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2006年08月15日(火)
「なぜ死ねるのか?」という問いへの特攻隊員たちの「答え」

「日刊スポーツ」2006.8/13号のコラム「見た聞いた思った」より。

(このコラムは、日刊スポーツの10人の記者が、毎日交代で書かれているものです。村上久美子記者の回の一部)

【俳優今井雅之(45)が監督・主演した映画『THE WINDS OF GOD-KAMIKAZE』(8月26日公開)を見た。映画は現代の米国人が1945年8月に日本人となって時空移動し、特攻隊員として太平洋戦争末期を過ごすストーリー。先日の試写会で、今井があいさつした。
 もともとは舞台用に今井が27歳の時に作ったもので、これを映画化した。今井は100人以上の元特攻隊員に話を聞いた。
 「なぜ死ねるのか―と。テレビや映画の見過ぎで、お国のため、とか、そんな気持ちでなぜ、若い命を散らすことができたのか、と分からなかった」。
 今井が問うと、答えは単純だった。「みんなね、命令を受けた時は『頭が真っ白になって、出てくるのは母ちゃんの顔だった』と。で、すぐに『母ちゃんが目の前で殺されるのは嫌だと思った』と。そして言うんです。『誰だって、自分の母ちゃん、守りたいと思うだろ? 僕らはただただ、母ちゃんを守りたかった、それだけだ』って…」。
 そして、ある元特攻隊員は、仲間の出撃を見送った前夜の思い出を話してくれたそうだ。「酒を飲みながら『この時代に生まれたことを恨んでいこう』と言い合った」。母の見舞いを受けた隊員の中には、何時間も母の手を握り「死にたくない」と泣き続けた者もいたというう。しかし、その隊員も出撃命令を受けると、任務遂行に旅立った。
 残念ながら、特攻兵たちの体当たりは、そう確率が高くなかった。南洋上に、無念にも沈んだ者も多くいた。特攻出撃の際には、成果を確認し基地に戻る役目を果たす機も同行し、万一、敵前逃亡する機があれば、それを撃ち落としたという。
 悲壮としか言いようのない作戦だったが、兵士の素顔はごく普通の若者だった。だから今井は「等身大の特攻隊員を描こうと思った」と語る。撮影場所には、飛行場のあった鹿児島を選んだ。1ヵ月以上、鹿児島ロケを敢行し、鹿屋市でも撮影。特攻戦没者の慰霊祭にも参加している。
 「兵士が見た最後の故国をスクリーンで伝えたかった」。この言葉を今井から聞く前に、上映を見た。飛行場のシーン。青々とした緑の山、たくましい日差し、風のにおいを感じさせる大地…に、鹿児島が浮かんでいた。】

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 この『THE WINDS OF GOD』という作品、昨年の9月に山口智充さんと森田剛さんの主演でドラマ化されており、観られた方も少なくないのではないかと思います。この作品、今井雅之さんが27歳のときに書かれたものだそうですから、もう、初演から20年近くになろうとしているんですね。僕はこの舞台のことはかなり前から知っていたのですが(残念ながら、舞台を観たことはありません)、これを書くときに、今井さんが「100人以上の元特攻隊員から話を聞いた」というのは初耳でした。今井さんにとっても、まさに「渾身の作品」だったのでしょう。

 それにしても、この「特攻隊員たちのナマの言葉」には、僕も胸を打たれてしまいました。
【「なぜ死ねるのか―と。テレビや映画の見過ぎで、お国のため、とか、そんな気持ちでなぜ、若い命を散らすことができたのか、と分からなかった」。】
 という今井さんと同じように、僕自身もずっと考えていたのです。そしてたどりついた一つの結論は、彼らは、国家によって「洗脳」されて、正常な判断力を失っていたのではないか、というものでした。そうでもないと、あんなことできるわけがない。
 でも、特攻隊員たちは、「完全に洗脳されていた」わけではなかったのです。当時、彼らが得られた(であろう)知識の範囲では、「自分たちが戦わなければ、母ちゃんが目の前に殺される」というのは、まぎれもない「現実」でした。そして、彼らは「母ちゃんを守るために自分のできることをする」ために、「特攻」していったのです。
 現代人の感覚からすれば、「マザコン」とかなんとか揚げ足を取られてしまうのかもしれませんが、要するに、彼らは「国」とか「天皇陛下」というような「大義名分」のためにではなくて、自分の目の前の大切な人を守るために、粛々として死んでいったのです。それは、現代人にとっての「妻」とか「恋人」とか「家族」のためと言い換えても良いでしょう。
 彼らの多くは、死にたくはなかったし、「こんな時代を恨んでいた」のです。彼らも、僕たちと同じような「人間」だったのだし、逆に、今の世の中に生まれていれば、ニートやオタクになっていたかもしれません。
 ただ、彼らが「正気」のまま「特攻」していったのだと想像するのは、正直、かなり辛い面もあるのですけど。

 今日は8月15日です。
 小泉首相の靖国神社参拝などもあり、「国家」としての日本のありかた、外国との接し方について、さまざまな論議がなされています。
 でも、忘れてはならないのは、「戦争で、本当に苦しむのは誰か?」ということだと思うのです。
 日本の「国家の品格」も大事なのかもしれないけれど、こうしてネットで発言している一人一人の大部分は、「国家」を動かし、兵士を駒にして戦争ゲームができる存在ではなくて、「戦場で殺したり殺されたりしなければならない人々」ではないのでしょうか。

 特攻隊員は、けっして、「特別な若者たち」ではなかったのです。好きで「悲劇のヒーロー」になったわけじゃない。
 だからこそ、「普通の人間」である僕たちは、総理大臣の立場ではなくて、彼らの立場になって、もっと「進むべき道」を考えてみるべきだと思うのです。