| 2002年04月02日(火) |
届きますように(バンアニ) |
「あ・・・・・」
学校の帰り道、神社を通り過ぎようとしたら階段に座りこんでるアニを見つけた。
「よう、今帰り?」 「あ、ああ」
なんでこんなとこにいるんだ? 神社を通りすぎたらすぐ目の前にアニの家がある。なのにわざわざここにいるわけは、なんだ? もしかして。いつも遠回りしてることを悟られたんじゃないかって思って、ビクつきながら答えた。 けれど気にした風ではなく「ふ〜ん」なんて力ない返事が返ってきて、俯いてしまった。 その様子がいつもと違っていて、どこか元気がない気がして、このままにしておけないって思った。
「なに、やってんの?」 「ん〜・・・親がうるさくてさ。出てきた」
力なく笑うアニ。 家にいると親の視線がイヤだと、以前言ってたのを思い出した。 アニの甲子園行きがパーになってからというもの、親からの期待は一切なくなり。その変わり純が活躍するようになり、功績を残すたびに比較されてたらしい。 「純くんはがんばってるのにねえ」なんて近所のおばちゃんが話してるのを聞いたことがある。 小さな町では、噂話や情報などはすぐに広まるから。アニの変わり様と純の勇姿は井戸端会議の格好のネタになっていた。 『甲子園に行けなかった』というレッテルを貼られて、比較されて噂されて。その姿を見るたびにムカムカする気持を押さえてた。 俺でさえそうなんだから、当事者であるアニはもっと辛いんだろうな。 外でも言われて。中でも言われて。
「アニ・・・・・」
小さく丸まって座るアニの横に静かに座った。 何が出来るわけじゃないけど、一人にするなんて出来ないし。 何より、そばにいたかった。
「マスターんとこ行く?」
とにかく、この場所から離そうと思って言ったけれど。少し間が空いたあと首を横に振られて、それ以上何も言えなくて困った。
こーいうとき、自分の不甲斐ないとこがイヤになる。 思ったことをうまく言えない。言いたいことは・・・・伝えたいことはたくさんあるはずなのに、言葉にならない。 きっと・・・・ぶっさんならうまく言ったんだろうな。 いつもいつもアニが落ちこんでたり泣いたりしてるとぶっさんがそばにいて。ぶっきらぼうにだけど、最後には必ずアニを笑顔にさせてる。
自分が欲しいポジションを、ぶっさんは持ってる。
それに嫉妬したりもした。なんで出会ったのがぶっさんより遅かったんだろうって悔んだときもあった。 今も、自然とぶっさんを思い浮かべてて。自分に出来ないことに悔んで嫉妬して。
悔んで悩んで嫉妬して。
だけど、やっぱり諦められなくて。 好きで。
こんなとき、そばにいたいと思う。 例え望まれてなかったとしても、それでもいいと思えるくらいに。 アニが好きだから。
(好きだよ)
ずっと、ずうっと伝えたい言葉。 いつも呪文のように、呟く言葉。
いつか、声に出して言える日はくるのかな?
17時を知らせるように、ホタルの光が流れている。 あれから、何分たっただろう。 結局俺は何も出来なくて、二人で神社の階段に座りこんでいた。 俯いたまま何も言わないアニのそばに、ただ黙って隣に座ってた。 こんなんでアニの気持が薄れるなんて思えないけど・・・・だけど、どうしたらおいいのかわからなかった。
「ん〜〜〜」
突然腕を上げて伸びをするアニに、びっくりして慌てて顔をあげる。 横顔しか見えないけれど、さっきよりも落ちついた表情を浮かべてるから、きっともう大丈夫なんだろうって思った。 俺もホッとして、座ったままで固まってた体をアニと同じように伸ばした。 骨が伸びるような感覚がして、それでカラダも気を張った心も柔らかくなったような気がした。
「バンビ」 「ん?」
一通りカラダを伸ばして深呼吸して落ちついたような表情を浮かべたあと。 アニは俯いた顔をあげて、少し照れたような表情を浮かべた。
「バンビがそばにいてくれて、助かった」
言葉とともに、肩に暖かい温もりを感じた。 アニが、寄りかかるように俺の肩にもたれて・・・・そしてポツリと「ありがと」と・・・・小さな囁きだったけど、確かに聞こえたような気がした。
「ありがと、バンビ」
今度はしっかりと聞こえた声にアニを見ると、笑顔を浮かべていた。 それは、俺が今まで見てきた笑顔だった。ぶっさんのそばで浮かべる、アニの笑顔。 同じものが、俺の隣にある。
いや。 今目の前にあるのは、俺の、俺だけの笑顔。 そう思っても、いいんだよね?
隣にいたのも自己満足だし、今感じてることも自己完結に過ぎないけど・・・ 俺も、アニの中にいるって。 アニの隣に場所があるって、少し思えた。
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