| 2002年04月03日(水) |
笑顔の行方(バンアニでぶっさん視点) |
野球部の練習が終わり、純に捕まる前に飛び出してきたというアニは、疲れのせいかビール3杯で潰れてしまった。 ここ最近では特等席になっているソファに転がって、純のことや野球部のことを話しているのに適当に相槌打っていたけれど。いつしか聞こえなくなった声に変に思いソファに近づくと、目を閉じて静かに眠っていた。 クッションを抱えたまま眠るアニに「おまえいくつだよ」なんて言いながら眺めていると、その視界が一瞬遮られた。 暗闇から開放されたと思ったら、目の前のアニに毛布がかけられていた。 いつのまにきたのか、バンビが隣にきて眠るアニに毛布をかけたらしい。
相変わらず、アニに関しては目ざといというか、まめというか・・・
そっと、毛布越しにアニに触れるバンビ。 その視線は、真っ直ぐにアニだけを捕らえてて・・・愛しいものを見るような・・・・慈しむ?そんな感じで。 自分が見られてるわけでもないのに、見てるこっちが恥ずかしいような、なんだかむずがゆくなりそうな視線で。
そんな視線を、もうずっと・・・出会った日からアニに送っている。
冷めてるふりしながら、アニがそっぽを向いたときいだけ見せる、バンビの顔。 アニの前では決してしない、バンビの素直な表情。 出会った頃はただ熱いだけの、高校卒業したときは戸惑いの、そして今は少しの切なさを含んだ視線。 アニが監督するようになって、前みたいに会えなくなって・・・監督という仕事にハマっていく姿が遠く感じられて。 『ダメ人間』だった、手のかかる存在だったアニがどんどん離れていって。 アニ自身が遠くにいってしまうように感じられると、監督にさせた張本人である自分でさえ思うのだ。 アニを好きなバンビは余計に感じられるんだろう。 今も、アニがそばにいて嬉しいんだけど、でも次はいつ会えるかわからないと。そんな不安もあるからこんなに切ない表情を浮かべているのだろう。
見てらんねーよ。
余計なことだとはわかっているけれど。 だけど、その表情を見ていると自分まで不安になりそうで・・・・・そんな姿を残したまま逝けないと、思った。
「バンビ」 「ん〜?」 「オマエ、このままでいいのかよ?」 「何が」 「アニのこと。好きなんだろ」
ビクっと肩をすくませたまま動かなかったけれど、知ってたよ。一言告げるとため息と共に顔をあげて自分のほうへと向けてきた。
「・・・気付いてた?」 「そら、オマエの態度見てればな」
わかりやすいからな。言うと少しむっとした表情を浮かべたけれど、すぐに真剣な顔へと戻った。
「アニも気付いてる・・・・」 「わけねーだろ。もっとも、気付かないのはアニくらいだろうけどな」
その言葉にほっと安心したような表情を浮かべるバンビ。 あんなに真っ直ぐな視線を送っているのに、本人には気付かれたくないらしい。 仲間だからとか身近すぎるとか男だとか、理由はたくさんあるのだろうけど。 けれど一番の理由はきっと「フラれるのが怖い」んだろう。 フラれて、傍にいられなくなるのが怖いんだろうと思う。その気持ちはわかる。 けれど、この関係のままならば、ずっとそばにいられるなんてことは出来なくなる日がくる。 それは遠い未来かもしれないし、近い将来なのかもしれない。 アニに好きな人が出来たら、この関係はきっと崩れる。 バンビの心も崩壊するだけだ。
「このままでいいのかよ」 「だって・・・・告白して気まずくなったらヤだし・・・・それならこのままでいたほうがいい」
ああ、やっぱりな。 だけど、その目は「諦めてない」って物語ってる。このままじゃいやだと。アニに触れたいって、誰よりもそばにいたいと願ってる。
だったら、キッカケをつくればいいってことだろ。
「なら、俺がもらってもいいんだな?」 「え!」 「俺だってアニをずっと見てきた一人だぞ」 「え・・・・ぶっさんも?」
驚きに充ちた表情を浮かべるバンビを真っ直ぐに見据える。 静かに頷くと、表情は真剣なものにかわった。
「・・・俺が、アニに告ってもいいんだな?」 「・・・ダメだって!」 「なんでダメなんだよ。オマエはする気ないんだろ?」 「うん・・・」 「今のままでいいんだろ?なら俺がしたって別にいいだろーが」 「それは・・・・・」
バンビは視線を外して、アニをじっと見つめていた。 眠るアニをただじっと。それ以外何も出来なくなったかのように。 見つめ続けていた。 俺もただひたすらバンビの答えを待っていた。
そうして、数分・・・・何分たったのだろうか。 アニから視線を戻して、真っ直ぐに視線を合わすバンビに合わせて、俺も真っ直ぐに前を見つめた。 視線がぶつかった瞬間、
「わかった。言うよ」
ハッキリとした声音で言われ、それが本気なんだと思った。
「うまくいかなくても、普通にしててよ!」 「わーかった」
苦笑いを浮かべながら言っているけど。 それはきっとないだろうと宣言できる。 うまくいかない、なんてことはないだろう。
きっとうまくいく。 だって、バンビを見るアニの視線も、オマエと同じだから。 オマエは目をそらすから気付いてないだろうけど。 お前ら二人、同じことしてんだって。さっさと気付けッつーの。
「ぶっさん・・・・ありがとな」 「おう」
照れたような顔を浮かべるバンビに、笑顔を返してやると安心したように笑った。
「じゃ、俺帰るわ」
二人に背を向けて、バンビを残して店を出て、「はああ」と深呼吸を1つする。
肩の荷が下りたって、こーいうことを言うんだろーな。
安心したような、だけどほんの少し寂しいような気もするけれど。 空を見上げると、雲1つないのだろう。いっぱいの星が見えた。
きっと、明日は晴れるだろう。
そんな予感がした。
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