猪面冠者日記
今さらだが当分不定期更新

2012年03月31日(土) ヘルプ 心がつなぐストーリー

 今夜は一部生放送で男子フリーでありますな。正直昨日の男子SPがショックすぎたんだが。まあそんな現実から少しでも逃避するために今日は敢えて映画。スターキャットの割引券自体が今日までだし(初日に行くなんて久し振りだな)。伏見ミリオン座1にて13時10分の回から。

 予告編は見たことなかったが、ポスターなどのポップな感じから、差別問題をライトに扱った作品だったら嫌だなあと思っていた。演出はライトで構わないが、歴史的事実までライトにされちゃたまらん。懸念は一部当たってはいたが、全体としては丁寧に作られたいい映画だった。

 地元の黒人女中たちへのインタビューを本にしようとするヒロイン、スターキーの人物造形がよい。南部の町でこのような行動に出る彼女は相当な勇者なわけだが、彼女のヒューマニズムよりもむしろ、彼女を突き動かした個人的感情によりスポットライトが当たっているのがいい。

 スターキーは自分を慈しんでくれた黒人の女中を深く慕っているのだが、その裏にあるのは世間体ばかりを気にする実母との葛藤だ。母もスターキーの同級生たちも、当然のように黒人たちを無碍に扱うが、彼女たち裕福な南部の女性たちとて視点を変えれば、家柄のいい男と結婚して一家の良妻賢母となることだけが人生という、それだけの人たちだ。それでいて現実の良妻賢母たちの多くは、夫が家庭のことに無関心であることに傷つき、世間体ばかり気にするしがらみだらけの日常を送っている。そうして抑圧された感情が自分より弱い者に向かう。あるいは自分より「下の」人間を作り出そうとする。差別の根本にあるのは各人の憂鬱なホームドラマだ。

 だからと言って彼女たちが同情に値するかと言うとそうでもなく、作り手はきっちりと彼女たちを悪者に描いている。まあ、これでもかというほど金持ち白人女どもは公然と酷薄だ。中でも印象的だったのは、子供を進学させるためにあとちょっとのお金が足りないから貸して欲しいと懇願する女中に対し、「お前は健康で働けるのだから、自分のことは自分でやりなさい。それが神の御旨よ」と言い放つ女性。ああ今いるよね、「あんたが貧乏なのはあんたの努力と辛抱が足りないからよ」って言う人・・・。ちなみに彼女は普段は町の他の女性と一緒にアフリカの飢えた子供たちを支援するチャリティーをしているのだ。「私は差別心なんてないのよ」なんて言ったりするんだよ。なんとも凄いブラックジョークだよ。ま、一応それなりにしっぺ返しは食らう役なのが不幸中の幸いですが。

 しかしこうした連中をことごとく告発しまくったわりに、スターキーがそれほど痛い目をみることもないのがちょっとリアリティに欠けると思ったけど、「それでも世の中は変わらない」というところもあり、結末は苦く切なかった。

 普段ならこの後ペギーに行くところだけど、家でいろいろ見返したいので、地下街や矢場町をぶらっとするだけして帰宅。さあさあ今夜は生放送ですよ!




2012年03月15日(木) TESE

 センチュリーにて。3月3日から始まって、二週目から早、17:45からの一回のみで、そんでもってその二週目で終了だなんて、どんだけ捨て公開なんだよ。こういうところにもう早速ゴールド・シルバー劇場がなくなった弊害が出ているなあ。あと一館、どこかに映画館ができないものかと思うが、この時勢では絶望的だ。こんなしょぼい公開なのは、テセの知名度にも関係しているんだろうか。名古屋出身だからもうちょっとゆったり公開してもらえると思ってたんだけどな。まあ選手としての拠点は川崎だったから、逆にこっちでは知名度が薄いのかも。五輪、W杯、その他の国際大会で北朝鮮と当たるたびに彼の名前はクローズアップされるけど、そもそも北朝鮮と当たるとなると、かの国の厄介さばかりが話題になるし。

