弁護士が未成年者略取罪で逮捕

 日経(H17.10.6)社会面に、弁護士が、離婚した前妻に引き取られた長女を連れ去ったとして、未成年者略取罪で現行犯逮捕されたと報じていた。


 離婚の際に、子供を強引に連れ去ることはしばしばある。

 しかし、家庭内の争いであることから、警察が捜査するということはあまりない。


 それを知っているから、この弁護士は甘く見たのかもしれない。


 しかし、このケースでは、すでに離婚と前妻側への親権帰属が確定していたようである。


 つまり、離婚の際の争いではなく、すでに一応の決着が付いていたことに特徴があり、そのため警察が動いたものと思われる。



2005年10月05日(水) 監査不祥事の原因は何か

 日経(H17.10.5)7面に、中央青山監査法人が、監査不祥事件を受けて、「監査不祥事の再発には、会計士の業務の質をあげる必要がある」として、会計士の評価基準を見直す方針であると報じていた。


 確かに、個々の会計士の業務の質を上げることは大事であろう。


 しかし、本来赤字の決算を黒字とする大きな原因は、銀行が赤字決算を嫌がることにある。


 この点が是正されなければ、監査不祥事はなくならないのではないたろうか。



2005年10月04日(火) 検事総長の答えは安直ではないだろうか

 日経(H17.10.4)社会面に、裁判官制度に関心をもってもらうために、検事総長が、中学で裁判員制度について授業をしたという記事が載ってた。


 その記事の中で、生徒が「プロ野球の選手など、代わりのない仕事をしていれば裁判員は免除されるのですか」と質問したそうである。


 それに対し検事総長は、「日本シリーズの第一戦に阪神の今岡選手がいないと始まらない。その場合は仕方ないね」と答えたそうである。


 その場では、その話しにうけたのかも知れない。


 しかし、「俺以外の変わりはない」と思って仕事をしている人が聞いたら、「それなら俺も裁判員をしない」と言うのではないだろうか。


 ちょっと答えが安直ではなかっただろうか。



2005年10月03日(月) 小説でも間違いは間違い

 今日の日経ではなく、昨日の日経(H17.10.2)の最終面の「愛の流刑地」という新聞小説で、こんなことを書いていた。


 主人公は、愛人を殺してしまい逮捕されたのだが、逮捕された直後に、「知っている弁護士はいないと答えたら、弁護士会の方で国選の弁護士を選んでくれたようである」と書いていた。

 しかし、これは誤りである。


 現在の制度では、起訴される前には国選弁護人はつかない。


 今後、起訴前の国選弁護人制度ができる予定であるが、それにしても「弁護士会が国選弁護人を選ぶ」ということはない。


 「小説なんだからあまり目くじらを立てなくても・・」という意見があるかもしれないが、やはり気になってしまう。


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