5月から月に一度、市内で夫婦をテーマにした映画を2本立てで上映する。 今日見た一本はフランス映画「まぼろし」だった。 主演はシャーロット・ランプリング。 60歳の夫と、50代前半と思える妻。子どもはいない。 ふたりが、夏のバカンスに出かけるところから話が始まる。 仲のよい夫婦であることは、ちょっとした仕草でわかる。 やがて、別荘に着いた二人。 夫は林の中で木ぎれを集めて暖炉の火を熾し、妻は、食事の支度をする。 次の日、二人は海に行く。 人気のない静かな海。 妻の背中に、日よけのクリームをすり込んでやる夫。 「泳ぎに行くか」と夫が言う。妻は、「あとで」と答える。 そして、そのまま微睡んでしまう。 夫の瞳の翳り。立ち上がる脚のショット。 しばらくして眠りから覚めた妻は、本を読みながら夫を待っている。 ところがなかなか夫が帰ってこない。 だんだん不安に駆られた妻は、波間や砂浜を探すが、夫の姿は見えない。 救いを求めて、警察に駆け込み、探して貰うが、わからない。 やがて、街に戻った妻は、大学で英文学を教える仕事を続けながら、夫の帰りを待つ。 夫の口座が凍結されて、生活を切りつめねばならなかったり、同世代の男との情事もある。 姑からは、あなたのせいで自殺したのよと責められたりもする。 夫が、鬱病の薬を飲んでいたことも、はじめて知る。 そして、時折現れる夫の幻と対話する妻。 夫のものと思われる溺死体が挙がったという知らせを受けても、すぐには、赴かない。 自分の傍から、突然いなくなってしまった夫。 その喪失感をどうすることも出来ない、妻の心の動きを、丁寧に追っていく。 やがて、夫の死体に対面した妻。 遺品もあり、夫の遺体であると、客観的に証明されても、妻は信じない。 「これは別人よ」と叫ぶ。 夫が姿を消した海辺で、砂を掘りながら号泣する妻。 視線を海に向けると、浜辺に佇む夫の姿。 それに向かって走り出す妻。 しかし、走っていく先は、夫を通り越して、更に遠くに移っていくのである。 映画はそこで終わる。 人生の秋に入って、突然訪れた心の空白を、シャーロット・ランプリングが見事に演じて秀逸だった。
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