沢の螢

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「小林一茶」
2005年09月29日(木)

井上ひさし「小林一茶」を見た。

ひさしの芝居は大体見ている。
「頭痛肩こり樋口一葉」「人間合格」「薮原検校」「国語元年」「太鼓たたいて笛吹いて」「夢の泪」エトセトラ。
この人の芝居は、入れ子型の仕立てが多く、セリフに含蓄があり、なかなか複雑な筋立てになっていたりするので、時には同じ物を、二度、三度と見る。
今回も、初日と「ラク」と二回見た。
新作ではないので、すでに文庫本にもなっているが、芝居は、初めて見たときの感動が大事だから、敢えて、予備知識を持たずに行く。
「やれ打つな蠅が手を擦る足を擦る」「痩せ蛙負けるな一茶ここにあり」など、庶民感覚の俳句を沢山作った人として、教科書にも載っている。
派手な生涯ではなかったらしい一茶。
それをひさしが、どんな芝居に仕立てているか、興味津々で劇場に赴く。
初日の楽しみは、「初日乾杯」があることで、知った人は、これをアテにして、舞台がはねた後、ロビーで屯している。
最初の頃、わからなかったが、それは、作者を交えての、乾杯のためだとわかった。
観客が概ね帰り、後に残っているのは、出演者や演出家、井上ひさしを待つ関係者やファン。
私は関係者ではないが、ひさしのスピーチと、出演者を間近で見たいので、お互い顔見知りばかりらしい人たちに混じって、待っているわけである。
ややあって、缶ビールやジュースが配られ、衣装を脱いだ素顔の役者達が、次々現れる。
主役の北村有起哉は、長身で痩せ形の好青年。
北村和夫の息子だとのこと。
相手役の高橋長英。
この芝居唯一の女優キムラ緑子。
声がよく通り、素顔も美しい。
ひさし芝居は、一人で複数の役を持つことが多いので、役者の数は多くないが、それぞれに個性があり、確かな演技をしている。
今回の初日は、セリフに堅さやトチリがあって、前半はあまり良い出来ではないようだった。
ひさしは現れたものの、いつものスピーチがなかったのは、ちょっと不満だったからか。
業俳と遊俳。
一茶の日記に、ホンの数行記されている一つの出来事を廻って、ひさしの芝居は、劇中劇の仕立てで進んでいく。
セリフには、私が現在身を置いている連句の世界にも通じる問題が含まれていて、なかなか興味深かった。
ひさし自身が、連句をたしなんでいることもあって、俳諧の真髄にまで迫る劇に仕立てられ、凄い芝居になっている。
25日に千秋楽を迎えたが、役者もすっかり、人物になりきって、結構遊びもあり、楽しめた。
芝居のパンフレット。
いつもはケチって買わないが、今回は、文庫本と両方、芝居が終わってから手に入れた。



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