| 2003年02月17日(月) |
『小さな嫉妬』(すばヒナ) |
関西Jrとして、久しぶりにみんなで少年倶楽部に出演した。前回も村上一人で宣伝に来たが倶楽部ニュースだけの出演だったため、メインのJr以外に逢うのは久しぶりだった。 入れ替わり立ち代り村上を訪れるJr達。それに愛想よく笑いかけながら相手をしてる村上を、少し離れたところで見ていた渋谷はイラついた表情を浮かべていた。
なんや、あの顔は。
次から次へと村上に話しかけるJr達。その半分は自分の知らない子ばかりで。それが余計苛立たせる。 自分達が離れていたことを、思い知らされるようで。 自分の知らない時間があることを、物語っているようで。 村上の笑顔は自分の知ってる顔なのに、何故かまるで自分の見たことない笑顔のようで。 苛立ちと、少しの胸の痛みを抱えながら。それでも目を離すことが出来ずにいた。
「何渋い顔してんですか」 他の楽屋に遊びに行っていたはずの錦戸が、何時の間にか横にいた。 そして渋谷の前の椅子に座ると、渋谷の視線を追うように辿っていき。村上を見つけてため息をついた。 「あれ、止めへんの?」 自分がしたいと思ってたことを言い当てられて、渋谷は困った。他人が見てわかるくらい、見てたんかと。 けれどそれに気づいた風でもなく、村上を見ながら錦戸も自分と同じように渋い表情を浮かべていた。 「暴走させたままでええの?」 「暴走?」 「そう、あんな愛想笑いしまくって。暴走しまくりやん」 ああ確かに。と渋谷は頷いた。 村上の笑顔の大安売り状態は、言い方を変えれば「暴走してる」ようにも見える。機械が故障したかのように、まるで笑顔しか覚えてないロボットが故障して暴走してるようだと渋谷は思った。 「見ててイラチくる」 吐き捨てるように言う錦戸を見て、苦笑いを浮かべる。 村上に対してだけ何故か冷たい言いまわしをする錦戸を、最初の頃はただ単に嫌いだからかと思っていた。 けれど、一緒に行動するようになって。錦戸は自分を出すのが下手なだけなんだと言うことに気づいた。 本当は気になってるんだと。自分と同じような気持ちを抱えているんだと気づいてからは、まるで戦友のような気持ちになった。 だから今の気持ちも、きっと同じなんだろうと。だから「イライラ」するんだろう。 「あれ、なんとかしてくださいよ」 「なんとか、言うてもなあ・・・」 「すばるくんが止めなかったら誰が止められるん?」 本当は自分も止めたいと思ってる。けれど自分で出来るわけがない。 村上に対して素直になれない自分にもイラつくときがある。けれどそんなときは決まって渋谷が自分のしたいことをしてくれていた。だから気持ちも晴れていた。 そう感じてるのは自分だけじゃないんやろうけど。 きっとここにはいない『彼』もそう感じているだろう。彼も同じように素直に表現出来ない人だから。 「さっさとあれ、回収してきてくださいよ」 言われて、「そうやな」と渋谷が返事をする。 錦戸からぽんと小さくだけれど背中を押されたように感じた。 昔から、アイツの暴走止めんのは俺の役目やったなと思い出す。いつもは自分の暴走を止めるのが村上の役目だけれど、こういう暴走を止めるのは自分の役目だった。
そうやって、一緒にやってきたんやったな。
「じゃあ、行ってくるわ」 ヒラヒラと手を振って、村上に向かってずんずんと歩いていく渋谷。 何時の間にか広がっていた輪の中に入っていき、村上の手を握るとそのまま引っ張って行く。 「ちょ、すばる!?」 困ったような村上の声が聞こえてきたけれど、無視して歩くと後ろから「ほな、スタジオでな!」と別れを告げる声が聞こえてきた。 それに満足げに笑いながら、さきほど自分がいた畳が敷いてある場所に連れて行く。 そして無理やり座らせると、自分もあがって寝転がり村上の膝にごろんと頭を乗せる。 「なん?なにしてんの?」 「うっさい、眠いんじゃボケ!」 半ば逆キレのように叫ぶと、そのまま目を瞑った。 村上の体温が伝わってきて、「そこにいる」と実感出来て安心する。 「しゃーないなあ」 観念したんかと思ってうっすらと少しだけ目を開くと。 自分の好きな笑顔を浮かべてる村上が見えた。
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