沢の螢

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女の敵は女?
2004年11月07日(日)

ある男が、私に暴言を吐いた。
8月始めのことだから、もう3ヶ月も前になる。
毎年夏、江の島に一泊どまりで行う趣味の会の、行事でのことだった。
朝10時に集合し、いくつかの席に分かれて、共同作品を作る遊びに興じていた。
私は、10人ほどのグループの席にいた。
その人は、兼ねてから、相手が男と言わず女と言わず、暴言めいたことを言うクセがあった。
悪意のないことはわかるが、歯に衣着せぬと言うのか、相手をグサリと傷つけるような、ものの言い方をする。
テレビ関係で長く働いていて、それが、習慣のようになっていたという噂もあり、そんないい方が許される環境で、今まで過ぎていたのかも知れない。
家では奥さんに頭が上がらないから、その分、外で、発散しているという話もあった。
キャラクターはなかなか面白いし、ありきたりでない意見も持っているので、私も、好感は持っていたし、呑み仲間として付き合ってきた。
時にバトルになることがあっても、ここまでという一線は守って、今までは、修復できる範囲のことだった。
しかし、そのときは、その一線を越えていたのである。
親しさの中にも、礼儀というものがあるが、彼のはいた暴言は、表現者としての私を侮辱するものであり、私の人格に関わるものだった。
勿論周りの人にも、聞こえている。
ひどいことを言う、と思った人は少なくないと思う。
でも、誰も、たしなめなかったのは、日ごろ私がその種の発言には、黙っていないことを、みな、知っているからである。
第三者に為された暴言にも、聞き流さず、咎めたことのある私である。
だから、きっと、私が直ぐに反応して、バトルになることを、多分、予想したに違いない。
余計な口は挟まない方が、と思ったのだろう。
しかし、私は、反論しなかった。
というより、何か言うと、ワッと嗚咽が漏れそうな、胸にこみ上げるものがあったのである。
相手は、多分、自分の言葉が、それ程、私を傷つけたとは思っていないようだった。
また追い打ちを掛けるようなことを言った。
いつものように、直ぐに言い返されると思った言葉がないので、戸惑ったと言うこともあったかも知れない。
そのあたり不器用な人なのである。
自分で、自分の後始末が下手なタイプなので、振り上げた刀の納めどころを知らないのである。
私は、しばらく我慢したが、耐えきれなくなって、席を立ち、廊下に出た。
途端に涙が溢れてきた。
そのまま廊下の隅にあるソファに腰掛けて、ジッとしていた。
ハンカチを持っていたことが幸いだった。
しばらくすると、私の席ではないが、日ごろ仲良くしている人が、やって来た。
「どうしたの」と言う。
他の席から、私が出ていったのを気づいていて、なかなか帰ってこないので、体の具合が悪いのかと、心配して見に来たのだった。
わけを話し、「ここに少しいるから、心配しないで。気分が直ったから戻るから」と言った。
その間に、同じ席の女性が、様子を見に来たが、私が大丈夫だからというジェスチャーをしたので、そのまま戻っていった。
どのくらいの時間だったのか、わからないが、どうやら、気持ちが落ち着いたので、元の席に戻った。
「何処に行ったかと思って探してたんだよ」と、暴言の主が言う。
そんな茶化した言い方で、収まると思ったらしい。
何を言ってる、探してなんかいやしないのに、と思い、無視した。
それからの共同作業に私は、全く参加しなかった。
私の不在の間、その席で話題に出たかどうか知らないが、終わってから、幹事の男性が「私の配慮が足りなくて、イヤな思いをさせて済みません」と言いに来た。
席を仕切っていたのがその人だったので、その時に、適切な対応が出来なかったことを、済まないと思っているのである。
その人のせいではなく、暴言を吐いた人物固有の問題だから、それ以後、私は、その席から外して貰った。
夕食時も、その後の団欒も、私は件の男から距離を置いて、その人の言動に一切反応も、関心も示さないという態度をとった。
さすがに、彼も、私がかなり怒っていることは、わかったらしい。
