| 2003年03月24日(月) |
『感じやすい不機嫌』(ヨコヒナ) |
「なんか怒ってます?」 舞台が終り、一緒にご飯でも食べようという村上に生ぬるい返事を返す横山に、不審に思いながらも車で来たという横山の助手席に座り数分。 その間、何も言わない横山に自分が一方的にしゃべるだけでなく、自分の質問にさえも「・・ああ」と歯切れの悪い返事しか返さないのにいい加減我慢が出来ずに聞いたのだが。 「別に、怒ってへんわ」 言葉とは裏腹にそっけなく返されて、村上の心の中でさっきの疑問が確信へと代わった。 自分は何かヘマをしただろうか。今日の行動を振り返ってみるが、これといって怒られるようなことをした覚えがない。見にくるという約束通りにきてくれたことが嬉しかったし。楽屋にきた横山に素直に「嬉しい」と伝えたら「そうかあ」と照れ笑いを浮かべてて。 そのあとは舞台が始まったから特に何もなかったし。で、舞台終って楽屋に戻るとすでに横山は不機嫌になっていた。 「なんで怒ってるん?」 「やから、怒ってへんって」 「じゃあなんで目ぇ見てくれへんの?」 楽屋に戻ってから今もずっと、決して自分を見ようとしてくれない横山に。村上は悲しくてたまらなかった。 せっかく、二人きりになったのに。久しぶりに一緒にいるのに。かみ合わない会話。すれ違う視線がとても悲しかった。 「・・・運転中やから」 それでも言い逃れしようとする横山に、カチンときて「じゃ、そこで止めて」とボーリング場横の駐車場を指差した。 「はあ?なんでこんなとこ・・・」 「ええから!」 気迫に押されて渋々駐車場に入るこむと、適当な場所に車を止めた。 エンジンも切るべきかどうするか。思ったときに村上がじいっと顔を見ながら。 「今運転中やないから。目ぇ合わせられるんよな?」 言われて、やられたと思った。 視線を合わせない言ことへのい訳を封じられて、いよいよ言うことが何もなくなった。相変わらずじっと見つめてくる視線を感じるがそれに答えることが出来ずに。代わりに顔をハンドルに埋めてしまった。 はあ、とため息をつくと。ぽつりと。 「自己嫌悪してるだけやって」 「へ?」 ぽかんとしてる村上に苦笑いを浮かべながら、横山は自分の感情を思い返した。
この世界にいて、こーいう仕事してるのだから。 恋人が自分以外の相手に愛を囁くのとかキスをするのとか。ドラマや舞台でよくあるあるシーンに一々文句言うわけもなく。ましてや嫉妬するなんて持っての外だ。いい気分ではないにしろ、この世界で生きている自分達にとっては仕方ないことだとお互い割り切っている。
ただ、それは「芝居」の中だけの話である。 舞台での芝居なのだから、自分以外の相手を心配する顔も、自分以外の相手のことで嫉妬する態度も。例え、自分以外の男を思って涙する姿でも、平然として見れた。 泣きすぎちゃうかぁ?とも思わないでもないけれど。それでも、あの熱演っぷりは感心したし良かったと素直に思える。 ええ舞台に出させてもろたんやなあって思いながら、一度目のカーテンコールを見ていた。 役者紹介されて、後ろに控えてた人が紹介されて前に出てきたとき。父親役の人が前で一礼し、列に並ぶときに横にいる村上に笑ってる姿が見えて。うまくやってるんだと思った。人間関係を潤滑にするのがうまい村上だから、きっとうまくやってるんだろうと。思いながら見ていると。
父親役の人に笑いかける、村上の姿が目に入った。
それは単に共演者に「お疲れさま」の意味をこめての笑いだったのかもしれない。父親役の人が紹介されて村上の隣にきただけだったら、ここまで気になってなかったと思う。ただ笑っただけだったら。いつものみんなに安売りしてる表情だって思えただろう。 けれど、その笑顔は明らかにいつもと違うものだと思った。 身長から仕方がないのだろうけれど・・・・結果上目つかいで相手を見上げて。舞台上で一番ではないかって思えるくらいの笑顔を浮かべて、相手を見つめる姿。 それを見た瞬間沸きあがった感情。「嫉妬」という心に気づいたとき、子供じみた感情を浮かべてしまった自分は恥ずかしくて激しい自己嫌悪に襲われた。 ・・・これこそホンマに「つまんない嫉妬」やな。
「んなことより飯!何がいいん?」 自分に対して苦笑いを浮かべながら、隣で心配そうに見ている村上の視線と合わせて言うと。安心したような表情を浮かべたあと 「そやねえ・・・たまには大阪らしくお好み焼きとか?」 「じゃあ、あっこにするか。なんばのとこ」 「うん。ええよ」 いつも通りの会話に戻ったことにほっとしながら、再び車を発進させた。
その笑顔を独占したいなんて。叶わない夢だってわかってる。 だからせめて、特別な笑顔だけは。自分以外には見せないようにしてほしい。 これくらいは願わせてほしい。
なんてこと、本人には絶対言えへんけどな。
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