Monologue

2010年02月28日(日) Pの記憶/小さな恋のメロディ 7

「おい!何、ぼさっとしてんだ!」

男の怒声で僕はハッと我に返る。

先刻、初めて挿入したファングメモリの所為で理性が吹き飛び、
ファングジョーカーと化して暴走していた僕を止めたのは彼だった。

彼の左手が咄嗟にメモリを引き抜いて変身が解除されなかったら、
僕達は暴走し続け、そのまま人間には戻れなくなっていたかもしれない・・・。

変身解除した直後、
茫然自失して座り込んでいた僕の右手を掴むと、
ブレザーの男は満身の力を込めてグイ!と引っ張った。

「俺はおやっさんからお前を託された、
だから、お前が悪魔だろうが何だろうが、絶対に守ってやる!」

汗ばんだ熱い男の掌を、僕は強く握り返して、
夜空に爆炎を吹き上げながら燃え盛るガイアタワーに背を向けた。

海岸のゴツゴツした岩の鋭利な先端がまるで氷の棘の様に、
裸足の裏の皮膚に冷たく喰い込む。

漆黒の夜の海が紅蓮の炎の照り返しを波間のあちこちに赤く浮かべて、
視界一杯に拡がっていた。
まるで地獄へ向かう三途の河に・・・。

だが、何故か不安や恐怖は全く感じなかった。

『おやっさん』と呼ばれていた男がくれた『フィリップ』と云う名前と、
少し汗ばんだ男の熱い掌を強く強く握りしめて、僕は昏い海へと向かって駆けて行く。


この掌はもう絶対に離さない。
離すまいと・・・僕は決めた。

たとえ行き先が地獄の底であったとしても、
この熱い掌を離さずにいれば、
きっと僕は・・・・・・。
                                              


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