a Day in Our Life


2006年10月20日(金) カルボナーラ��


 「おなかへったー。ヒナちゃん、早く」

 フライパン片手に格闘している村上をよそに、のんびりとした大倉の声がする。
 「もうちょっとやから、ちょぅ待ちいや」
 堪え性のない大倉のそれは、食べ物の事だけだといいと思いながら、村上は少しだけ複雑な心境になる。O型の中のO型のような大らかな大倉(ここまで考えた村上は、韻踏んどるなぁ、とちょっと感心をした)は、けれどたまに不思議なところで我が強かったり、堪え性がなかったりする。ふいに真直ぐ向かって来る気持ちに戸惑ってしまう事もある。感情のストレートさという点では素直なほうだと思う村上は、けれど即興には弱いのだ。 
 「はい。出来たでー」
 「わぁ、見た目は美味そうやん♪」
 「見た目はな…」
 ごと、と音を立てて大倉の目の前に皿を置くと同時に、もうフォークを右手に持った大倉が、いただきまーす、と明るい声を出す。第二声目に何を言われるのか、前回の渋谷の後だけに村上は内心ドキドキしながら大倉の反応を見守る。結構な量をフォークに絡めて、大きな一口を口にした大倉は、普段彼がそうするように、ひどく美味しそうに食べるから、いつかピンで料理番組の出演依頼が来るんじゃないかと、密かに村上は思っている。
 「ん〜?不思議な味やけど、思ったよりイケてるやん」
 イケてる、の基準がよく分からないけれど、大倉的には「あり」だったらしい。うん、美味しいやん、と呟きながらばくばくと続きを口に運んでいく。渋谷にさんざん不味いと言われた後なので、そんな大倉の反応が、村上にとっては肩透かしで。
 「あれ?」
 不思議に思って大倉のフォークを奪い、皿から一口掬ってみると、
 「…いやいや。やっぱり同じやん」
 前回食べたものと同じ味をしたそれは、やはりお世辞にも美味しいとは言えなかった。
 「え、そう?」
 俺はええと思うけど、と意に介さない様子でもりもりと食べ続ける大倉は、あっと言う間に完食。それは大倉の味覚の問題か、それとも自分の舌がおかしいのか、まさか欲目9割で自分の手料理だから、だけで評価が甘い訳じゃないだろうかと、村上は何だか分からなくなってしまった。


*


 「やけどあれからどー考えても、大倉が味音痴なんやと思うねん」
 3人に食べさせて一勝一敗一引き分け。結局のところ自分の料理はどうなのか、村上は振り出しに戻ってしまった。これはもう一人、誰かに食べさせたろ、と思っていたところに丸山と目が合った。
 「マル」
 「…はい」
 珍しく正確に場の空気を読んだらしい。丸山は返事をしたくなかった風に小さな声を返した。
 「人助けや思って試食してくれへん?」
 そうして気の毒な丸山相手に、4食目のカルボナーラを作ることになった。

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