| 2010年02月27日(土) |
Pの記憶/小さな恋のメロディ 6 |
突然、背後から声を掛けられた。 振り返ると見覚えの無いブレザー姿の若い男が立っている。
侵入者か? だが、諜報工作員にしてはスキだらけだし、組織の構成員候補か? それにしては、あまりにも・・・。
「誰だい?キミは・・・。 組織に見出される程、知能が高そうな顔には見えないけど。」
「何だと?」
どうやら気に障ったらしく男は形の良い眉を顰めた。
構成員を呼んで捕まえさせようか?と一瞬考えたが、 この男はあまりにも緊張感が無さ過ぎる。
男達を呼ぶのも面倒臭いし、 しばらく放置しておいても特に害は無さそうだ。
好奇心に満ちた瞳を輝かせながら、 僕の後を追いて来る男を、 わざと視界の範疇外に締め出して作業室に入る。
キーボードの傍に置かれていた茶色のビンを取り上げる。 蓋を開けて斜目に傾けてザラザラザラ・・・ッと、 左掌に零れ出た白い錠剤を口に放り込み、 ポリポリと奥歯で噛み砕く。
PCの液晶画面を見ながら、再びビンを傾けて掌の上に錠剤を出そうとした途端、 右手首をガシッ!と強い力で掴まれた。
「おい!お前、何やってんだ?それ薬じゃねェのか?」
僕の後ろをうろうろ追いて来ていたあの若い男が、 鳶色の瞳を吊り上げながら厳しい口調で僕に言う。
「そうだけど・・・?」
僕は男の無礼な態度に嫌悪感を顕にして、掴まれた手首を思い切り振り払った。
予想外に男の力は強く、振り解くのにかなり力が要った。
「だったらその飲み方は、かなり間違ってるんじゃねェのか? そんなに飲んだら却って身体に毒だろ!胃が荒れちまうぞ!」
「何だい?キミは?いちいちうるさいな! 僕は頭が痛いから飲んでるんだよ!放っておいてくれたまえ!」
「あん?」
訝しそうに男は首を傾げると、 スッ・・・と、 少し汗ばんだ熱い大きな掌を僕の額に当てた。
「・・・確かに少し熱有るみてぇだな?」
ドク・・・ン!と心臓が大きく音を立てて脈打つ。
「おい?これは何だ?」
男は液晶画面に映っている映像に視線を移すと、表示されている文字を読み上げた。
「ガ・イ・ア・・・メモリ?」
「ガイアメモリ。 これは地球上の事象を記憶した装置。これを使えば誰だって超人になれる。」
「そうか!これを使って犯罪を・・・。この悪魔野郎!」
突然、男は僕の胸倉をグィッと掴み上げ、ギッ!と鋭く睨み付けた。
この男も僕を『悪魔』と呼ぶのか・・・。
ふと僕は男が手にしている銀色のケースに瞳を留める。
何故か、 急にムラムラと好奇心が沸き起こり、僕はそのケースに指先を伸ばした。 僕が触れた弾みで床に落ちた銀色のケースを、男よりも先に拾い上げて、 蓋を開けてみると、 中には深赤色のドライバーと6本のガイアメモリが並んで収められていた。
「すごい!誰が作ったんだい?」
僕は思わず感嘆の声を上げた。
「これを使った人間は僕と一体になれる。 それに二本のメモリを同時に使えるなんて・・・!」
大した物だ・・・。 一目見ただけで、これを作った人間の技術力の高さを認識出来る。
「おい、俺の話を聞け!犯罪者!」
僕は男の無礼な言葉を聴き咎めて、 思わず額に縦皺を寄せながら反論する。
「じゃあ君は、拳銃を作る者は犯罪者だと言うのかい?」
ぐ・・・ッと男は返答に詰まった。
「それと同じさ、作る者でなく使う者。 僕はただ、より大きな力を生み出すメモリを作りたい・・・それだけさ。」
そうだ、 それだけの理由で、今まで僕はガイアメモリを作り続けて来た。 でも・・・。
「この野郎!」と怒声と共に、 バン!と思い切り突き飛ばされた次の瞬間、 シュンッと云う音と共に視界が掻き消え、周囲が白い闇に包まれる。
男に突き飛ばされた弾みで『ガイアタワー』の転送BOXに閉じ込められてしまった。
“この悪魔野郎!”
先刻の男が自分に向かって吐き捨てた言葉が耳に甦る。 ふと、右手首を見ると、あの男に掴まれた箇所が少し赤くなっていた。
頭だけじゃ無く、力もバカな男だね。 知能はともかく、 瞬発力は有るし・・・身体能力は、かなり高いと思われる。
ふと銀色のケース内に収められていた深赤色のドライバーを想起する。 彼ならば、 あのダブルドライバーの『ボディサイド』を任せられそうだ。
だが、彼はもう二度と悪魔の手を掴んでくれたりはしないだろう・・・。
“確かに少し熱有るみてぇだな?”
額に右掌を、そっと押し当ててみる。 やはり、少し熱が有るようだ・・・。
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