| 2003年02月11日(火) |
『バレンタイン』(内ヒナ) |
「バレンタインにはいい思い出ないんか、内は」
突然降ってきた言葉に台本を読んでいた顔をあげると、いつのまにきたのか村上が目の前に座ってた。 大好きな人がそばにいたのにも気づかないなんて。内が自分を戒めながら村上をゆっくりと見つめると、村上の視線は話しかけた自分にではなく手元にあったことに気づいた。 よくよく見ると、それは今月に発売したアイドル雑誌で。そういば各誌揃ってバレンタインのこと聞かれたなと思い出した。同じこと聞かれるたびに毎年のことだから話すこともあらへん、思いながら言った言葉は「いい思い出がない」だった気がした。 「内なら沢山もらったやろ」 「もらってませんて。モテなかったですもん、僕」 友達にモテるやつがいて、そいつを羨んでた思い出ならあるけれど。自分が貰った経験など毎年義理が数個くらいだった。この仕事をしてからは沢山貰うようにはなったけれど、それも義理に近いようなものばかりだし。 『本命』と呼ばれるものを貰ったのは、実は片手で足りるくらいの数だった。 「嘘やろ」 まったく信じてない風の村上に、「嘘やないですよ!」と少しムキになって答えた。 そのことについて誤解されるのは別にいい。けれど「嘘」だと思われるのは嫌だったから。だからムキになって内にしては珍しいくらい早口でしゃべると、村上は納得したような顔を浮かべたけれど。 「でも、信じられへんなあ〜」 「なんでですか?」 「だってこんなかっこええのに」 「え?」 「こんなオトコマエ、近くにいたら絶対チョコあげてると思うんやけどなあ」 不思議やわーと真顔で言う村上。しげしげと顔を見つめられて内は恥ずかしさと嬉しさから顔を赤らめた。
かっこええ、やって。 オトコマエ、やって。
関ジャニの間ではよく言われてることだ。ネタのように内をかっこいいと言いたてる年上組。 いつもなら恐縮したような表情を浮かべて笑うだけなのだが。誰もいない、カメラも回っていない二人きりの空間で言われると、本当に思ってくれてるんだと感じる。村上流のリップサービスなのかもしれないが、それでもほんの少しでも思ってなければ言わないだろう。
なんか、勇気わいてきた。
実は、内にはずっと言いたいことがあった。 いい思い出がないバレンタイン。本命チョコは中学のとき以来貰ってない。だけど今までは欲しいと思うものもなかったから、別にいいと思ってた。 けれど、今は大好きな人がいる。 大好きな人からの、チョコが欲しいと。例え本命チョコじゃなくても欲しいと。 そう思ってた。だから、今日、今がチャンスだと思った。
「じゃあ、村上くんくださいよ」 「はあ?何が」 「チョコ。僕、村上くんからのチョコ欲しいです」 なにいうてんの。そう言って笑おうとしたけれど真剣な内の視線を受けて笑うことが出来なかった。 「なんや、罰ゲームかなんかか?」 男の自分から欲しがるなど、よっぽどチョコに飢えてるのか罰ゲームくらいしかないだろうと思ったが、力いっぱい否定されてしまった。 じゃあなんやねん。なんで俺のチョコ欲しいなんて思うねん。 そもそも、俺がチョコ渡すのなんて想像できひんわ。 ふと、さきほど自分が読んでた雑誌の1文を思い出す。 『顔真っ赤にさせて。女の子ならかわいいやん?』 そう、女ならばかわいいだろう。どんな子でもチョコ渡しにくる子はかわいく見える。しかし・・・・ 「俺が頬染めてチョコ渡しにきてもかわいくないやろ?」 「いえ、かわいいですよ!」 「・・・いや、そこつっこんでくれなアカンとこやろ・・・」 否定の言葉を期待していたのにあっさりと肯定されてしまい、肩を落とす。自分の予想もつかない返しの応酬に、いい加減ネタも尽きてきた。 どうしようかと悩んでいると、目の前のオトコマエな顔が一瞬にして曇り始めた。 「やっぱ、アカンですか・・・?」 しゅんとうなだれる様は、まるで捨てられた子犬のようで。そう思ったら耳と尻尾がうなだれてるように見えてきた。 (なんや、俺がいじめた気分になるわ) そこまでチョコが欲しいのかと不思議に思ったけれど。どうしてかはわからなかったけれど、これ以上言うと本格的に凹みそうで、諦めにもにた表情を浮かべると。 「俺のでええんなら、別にかまへんけど」 「ホンマですか!」 「ああ。けどバレンタイン用のチョコなんてあげられへんからな。その辺のチョコやで?」 「充分です!!」 元気よく返事をする内に、ほっとしながら。今日中に買わないとあと残り3日はチョコなんて誤解される時間やと焦ったりもした。 なんで俺がこんな焦らなあかんねん。我に返って思ったけれど。
まあ、しゃーないか。 子供と動物には優しくせなアカンからな。
そんな風に思われているなんて思いも知らずに、内は「やったー!!」と大喜びしていた。
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