「フィリップ・・・ もし左を誰かに殺されたら、キミはどうする?」
「え?」
突然、竜にそう問い掛けられてフィリップは戸惑い、黒い瞳を大きく見開いた。 竜は長い睫毛に縁取られた瞼をフッと瞬かせながら更に問い掛ける。
「かけがえのない人間を理不尽な手段で奪われた哀しみや怒りは 当事者で無ければ判らない。 もしそうなったら、キミはどうする? 俺や九条の様に『ガイアメモリ』を使って復讐しようなんて考えないと言い切れるか?」
「僕は・・・」
フィリップは右手の指先で自分の下唇を撫でながら頭の中で考えを巡らせる・・・。 その答えをはっきりと見付けられない内に竜は問いを重ねて来た。
「左は・・・アイツはどうするだろうな?もしキミを誰かに殺されたら・・・?」
予想外の質問にフィリップは想わず言葉を失う。
「“復讐なんかした処で何の意味も無い”とスッパリ割切るかな? それとも案外、俺や九条と同じ様に・・・」
「翔太郎が? キミや九条綾の様に・・・だって?」
もし自分が殺されたら? そんな事、今まで考えてみた事も無かった。
「有り得ない話じゃないだろう? だが、仮にそうなった時、 もしキミ達が『ガイアメモリ』を使って復讐したとしても俺は止めないぜ。 俺は左の様にお人好しじゃ無い・・・ 『ハーフ・ボイルド』じゃないからな。」
確かにこの男は九条綾が阿久津を倒すのを止めなかった。
「もちろん無実の人間を手に掛けた時には遠慮無く逮捕させて貰うぞ。」
今まで自分がして来た事を棚上げした台詞を言いながら、 竜は唇の端を上げてフフッと薄く微笑った。
「私用に付き合わせて悪かったな。 その花は持って帰れ、せめてもの礼だ。」
「あ・・・ありがとう。」
立ち上がった竜と並んでフィリップは歩き始めた。 右手の中のフリージアの花が風に揺れて甘く芳しい匂いが、ふわりと鼻腔に忍び込む・・・。
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