翌日、昼過ぎに行事は終わったが、いつもなら彼の主導で、近くの酒場で魚料理を食べるのに、彼は、「お先に」と言って、帰ってしまった。
私も、飲む気分ではないので、女4人で、そのまま、帰途についた。
他の連中は、きっと、魚料理を愉しんだことだろう。
その後、最近まで、私は暴言の主とは、顔を合わす機会がなかった。
避けていたわけでなく、偶然のことである。
趣味の会ではあるが、グループがいつも一緒というわけではない。
ただ、ほかの人から「彼、大分反省して、気にしてるよ」という話は聞いていた。
しかし、第三者から聞いても、本人が直接私に何も言ってこない以上、そのままの状態は続いた。
10月終わり、顔を合わせる機会があった。
向こうから近づいてきて、あのときは、自分はそんなつもりで言ったのではない、あなたが誤解したのだ、と言うようなことを、しきりに説明する。 
ゴメンね、とは言ったが、本当に謝っているのでないことは、自分を正当化しようとする言い訳めいた言葉でわかる。
第一、悪いと思っていたら、もっと前に何とか言ってくるはずである。
周りの人から、いろいろ云われて、しぶしぶ来たのである。
顔を合わせる機会は、時々あるし、周りの人も、どういう態度をとっていいかわからないし、とかナントか、彼なりに考えたのだろう。
私が受けた傷の深さを、認識していない。
そんなことくらいで怒る方が悪いとでも、言いたげであった。
18,9の小娘じゃあるまいし、大の男から、満座の中で言われたことである。
簡単に片づけないでほしい。
「みんなの前で、私を侮辱しました。それは、ほかの人も聞いていることです。私の人格に関わることだから、誤魔化さないでください。当分、お付き合いしたくありません」と私は言った。
「そう、じゃ、仕方がないね」と言って、彼は離れていった。
人をバカにして、今頃何よ、と私の胸には、新たな怒りがこみ上げてきた。
それから、2週間ほどして、いつも飲んだりしゃべったりしている仲間の女性二人が、その件について、私を責めるようなことを言った。
男が謝るというのは、余程のことだから、それを許さないのは、狭量だというのである。
その場にいたわけではなく、相手側からの聞きかじりで、私を一方的に責めるのである。
友達甲斐がないこと、甚だしい。
「私はひどい暴言にあったのよ。私の口から直接聞いてないのに、どうして、そんなこと言えるの」と言い返すと、二人とも黙ってしまった。
彼女たちが、私を思って言っているのではなく、暴言主の側に立っていることはわかる。
どっちに味方した方が得かという、計算も働いている。
「これは、私の気持ちの問題だから、余計なお節介しないで」と言った。
当事者にしかわからない感情を、他人が修復できると思うのは、傲慢であり、逆効果である。
女の敵は女だと、つくづく思うのは、こう言うときである。
亭主に、この一件を話して、意見を聞いてみた。
「あなたは、私が狭量だと思う?男が謝ったら、女は、理由はともあれ、赦さなきゃ、いけないの?」
亭主は、私にとって、世間の目である。
また、男の代表でもある。
少なくとも、私にとって、最大の味方である。
まあ、内心は、よそのオトコとケンカして、発散してくれれば、自分へのあたりが柔らかくなると、思っているのかも知れないが・・。
すると亭主は言った。
「残り少ない人生、自分の気持ちを大事にした方がいいよ。人がどう思うかでなく、自分がどう感じたかで決めなさい。無理することはない」と。
それを聞いて、私の気持ちは決まった。
当分、私のほうから、暴言男には、近づかない。
その件について、第三者から興味本位のコメントをされても、絶対反応しない。
返り血を浴びる覚悟もなくて、安易に、人を斬るような人は、私の付き合う相手ではないから、今後、無視する。
こういう仕打ちをした男は、これで二人目である。
いずれも私より少し上の世代、男尊女卑の思想が、根っこにある。
鼻声を出して靡いてくる女には、必要以上にやさしくするくせに、互角に競争相手になりそうな女には、イジの悪いことをするのも、共通している。
自分の非を認めず、相手のせいにする。
そして、いつも必ず、それに同調する女が現れるのである。



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