| 2002年03月26日(火) |
変わらない日々(バンアニで純アニ?ぶっさん語り) |
「うーっす」 猛暑が続く木更津で、相変わらずのメンバーが集まっているであろうマスターの店に現れたぶっさんは、掛けつけにジョッキを飲み干しながら、ふと周りが異常なことに気付いた。 「・・・なんか空気悪くねえ?」 「あれ」 マスターが指したのは、バンビの不機嫌な横顔だった。 いつからいたのか全然気付かなかったぶっさんは驚いたが、そのままバンビの視線を追っていくと。 「・・・・なるほどな」 ぶっさん達から少し離れた場所。奥の座敷のところにアニと弟の純がいた。 「さっき純がきてさ。なんだかんだ話してるうちにあーなったわけ」 「ふうん。で、それを何も言えないバンビが不機嫌な顔して見てるわけだ」 「ご名答」 えぜえよなあなんてマスターに先に言われて頷きながら、ぶっさんはタメイキをもらした。
純とアニが一緒にいて、バンビが不機嫌な顔を浮かべる。
それは今となっては見慣れた光景ではあった。
(コイツ、昔っから変わってねーよなあ)
昔。 出会ったばかりの頃から、バンビはアニのことが好きだった。多分、一目ボレとかそれくらいの早さで。 もっとも、本人は自覚がないけれど見てれば一目瞭然で。 アニが一緒に遊ぶとバンビは目に見えてご機嫌で張り切る。近所のやつらと野球するときなんかアニがいるといないじゃ勝敗が大きく変わるほどだった。 しかし、逆にアニがいてもすこぶる不機嫌な時があった。 それはたった一つ。 弟の純が一緒のときだ。 あの頃は弟がアニの後をくっついてきていた。自分達とじゃ対等に遊べないのにそれでもアニと離れたくないからか、一生懸命ついてこようとしていた。 だけど仲間に入れられるわけがなく、必然的にアニは純の面倒をみなければいけなくなる。 そうなるとアニは純にぴったりくっついてる状態だから、自分達とも遊ぶことが出来ない。 言わば、アニを一人占め状態の純。それをバンビがおもしろくないと思うのも無理はないだろう。 不機嫌な顔しながら遊んで。それでもアニが気になって気付いたらそっちを見てる状態で。 何度、うざいと思ったことか。 しかし、あの頃は逆に純がバンビに嫉妬しているときもあった。 アニだっていつまでも弟の面倒だけを見てるだけなのも嫌になり、最後には必ず弟をほっぽいて輪の中に入ってくるときがある。 その場合大抵バンビがなんだかんだと嬉しそうに構ったりして。 恨めしそうに見つめる純に向かって勝ち誇ったような笑みを浮かべる。 ガキ相手にムキになってるバンビも問題だけど。 何時の頃かバンビVS純の図式が成り立っていた。 アニを挟んでのトライアングル。 そうして、それはアニが高校を卒業するまで続いていた。
いつからだろうか。その図式が崩れたのは。 アニが監督になってからか? あの頃から純に余裕が出てきたような気がした。 アニがぶっさん達と一緒にいるとこを見ても、前のように睨んだり明らかな嫉妬の感情を出さなくなった。 今も、ここで飲んでるアニを咎めるでもなく普通に接していた。 (昔だったら馬鹿にしたような視線の一つでも送ってるのにな) しかし、かたやバンビはと言うと・・・・・
「アイツも、こんなとこまで押しかけてくるなっつーの」
相変わらず不機嫌な顔を浮かべてアニ達を見てるバンビ。 その顔は純よりも幾分年上であるはずなのに、純よりも子供のように見える。 オトナになった純に、子供のままのバンビ。
「いい加減アニ離れしろっつーの」 「だろ!ぶっさんもそー思うだろ!?」
ぼそっと周りに聞こえないくらいの小さな独り言を吐いたのに、バンビは素早く反応してきた。 ばっと振り返ると不機嫌な顔そのままに、あーだこーだと文句を言い始めた。 (あ〜うぜぇ) ぶっさんとしては「アニ離れしろ」とバンビのことを言ったつもりだったけれど、バンビは「兄離れ」と取ったらしい。 「アニ」と「兄」 言い方は同じだけれど、意味は大きく変わる。 しばらくずっと不機嫌なバンビにいい加減うざくなってなんか言おうとしたが、それより早く奥で純が立ち上がった。 靴をはき、こちらにぺこりと挨拶しながら店を出て行くと、それに次いでアニもカウンター前のソファに腰を下ろす。 偶然かわからないがバンビの横に座ったアニにバンビは嬉しそうにしながら。 しかし、表情とは逆のことを言っていた。
「こんなとこまで野球部のこと持ち込むなよな」 「いいじゃねーかよ。バンビにはかんけーねーんだし」
相変わらず素直になれないバンビは、アニが戻ってきたのが嬉しいのにこんなことしか言えなくて。 それにムっとしたアニが言った「関係ない」という言葉に傷ついてたり。 (あ〜あ。ったく) ぶっさんが苦笑いを洩らす。 昔から変わらず素直じゃなくて・・・不器用なやつだと思った。
ホント、かわんねーよな。
それに苦笑いしながら。 それでも変わらない彼らが嬉しいと、思った。
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