 まあそういうわけで名古屋で生まれ、川崎で開花し、現在は一部リーグケルンFCで活躍する、北朝鮮代表のチョン・テセのドキュメンタリー映画であります。

 映画ではまずテセの簡単な生い立ちが、両親の国籍込みで紹介される。北朝鮮の代表選手であるテセが実際には韓国籍だというのは雑誌か何かで読んで知っていた。私がそこで知ったのは、「テセは親の強い希望もあって、朝鮮学校に通い、さらに朝鮮総連に掛け合うなどして韓国籍のまま北朝鮮代表となった」というもの。

 朝鮮の南北分裂後、在日朝鮮人がどのような経緯でそれぞれの国へ振り分けられたかについて、私の全知識は町山智宏が雑誌hon-ninで連載していた町山自身の回顧録のみだ。それによれば、当時の在日コリアンは、基本的には自らの選択で北朝鮮・韓国のいずれかを選んだということ。もっとも、コミュニティの繋がりが強固な在日コリアンのこと、概ね自分が属するグループと同じ国を選ぶことになった。だからテセが北朝鮮を選んだ理由について私は「テセの前の前の世代は北朝鮮人になりたかったけど、何か義理があって韓国人になり、両親はわが子だけは北朝鮮の子として育てたかったんだろうか」などと勝手に考えていた。

 思えば自分の周囲の在日を見てみるに、韓国系はぱっと見日本人みたいで、家に遊びに行っても彼らのルーツは分からない。ハングル語を話せる人も少なく、氏名も大体通名だ。一方で北朝鮮系は自分たちのルーツに強く拘っていて、必ず本名を使い、子供たちはみんな朝鮮学校に通ってハングル語をマスターする。

 テセの両親はよほど朝鮮民族へのこだわりが強かったのだろう、と私は大雑把にそう考えていた。

 ところが現実はもうちょっと複雑なのだということがこの映画を見ていて分かった。テセは父親が韓国籍、母親が北朝鮮籍なのであった。民族意識が強いのは、圧倒的に母親の方で、なんと彼女は夫に無断でテセの兄とテセを朝鮮学校に入れてしまったのである。日本以上に家父長制の強い気風だろうに、よくまあそんなことがと思うが・・・。実際夫婦の間ではかなりの諍いがあったようだが、それでもなんでも現在に至っているのであった。まあ映画を見てるだけでもテセ母はかなり強烈なお方なので、子供達に対する強硬な行動もある意味納得ではある。にっこり笑いながら「日本人にはしたくなかったから♪」なんて言うんだぜ。こちとらたじたじとなるしかない。と、こんだけの登場だとテセ母はなんか危ない人みたいだが、映画ではテセの母方の祖母も登場し、彼女の日本での苦労も語られ、テセ母がなぜそこまで民族にこだわるのか、それなりの意味づけがなされている。とは言え、テセ祖母の過去話はパンフに書かれているものの方が圧倒的に丁寧で、こちらを読んだ後だと映画での描写はかなり物足りない。本当に壮絶な話なので、テセの人生を語る上でもこの辺はもっと出して欲しかったところである。

 こういった家族の話だけではなく、テセのサッカー人生についてもじっくり描写されている。代表チームとなかなか溶け込めなかった時代のことなども出てくるし、北朝鮮代表の韓国戦におけるホテルでのものものしい警備など(本国からの命令で北朝鮮チームの部屋からはテレビが取り除かれたりするんである)、日本のテレビではまず見られない部分がたくさんあった。そういう国絡みのシビアな部分もありつつ、テセを愛する川崎のテセ会の面々もドキュメンタリーには登場する。川崎での脱退セレモニーの模様なんぞ、見ていて思わず涙が出そうになったほど。

 というわけでスポーツというよりは、国とは何か、民族とは何かについて考えさせられることの方が多い作品だった。思えば世間は簡単に愛国心愛国心などと言う。まあそりゃ私だって日本ほどいい国はないと思っているし、そこに生まれ育ったことについては、誇り、とまでご大層には捉えないけど、単純に「よかったな」程度には思っている。けれどもそういう風に「よかったな」と思えるシンプルな感覚だって、そう思えるような環境で育ってきたから、と自分では思っている。たまたま日本に生まれ、そしてたまたま両親が日本人で、さらに何不自由なく生きてきたから単純にそう思えるんだろう。

