a Day in Our Life
「マル、冷めんうちにはよ食べや」
どっかりと目の前に腰を据えた村上が、両手頬杖をついてじっと見詰めてくるのに、丸山は愛想笑いを返した。 「はーい、いただきまーす…」 とは言ったものの、なかなか手が進まない。どうも聞く所によると、非常によろしくないらしい村上の手作りのカルボナーラを(大倉の味覚は丸山も信用していない)、不味いと分かっていてまんまと食べるのも気が引けた。かと言って実際に食べた上で「不味い」と伝えるのも、根が優しい丸山としては避けたかった。今、期待に満ちた村上の視線を一身に浴びて、丸山は大ピンチに陥っている。 「不味かったらはっきり不味いー言うてくれたらええねん。率直な感想が聞きたいだけなんやから」 殴ったりせぇへんから大丈夫や!と気遣っているつもりが丸山にとっては余計なプレッシャーになっている事に、村上自身は気付いていない。そして村上が案外傷付きやすい事にも。怒りはしないだろうがきっと内心ではしょんぼり肩を落としてしまうだろうから、ここは嘘でも美味しいと言っておくべきかと、丸山は考える。けれど一度吐いてしまった嘘で、自分以外にこの不味いカルボナーラを食べさせられる人が出るならば、それもその人に悪いからとか、最近仕事で共にいる時間が長いせいで、安田の性格が移ってしまっているかもしれない丸山だった。ぐるぐると考ながら、ふと思いつく。 「む、村上くん」 右手に持ったフォークを握り直し、臨戦体勢になる。ごくり、と生唾を飲み込んで。 「ん。何や?」 「パスタ食べたら喉渇きそうやから、何か飲みもん欲しいんですけど」 「おっ。そやな!出てへんかったなぁ、すまんすまん」 言いながら立ち上がろうとする村上に、慌てて更なる声をかけた。 「あのっ!俺、味噌汁がいいです!」 「………はぁ?」 パスタに味噌汁って、おまえ!と怪訝な顔をする村上に対し、ここで怯んではいけない。 「いえ!日本人には味噌汁ですよ!」 ただ単に丸山としては作るのにそれなりの時間がかかり尚且つ台所から出られないようにするには、と考えて咄嗟に出て来たものだった。俺、大好物なんです!とダメ押しをすれば、「そぅだったかぁ?」と不審がりながらも村上は、しかしそこまで言うならと首を捻り捻り、台所に向かって行く。やがて、 「味噌汁ってダシ何で取るんやったっけ…分からんからナシでもええっかぁ」 村上の大きな独り言が聞こえて来たけれど、聞かなかった事にした。
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「で、味噌汁作ってリビング戻ったら、マルの奴すっかりパスタ食い終わってもーててなぁ!どうやってん?聞いたら「まあまあです」て。どないやねんてな!」 村上が味噌汁のレシピを考案している間に、丸山は決死の思いでカルボナーラをかき込んでいたのだけれど、やっと完食をした後に出て来た味噌汁も、そんな努力を嘲笑う大変個性的な味をしていたと丸山は遠い目になる。その隣で村上の話を真剣に聞いている安田は、元来の人の良さで優しい顔をしている。 「村上くんの作ったパスタやったら美味いと思うけどなぁ」 キラキラと笑う安田の誉め言葉に根拠は全くなく、しかし本人的には大真面目なのだった。村上としては嬉しくもない事はないが、4人目にしてそろそろ面倒臭くなってきていたので、もうどうでもいいかぁ、と思っていたりもする。すると、 「えー!村上くんのカルボナーラを食うてへんのは俺と亮だけなんやろ?俺も食いたい〜!」 キラキラ顔の安田が更にキラキラと目を輝かせたので、その勢いに負けて村上は思わず、 「わ、分かった。ほな次な」
かくして堂々5食目のカルボナーラの試食相手が決まった。
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