| 2003年03月31日(月) |
『確信的な、それでも愛しいキミ』(斗ヒナ) |
舞台見に来てよ、というメールをもらった。 前回の舞台は結局見に行けなかったから、今回こそは行こうと思ってた。高校も卒業して時間空いたしちょうどいい。明日さっそく行って驚かせよう。 なんて思いながら見た舞台上のヒナは、評判通りのもので。お父さんを思って泣く姿には不覚にも泣かされてしまった。
「良かった!」
終ったあと久々だしご飯食べようってことでレストランに入って。席についた途端「どうだった?」って聞かれたからそう答えると、ヒナは嬉しそうに笑ってくれた。 見慣れていたものなのに久しぶりに見たせいか、ヒナの笑顔にどきどきした。それを悟られたくなくて一気に感想を言い続ける。頷きながら、それでも時折嬉しそうに顔を綻ばせるヒナを見て。
やっぱり、スキだなあ。
今更なことだけど、思った。 一緒のレギュラー番組やラジオの撮りで一緒になってたりした前と違って、今はたまに一緒の仕事になったりするくらいで、会う回数も少なくなった。 お互い、忙しかったから。ヒナのこと考える時間も少なくなってた。一緒の事務所だから、今何やってるとか舞台良かったとか噂なんかはよく聞くけど。それでも、週に何回も会ってたときよりは格段に減ってた。 だから、もしかしたら・・・・昔ほどの気持ちはないかも。なんて思ってたりしてた。ヒナのことで頭いっぱいになったり、ヒナが他の誰かと一緒にいたりしただけでムカムカしたり。 ・・・・・実るはずのない片思いに落ちこんだり。 そーいう気持ち、薄れたかもって思ってた。時間が、忘れさせてくれたかもなんて、思ってた。
だけど、ヒナを目の前にすると。 やっぱり、スキなんだと思ってしまう。ヒナの笑顔に、ヒナがスキなんだって気持ちを思い出だされてしまう。 「そういえば、高校卒業したんやって?」 「あ、うん。無事卒業しました!」 今浮かんだ気持ちを隠すように努めて明るく言うと、ヒナは「おめでとう」って笑顔を浮かべたあと「なんやお祝いせなアカンなあ」なんて言ってきた。 「え、いいよぉ」 「いや、こーいうのはちゃんとお祝いせなアカンやろ」 なんて言葉に嬉しく思ったけど。 「息子の門出やしな」 親子同盟組んだ仲やしな。笑いながら言ってくるヒナに、オレはズキリと胸が痛んだ。 昔ふざけて雑誌の取材で言った「親子同盟」滝沢くんが山下を子供のようだと言ってるのを聞いて、羨ましがったヒナがそばにいたオレに無理やり組ませたものだった。 ヒナが親で、オレが息子。それはつまり、ヒナにとってはオレは「子供」だと言われてるも同然で。そんなのはイヤだったからオレはずっと認めなかった。 子供だなんて言われたくない。ヒナに「男」として見てもらいたい。ずっと思ってた。 そのうち、身長も伸びてヒナと変わらないくらいになって。親子なんてことは言われなくなった。そのことにほっとしてたけど。 やっと学生から卒業したのに。世間から子供といわれることからも卒業したと思ったのに。
なんで今、そんなことを言ってくるんだよ!
悲しいというよりも、腹がたった。 いつまでも子供扱いしようとするヒナ。その無神経さに腹が立った。 なら、子供じゃないって認めさせたいって思った。
「ほしいものがあるんだけど・・・」 言うと、ヒナは「あんま高いもんは無理よ」なんて苦笑い浮かべた。 それに高くないよなんて呟きながら・・・・・オレにとっては何よりも欲しいもの。ずっと、欲しかったもの。 「ヒナの心が欲しい」 だけどそれは言えなくて。代わりに。
「一日、ヒナを一人占めさせてよ」
たった一日でいいから。他のことは忘れて。オレのことだけ見ててほしいって、思った。 だけど言ってみたはいいけど、やっぱり後悔した。 そんなこと言われても困るだけだろうって、わかってる。ヒナにはもうちゃんとした相手がいるんだから。ずっと一緒にいる人がいるんだから。 告白に似た言葉を言われたら困るだけだって。困らせるだけなんて、子供の証拠じゃん。そう思ったから。困った顔を浮かべてるであろうヒナを見ることが出来なくて、俯いてしまった。 きっと答えは「NO」だって。そう思いこんでたから。 「そんなんで、ええの?」 返ってきた答えに心底ビックリした。 だって、それってつまり、答えは「YES」ってことだよね? 信じられなくて、顔をあげると。 「ええよ」 なんて優しく笑ってるヒナがいたりしてさ・・・そーいう風に笑って許してしまうヒナはやっぱりずるい、なんて思いながら。 それでも、その笑顔がスキだと思う自分がイヤだと思った。 高校卒業して、一歩オトナに近づいても・・・いつまで立っても、追いつけない。そんな気持ちが浮かんできて。 そんな風に落ちこむ自分が悔しくて。
「ヒナ!」
ヒナを驚かせようと思ったのもあったけど。それ以上に気持ちが沈んでて。ヒナが全部悪いんだ!なんて思いながらヤツ当たりのようにヒナにキスをする。だけどそれすら受け止められて、余計悲しくなった。
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