Monologue

2010年03月12日(金) 無邪鬼な花 2

やがて『風都メモリアルパーク』に到着すると、
フィリップは竜に続いてディアブロッサから降りた。

竜はフィリップに、「悪いが持っててくれ」とフリージアの花束を渡し、
霊園で借りたバケツに柄杓を入れて水を汲むと、墓地内へ向かって歩き始めた。
フィリップは黙って竜の後に追いて行く。

やがて辿り着いたのは『照井家之墓』と刻まれた墓石の前だった。

竜は墓石に打ち水をし、
フィリップが持っていた花束から数本だけ引き抜いて花立に立てると、
水鉢に新しい水を注ぎ、
レザージャケットのポケットから取り出した蝋燭と線香にライターで火を点けて手向けた。

「フリージアは妹が大好きだった花だ。」

「『フリージア』・・・
アヤメ科フリージア属の半耐寒性の球根植物、
葉は劒形で数枚垂直に立ち、
露地植えでは春に草丈が50〜100cmくらいになり穂状花序をなし、
白・黄色・紅・ピンク・赤紫・藤色・オレンジ色などの6弁花を咲かせる。
花言葉は色によって異なり、黄色は『無邪気』・・・」

「判った、もう良い・・・」

竜に制されて、
フィリップは『フリージア』に関する項目を口述するのをピタッと止めた。

「俺の妹も花言葉通りに『無邪気』で可愛いヤツだった。
生きていれば、この4月から高校生になる筈だった、
高校に行ったら、
俺よりイケメンの彼氏を作ると張り切っていた・・・」

「キミの妹さんは彼氏のハードル初期設定が、かなり高過ぎるんじゃないのかい?」

フィリップの言葉に竜はフッと苦笑した。

竜と二人で並んで瞳を閉じて、しばし合掌礼拝する。

(『家族』か・・・。)

フィリップには家族の記憶が無い。
だからもし自分の家族が殺されていたとして、
その事実を知ったとしても、
竜の様に復讐しようと考える以前に何の感情も湧いて来ないだろう。

フィリップにとって『家族』と云えるのは翔太郎と亜樹子だけだ。

「さて・・・
もう少しだけ、俺『に』付き合ってもらおうか。」

促す様に言いながら竜は立ち上がり、バケツを片手に持ってスタスタ歩き始めた。
フィリップは無言で後を追いて行く。


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