 例えばの話、日本で生まれ育ったにしても、両親が日本人じゃなかったらこの国に対する感覚はまた違ったものになるだろうし、両親が日本人であっても、自身がアメリカや中国で生まれ育ったら、そう単純に「日本好き、日本人素晴らしい」とはならないだろう。そもそもどこの国に帰属意識を覚えるのか分からない。

 だからまあぶっちゃけ「ネトウヨには共感できないよ」っていうことなんですが。ほんとにね、君らの愛国心がどんだけのもんなのよ、と思うわ。繰り返しになるけど、たまたま両親が日本人で、たまたま日本で生まれ育っただけで芽生えた単純な感情に過ぎないでしょ、愛国心なんて。もちろんそういう単純さは美しいと思うし、幸せなことだと思うけれど、それを錦旗にして他国に悪口三昧するのなんて、愚行以外の何物でもない。まあそういう人に限って自分の家庭や仕事に関しては億劫がってリーダーシップなんざ取れてないわけだけどね。・・・て、なんか映画と関係ないはなしになっちゃったよ。すまそ。




2012年03月04日(日) ピアノマニア

 名演小劇場1にて14時半からの回から。この間の「TIME」同様、映画の前に栄のどっかへ寄り道してから行くつもりだったのだが、やはりまた「TIME」同様、寝坊したので、結果として中途半端に早い時間に栄に着く羽目に。当初はお昼は香蘭園でもと思ったんだが、昨日家族で蓬莱に行って相当に食べたせいか、ラーメン食べるほどの食欲はあまりなし。栄地下のエピシェールでコロッケパンとくるみパンを買って、映画館のロビーで食べることに。うまうま。

 食べ終わった後も30分ぐらい時間があったので、ロビーに置いてある「大阪ハムレット」をちまちまと読む(以前、劇場版がここでやっていたのだ)。ああ、泣けるわ。て、ん? さっきからロビーに人がすんごい増えてるんですけど、この映画そんなに人気あるの? その後、入場が開始されて全員一応座れたのだが、ほぼ満席。こんな地味なドキュメンタリーに100人前後が入る名演1が満席なんておかしい(笑)。ちなみに上映スタートは先週の土曜からで、これ以外だと16:35、18:40の回があるんだけど。うーん、なんでだろう、たまたまクラオタが押し寄せたのかな

 ドキュメンタリーは、スタンウェイで技術主任を務めているピアノ調律師、シュテファン・クニュップファー(なんつー覚えにくい名前)の「それぞれの音楽家の求める最高の音を作り出す」ための悪戦苦闘の日々を追ったもの。やあ、面白かった。ライトもライトな私ですら相当楽しめたので、本チャンのクラオタには相当楽しめるであろうよ。まあ私の場合はちょっと邪な妄想も込みで楽しんでいたので、あんまし比較にならないかもだが(笑)。ピアノの内部構造をこれでもかというほど見られるだけでも面白いんだけど、ハンブルクのスタンウェイ支社ん中とか、工房でのピアノの製造過程とか、もういちいちが「ええもん見たー」という感じ。朗朗やエマールの試し弾きが見られるっていうのもおいしいしねえ。でもって試し弾きの中で大好きなイアン・ボストリッジが出てきてちょっと歌ってくれたとこなんて感動した。て言うかあと二年早く見たかったわ、このドキュメンタリー。理由はまあ言うまでもないよね(笑)。

 映画が終わった後ロビー見てみたら、次の回の人はあんましいなかった。本当にこの大入りはなんだったんだろう。

 終わった後は地下街の喫茶店でチョコパフェ。頭にはバナナ、そして底の方までフレークが入った近頃珍しい正統なチョコパフェ。が、予想以上にボリュームがあって、「なんのために朝昼粗食にしたのか」と自問自答することしきり。



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