真夜中の林檎は紅く凛としてそのけなげさに涙こぼるる(茉莉花) 秋から冬の間は、野菜も果物も、おいしい。 葉物の緑は濃く、蜜柑や林檎の色は、赤みを増し、甘く、良い味になっている。 私の家の居間の、キッチンとの境にあるカウンターには、ガラスの果物鉢が置いてあり、店から買ってくると、そこに盛り上げておく。 寒い夜にあっても、鉢の果物は美しい色で、居間の隅を飾ってくれる。 花もいいが、果物を飾っておくのも良い。 勿論、そのうちに、食べて無くなってしまうのだが、いっとき、赤やオレンジの色があるのが、気分を和らげてくれる。 いつも気にしているわけではないのだが、鉢が空になっていることに気が付くと、とりあえず、家にある果物を入れておく。 昨日は、朝から出かけてしまい、果物を盛っておくことをすっかり忘れてしまった。 夕べ遅く、明かりを消す前に、気が付くと、真っ赤な林檎が、たった一つ鉢にある。 寒さがしんしんと迫る真夜中。 誰も居ない、真っ暗になった部屋に、この林檎は、ひとり紅い色を放って鉢の中に坐っているのか。 そう思ったら、不意に涙が溢れた。 けなげな紅い林檎よ。 その揺るぎのない形。 私の祖先のイブは、お前からどんな知恵を授けられたのだろうね。
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