| 2002年03月30日(土) |
ぶらんこ(ぶつアニ) |
「ぶっさん、ここ覚えてる?」 帰り道。ビールを買って帰りたいというぶっさんに付き合うためにいつもと違った道を通っていた。 ある公園の前を通ったとき、アニが懐かしそうに言った。 ブランコに滑り台。そして鉄棒しかない殺風景な公園。 けれど、二人にとっては思い出の場所でもあった。 二人だけど、秘密の場所。 「ああ。あんとき待ち合わせしてたとこだろ」 ぶっさんも懐かしそうに言った。
物心ついたときから、木更津では野球がブームになっていた。 なので、ぶっさん達も当たり前のように小学生の頃から野球チームに入っていた。 別に強制ではなかったが、ぶっさん自身野球が好きだったから入ったのだったけど。 その後を追うようにアニも入ってきた。 「だって、ぶっさん遊んでくれないんだもん」 だから、ぶっさんと一緒にいるには入るしかないんだもんと言われて、なんだその理由は、なんて言いながら本当は嬉しかったことを覚えてる。 家が近かったから、自然と一緒に遊ぶようになったアニは、ぶっさんにとっては『仲間』でいて、『手のかかる弟』のような存在でもあった。 一人っ子のぶっさんは、一生懸命自分の後を追ってくるアニがかわいくて仕方なかった。 だから、アニが野球チームに入ったときは、口ではなんか言いながらも歓迎していた。
自分だって、アニと一緒にいられるのは嬉しいから。
だけど、あの頃は周りより体格が小さめであまり運動神経もなかったアニは、練習についていくのが精一杯で。 気づけば、レギュラーのぶっさんとは離れて練習させられていた。 「ぶっさんと一緒がいい!」と駄々をこねてもどーにもならない現状に、アニは毎回拗ねた顔を浮かべていた。
(あ〜これはもう持たないかもなあ)
元々練習とか運動とかあまり得意ではないアニだから、いい加減嫌気がさして辞めるかもしれないとぶっさんは思っていた。 だから、練習後に呼び止められたとき「とうとう辞めるって言うのか?」なんて思っていたけど。
「ぶっさん!俺に野球教えて!」
真剣な表情を浮かべるアニを、ぶっさんは呆然と見つめていた。 練習とか面倒なことはすぐに放り投げるアニが、自分から練習したいと出だすなんて思わなかった。 しかも、うまくなりたいなんて。 だけど、自分はキャッチャーだから教えられることは少ない。 「バンビとかに教わったほうがいいんじゃねえ?」 そう言うと、アニは黙ったまま下を向いてしまった。 「・・・・・みんなには内緒にしたいんだよ!」 真っ赤になりながら、少し恥じらいながら言うアニ。 それがなんだかかわいくて笑みを浮かべると、アニは真っ赤になりながら睨んできた。 それに慌てて笑いを引っ込めると、半分拗ねてそぽ向いてるアニに問いかけた。 「じゃあ、練習ない日にこっそり特訓するか?」 「うん!」 ぱあっと笑みを浮かべて、嬉しそうに返事をするアニ。 「じゃ、どっかで待ち合わせしないとな。みんなに見つからないようにしないといけないし」 「じゃあ、あそこにしよう!外れの公園!」 外れのとは、商店街を少し歩いたとこにある、小さな公園。 遊ぶものが3つしかないので、今では子供も寄りつかなくて駐車場状態になっているとこのことだった。 あそこなら、同じチームのやつらには見つからないだろう。 「じゃあ、終ったらあそこに待ち合わせにするか」 「うん!絶対だよ!約束!」 「ああ、指きりするか?」 「する!」 冗談のつもりで言ったのに嬉しそうに返されて、ぶっさんは苦笑しながらアニが出した指を自分のを絡めた。
「しっかし、毎回ぶらんこんとこで待ってたよな」 「だって!ぶらんこ好きだし・・・・・・」
待ち合わせ場所に行くと、入り口のところにアニの姿はなく、不思議に思ったぶっさんが中に入っていくと。 アニは、ぶらんこを大きく揺らしていた。 それはもう楽しそうに乗っているから、声かけるのを躊躇ったほどに。 「なんかさ、漕げば漕ぐほど高く上がっていくのが嬉しくてさ。いっぱい漕いでいけば空に届くような気がしてたんだよ」 そうだなと、ぶっさんもぼんやりと思った。 あの頃の自分達は、自分の力で高く上がるなんてことは出来なかったから。 唯一上がる事の出来るのは公園のぶらんこだった。 漕げば漕ぐほど、目の前には空が広がってきて。 もっともっと漕げば、空にも届くんじゃないかって思うくらいだった。 「ま、馬鹿と煙は高いとこが好きだって言うしな」 「うっわ、ぶっさんひでぇ!!」 泣き真似するアニ。けれど、顔は笑っていた。
昔から仲間と一緒にいたけれど。 そのことは、二人だけの秘密の思い出。 唯一、二人だけの思い出。二人だけの内緒の待ち合わせ場所。
それは、なんとなく甘い思い出になって。 二人の心に残っている。
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