日課となった走りこみを終えて家に戻ると、リビングから光りがもれていた。 結構遅くまで走ってたから、日付変わるくらいの時間なのに誰が起きてるんだ?と思ってリビングを覗くと。
「お帰り〜」
ソファに座ってテレビを見てた兄貴がゆっくりと振り返った。 明日は朝練あるからって早く寝るとか言ってたのに、結局起きてるし。 しかも、いつものようにビール飲んでるし。
「ちょうどいいとこにきた」
言って、兄貴が手を振ってくる。 近寄れってことなんだろうけど、以前酔っ払いに絡まれて大変だったことを思いだし躊躇すると。
「いいから、ちょっと来いって」
何がいいんだと思ったけど酔っ払いに言っても無駄だろうからと諦めて、ソファに近づく。 ソファの背もたれのとこで「何?」と聞くと何故か不機嫌な表情で見上げてくる。
「ここ座って」
自分の隣をポンポンと叩いて指し示す。 何がしたいんだかわからないけれどとりあえず言う事聞いておこうと思い座ると、左腕をぐいっと持ち上げられた。 そして、ソファの背もたれの上の部分に腕をおかれた。 ちょうど、兄貴の背もたれの部分に置かれた、手。
「なに?」
わけがわからずに腕を戻そうとすると「そのまま!」と言われた。 仕方なくその状態でいると、腕に兄貴の頭が置かれた。 いわゆる「よりかかり」状態。 腕に兄貴の頭。そんで見下げると兄貴の顔。 何がしたいんだってのと兄貴が至近距離にいるってことで混乱してるとポツリと「やっぱわかんねー」と叫んだ。
「わかんないって、何が」 「これ!この番組で「腕枕は気持ちいい」って言われてたから試した」
テレビを見ると、数人の女の子がトークしてる。よくある女の子が質問に答えていく番組みたいだった。 きっとその解答で「腕枕は気持ちいい」とか言ったんだろう。それ見てこの酔っ払いは試してみたくなったわけだ。
「全然理解できないっつーの」
言いながら、ビールを一口飲む。 しかし態勢はそのままだったから、喉を伝う感じが腕に伝わってきた。 ゴクっと飲むたびに響いてくる。 しかも、上目使いで見つめてきたりして。 無意識のことなんだろうけど。その視線は心臓に悪い。
「兄貴」 「ん〜?」 「ベッドの中だったら理解出来るかもよ?
売れない脚本家みたいに安いセリフをはく。こんなんで釣れるなんて思ってなかったけど「そうかな?」なんて返ってきて焦った。
「レッツトライ!」 なんて言いながらリビングを出て行く。 酔っ払いの悪い癖だ。なんて思いながらも据え膳はしっかりいただこうと後に続いた。
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