初日 最新 目次 MAIL HOME


活字中毒R。
じっぽ
MAIL
HOME

My追加

2006年08月14日(月)
「俳優バカ一代」三国連太郎伝説!

日刊スポーツのインタビュー記事「日曜日のヒーロー〜第529回」三国連太郎さんへのインタビューの一部です。

【日本映画界屈指の怪優には、数多くの伝説がある。それは三国伝説と呼ばれ、役作りへの執念、役にのめりこんだ時の俳優の恐ろしさを感じさせるエピソードだ。1957年「異母兄弟」。一回り以上年上の田中絹代さんと激しいラブシーンを演じなければならなかった。

三国連太郎「馬小屋で乱暴してしまうシーンがあったのですが、抱え込むとどうも違和感がありました。考えてみたら自分の母と同い年。メークで老けてみても、どうも落ち着かない。思いついたのが僕が生理的に年を取ればいいんだと。そうすれば心のひずみがなくなり、自然な演技になると」。

 知り合いの歯医者を訪ね、上の前歯を1本残らず抜いてくれと説き伏せた。

三国「友人の俳優西村晃には『お前は本当にバカじゃねえか。抜いちゃったらもう生えてこないぞ』と言われましたが、どうせいつか抜けて落ちてしまうもの。それなら、ちょっと早くてもいいやって」。

 1958年、「夜の鼓」でじゃ有馬稲子さんを殴って失神させた。

三国「あれは今井正監督が悪い。有馬さんが『殴ったふりでは芝居に見えてしまう』と言っているので本気で殴ってと言われた。驚きました。殴ったら有馬さんが起きてこない。次のセリフがあったのですが困って言えませんでした」。

 僧侶の役が決まれば、半年以上前から頭をそり上げて、地肌を日に焼く。

三国「坊さんの頭が青々しているわけはありません。でもそのおかげで面白そうだなという役が来ても、断るしかありません」。

 脚本を100回以上、声を出して読み、のどを痛めた。「復讐するは我にあり」で緒形拳に事前に何も言わずにつばを吐きかけ激怒させた。高倉健と共演した作品で深作欣二監督とセリフについて口論になり、上野駅前で一日中スタッフを待たせた。「宮本武蔵」で和尚を演じたときは、部屋で一晩中待つ場面で内田吐夢監督に相談なしに小便に行く場面を付け加え、激怒され、逆ギレして降板…。

三国「伝説というのは、たいてい虚飾にまみれておりますが、今、尋ねられたのは珍しく事実ばかりです」。】

〜〜〜〜〜〜〜

 俳優生活55年。現在83歳になられる三国連太郎さん。まさに、日本を代表する「怪優」の名にふさわしい役者さんです。
 それにしても、この「三国伝説」の数々には驚かされます。僕は以前、ロバート・デ・ニーロが役作りのために髪を抜いたり何十キロも体重を増やしたり減らしたりしていたというエピソードや、ニコラス・ケイジが役作りのために「奥歯を抜いた」というエピソードを聞いたことがあるのですが、三国さんのやり方は、さらに徹底しています。上の前歯を全部抜いてしまったら食べるのにも困るでしょうし、見た目の印象だってだいぶ変わってしまうはず。そして、見た目を変えることが目的なのではなく、自分の体を高齢者に近づけることによって、「自分の『違和感』を解消するため」だというのですから、本当にすごい「役者バカ」です。しかし、当時の歯科の技術は現在に比べたらはるかに劣っていたでしょうから、その撮影の後は、大変だったのではないかと思います。ほんと、西村晃さんではありませんが、「役者バカ」の「役者」は要らないのではないか、とか、ついつい言いたくなるほどです。そもそも、よく歯医者さんは抜いてくれたものです。

 三国さんのそういう「なんだかわけのわからないほどのこだわり」がある一方で、和尚役のときの「坊さんの頭が青々としているわけがない」という発想には驚かされてしまいます。まさに、徹底したリアリズム。あの「スター・ウォーズ」は、「ピカピカではない、ちゃんと汚れている宇宙船が登場するSF映画」としてファンを魅了した一面もあるのですが、確かに「役作り」のために髪を剃って坊主頭になる人は多くても、それを「年季の入った坊主頭にする」ということまで考えている役者というのは、ほとんどいないのではないでしょうか。あるいは、そう思いつつも、他の仕事との兼ね合いなどで、できない場合もあるでしょうけど。ハリウッド・スターのように1作で何十億円のギャラが貰えるわけではない日本の俳優たちにとっては、いくら「デニーロ・アプローチ」を目指しても、「見返りに乏しい」といい現実もありそうだし。
 しかし、こういう「役作りへのこだわり」と「歯なんてどうせいつかは抜けちゃうんだし」という「こだわりのなさ」がひとりの人間に同時に存在しているというのは、非常に興味深い気がします。

 このインタビューのなかで、「今、尋ねられたのは珍しく事実ばかりです」と三国さんは答えておられますが、ということは、他にも虚実入り混じった「三国伝説」がたくさん存在している、ということなのでしょう。観客としては目が離せない役者さんなのですが、きっと、監督や共演者にとっては、別の意味で「目が離せない」役者さんなのでしょうね。