| 2003年03月03日(月) |
『メッセージ』(ヨコヒナ) |
2月24日。 特別仕事が入ってるわけじゃなかったから、家でゴロゴロと過ごしていた。 溜まってるビデオ見て、途中でやめた「ドラクエ」に手を伸ばしたり。いつもなら買い物に出かけたり、ハマってるパチンコをしに行ったりするのに、何故かその日だけは家で過ごしていた。
いや、本当はわかってる。
ゲームしてても。ビデオ見てても。 壁に飾られた時計をチラチラと見てしまうわけは。ただ一つ。 今この時間に、仕事をしてるであろう相方のことだった。
グローブ座で、先輩が座長を務める舞台が本日が初日だということは、横山も当然知っている。 『フォ−ティンブラス』の。村上が出演している舞台の、初日だということは重々わかっている。
前回の舞台のときは、前日まで不安げな顔をしていたのが気になって初日終った頃に電話をしたりした。 自分らしくないと思いながらも、電話越しの声がホッとしたような、安心したような声だったことに、電話して良かったと思った。何を言ったわけでも何が言えるわけでもなかったけれど、自分が電話したことによって村上が安心したような感じがして、電話して良かったと思った。 優しい言葉などかけられる性格ではないけれど、それでも少しは支えになったのかと思って安心した。
しかし今回は、蒸気での評判が糧になっているのか。稽古中も自信に溢れていた。「どや?」と聞くと「行けるんちゃうかな?」と笑いながら言ってきて。 きっと今回は大丈夫だろうと思った。自分が心配しなくても、村上は大丈夫だろうと思った。
だから、今回は初日に電話したりしない。 どうだったか気にはなっていたけれど、次に会ったときにきっと自信に満ちた声で 報告してくれるだろうから。 その報告をいつも通りの表情を浮かべながら聞こう。そう思った。
けれど。 日にちが変わる直前に携帯の液晶に出た名前は、今日ずっと思っていた人だった。
時刻は午後22時。 舞台も終って、帰ってる途中ではないかと思われる時間。 そんなときにかかってきた電話。 もしかして、何かあったのではないだろうか。そんな不安にかられながら電話に出ると。
「あ、ヨコ?」
予想に反して明るい声音に拍子抜けしながら、しかし言葉は裏腹に冷たい態度をとってしまう。 「なんや?」 「え・・・・今、舞台終ったんよ」 そんなもん、言われなくてもわかってるわ!言いたかったけれど、それでは今日気にしていたことがバレてしまうようで、言わずに「なんか用か?」と冷たく言うと。 「や、横山さんは今何してんのかなと思って・・・・」 「なんもしてへんわ」 「そうですか・・・・」 「用件はそれだけか?」 歯切れの悪い言い方に少しイラつきながら、明日も舞台があるんやからさっさと寝ろ!というキモチもあって、話しをまとめようと要件だけを聞こうと思った。
「やって・・・さっきまで舞台やってて、みんなで話したりしてて。そんで帰るときに一人になったら・・・・なんか急に寂しなったんやもん・・・」 「阿呆か。そんなん今までもそうやったやんか」 「やけど・・・なんか、寂し思ってまったんやもん」 「子供か、オマエは」
いつまでたっても「甘え」が直らないような言い方に、苦笑いを浮かべながら聞いていた。だけど、そんな甘えたのとこも好きなんやけど。決して口に出せないから、心の中で呟いてみたりして。 次に出る村上の言葉を待った。
「やって・・ヨコの声聞きたいって。思ったんやもん・・・」
村上の甘えたなところを直さないといけないと思っている。 けれど、こーいう甘えられ方が好きな自分もいて。多分それを知ってて自分に甘えてくるのであろう村上に「ずるい」と感じる。
ホンマ、タチ悪いわコイツ。
深くため息をつくと、自分の言葉を待ってるであろう村上に心のなかで悪態をつく。
「・・・どうやった、舞台」 「ん。ええ感じやったと思うで。長野くんも満足そうやったし」
話しを続けると、村上は嬉しそうに答えた。
なんだかんだと言いながらも、結局は甘やかしてしまう自分が一番タチ悪いと、そう思った。
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