好きな子に触れられるのは、恥ずかしいような照れくさいような気がするけど、やっぱ嬉しいわけで。 どきどきするけど、触れるよりも触れられるほうが、相手から求められてるようで嬉しい。 だから、この状況は嬉しいんだけど・・・・・・だけど、理由がわかんないからどうしたらいいのかわかんなくて・・・ アニの体温が伝わってくるたびに、そこに意識が集中しちゃって・・・・どうしたらいいのかわからなくて混乱する。 どうしたんだよ?普通に訊けばいいんだろうけど、聞いたらこの手が離れてしまいそうだし・・・自分が勝手に意識してるだけだったら恥ずかしいし。そんなこと思ったらやっぱり訊けなくて、さっきからみんなの輪の中に入ってても何しゃべってんのかまったく聞こえてこない。
「アニ、さっきからなにがしたいわけ?」 「へ?なにが?」 「なにがって、その手」
ぶっさんが指差したのは、アニの手の行き先。すなわち、俺の腕に絡まっているアニの腕。 それはつまり、俺が聞きたくても聞けなかったことだった。 試合が始まってからずっと、攻守が入れ替わってベンチに戻るたびにアニは俺のそばまで来て・・・・・腕を組んできた。 最初は、アニは人に触れるのしょっちゅうだからいつものことだろうって内心どきどきしながらも思い込もうとしてた。 だけど、2回・3回となって・・5回目になった時点でおかしいと思った。 けど、気のせいだろうって思ったら、ぶっさんが呆れたような表情を浮かべながら近づいてきて、言われて。 ああ、やっぱり変なんだって思った。けどアニは特に気にした風でもなく、一言。
「だって、寒いから」 「・・・・はあ?」
俺とぶっさんが、ハモる。
「だって、マスターはくっくと頭邪魔でウザイし、ぶっさんは体温低いし」 「心が冷たいから」 「ちっげーよ!手が冷たい人は心は暖かいんだよ!」 「いや、ぶっさんはもうすぐ死にそうだから冷たいんじゃね?」
・・・・さりげなくひどいこと言うよね、マスターって・・・ けどおかげで話が途切れたから、いいけど。 ちょっと凹みながら、ぶっさんがアニに話を促す。
「で、この前バンビに触ったら暖かかったからさ〜」 「じゃ、今日べったりなのは・・・・・」 「人間ゆたんぽ変わりってことか?」
マスターの問いに、きっぱりハッキリと頷くアニ。 それでか・・と納得するぶっさんたち。けど、俺は納得出来るわけがなく。 凹んだ気持ちとかが一気に押し寄せてきた。
「それだけ!?それだけで今日ずっと腕組んでたのかよ?!」 「だから、そうだって」
そうって・・・・そうだって・・・・ じゃあ、今日ずっとドキドキしてたのは、なんだったんだよ・・・・ そりゃ、勝手にどきどきしてたのが悪いんだけどさ・・・好きな子にそんなことされたら、どきどきするに決まってんじゃん!
「バンビは子供体温だからな」 「あ、そっか。バンビ童貞だからか」 「もう童貞じゃねーよ!!!」 「でもすてたのつい最近だから、子供体温なんだ」 「子供体温と童貞と関係ないっつーの!」
いつものオチに、凹んだ気持ちがさらに落ちていく気がした。
「もういいよ!」
むかついて勢いよく腕を放すと、アニがビックリした表情を浮かべる。 なんで俺が怒ってるのすらわかってないみたいで、そのことにさらにむかついてアニの顔みないようにそっぽむいた。
「大人げねぇ・・・」
ぶっさんが呟くのが聞こえたけど、そんなことわかってる。 わかってるけど、でもなんかむかつんだよ。
「バンビ」
アニの声がしたけど、振り返るもんかって背中を向けた。 ここで振り返ったら、アニはまた同じことするってわかってるから。絶対振り返らないんだ。
「バーンビ」
さっきよりも高めの声がして、それも近くで聞こえてきて。 後ろにいるのかと思った瞬間、背中に暖かい重みが伝わってきた。
「バンビ、なんか怒ってる?」 「・・・・・」
背中に感じるアニの体温にどきどきしてると、後ろからぎゅっと腕が回ってきた。
「じゃあ、今度は俺がゆたんぽになるからさ〜」
それならいいでしょ?なんて言われて。 そーいう問題じゃないって!と思ったけど、それよりもアニの体温が心地よくて・・・・・それに、どういう理由だってアニがそばに来てくれるのは、やっぱ嬉しいわけで。そう思ってしまった以上怒れるわけがなく。
「・・・・なら、いいけど・・・・」
言ったら、アニは安心したように嬉しそうに笑ってくれた。
そんな状態を、周りははんなりと見守っていた。 何かが間違ってる・・・そう思ったけれど二人の雰囲気に押されて何も言えるわけがなく。
「バカップル状態・・・・・」
呆れる他メンバーの呟きも、今のバンビには幸せな囁きにしか聞こえないのであった。
|