かつて『ガイアメモリ』を使用して復讐しようとした人間達を救おうと 必死で奔走する翔太郎の姿をフィリップはいつも傍らで見つめていた。
『ガイアメモリ』の力に完全に呑まれ、 人間には戻れなくなってしまった九条綾さえ、翔太郎は信じようとしていた。
もし、この男の命が奪われたとしたら、 おそらく自分は鬼と化して復讐するだろう、とフィリップは想う。
だが、もし・・・ 翔太郎では無く、フィリップの命が奪われたとしたら?
“こんな事をしてもキミの為にならない!復讐なんてやめろ! 復讐なんかでキミの哀しみは消えやしない!”
かつての彼自身の様に、 そう言って翔太郎を止める人間が、 もしその時、彼の傍にいなかったら?
この優しい男も、 鬼になってしまうのだろうか?
怒りと憎しみと云うマイナスの感情に支配され、 身も心もドーパントになって、 ただ獲物を引き裂く事に悦びを見出す哀しい復讐鬼になり果てて・・・
あの微笑も、 人としての感情も、 何もかも忘れてしまうのだろうか? 『ハーフボイルド』 その優しさ故に・・・。
そんな筈は無い、 翔太郎に限って・・・とフィリップは想いたかった。 だが・・・
フィリップは胸の中に抱いた花を散らさぬ様、 無情に吹き渡る風が当たらない様に守り庇いながら、 ハードボイルダーを駆る翔太郎の背中に必死にしがみついていた。
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