Monologue

2010年02月26日(金) Pの記憶/小さな恋のメロディ 5

“いたぁ・・・い・・・いた・・いよぉ・・・”

どこか遠くで子供の泣き声が聴こえる。
その声が自分のモノだと気付くのに、しばらく時間が掛かった。

“どうしたの?ころんじゃったの?・・・・いと。

そよ風の様な声が僕の鼻先を擽る。
擦りむいた膝の傷口を気遣う様に、
ふわりと触れられた誰かの小さな掌・・・。

そのぬくもりは、
いつも夢で見ているのと同じ温かい感触。

“おまじないしてあげる、
いたいの、いたいの、とんでけ〜〜〜♪”

澄んだ声が唱える優しい呪文、
その人の美しい声はいつも僕を癒してくれた・・・。


瞳を覚ました。

いつの間にか拘束服は脱がされ、
白いシルクのパジャマに着替えさせられて、
硬く糊を効かせたシーツでメイキングされたベッドに寝かされていた。

生体コネクタを抉じ開けられた箇所に、そっと指先を触れてみると、
ご丁寧にコネクタ痕を塞ぐ処置が施されていた。

サディスト共め!
あんなメモリ作るんじゃなかった・・・。


“ギィァァァ・・・”

小さな咆哮が耳元で聴こえる。
視線を向けると、枕元にファングが小さな頭を垂れて、
心配そうに僕の顔を覗き込んでいた。

「ファング・・・。
僕を心配してくれてるのかい?大丈夫だよ。」

白いファングの小さな身体に向かって右手を伸ばす。
ヒヤリ・・・と硬質な金属の感触が指先に触れた。
冷たくて硬いファングの身体を、そっと右掌で包み込んで握り締める・・・。

ふいに、瞳から涙が溢れ出た。

“あ・・・く・・ま・・・・。”

“あのガキは悪魔だ。
あんなひどい人体実験を見ても平然としてやがる。
今に地獄に堕ちるぜ・・・。“

『地獄』か・・・
此処だって、大して変わらないよ・・・。

あの掌を、
僕は一体いつ離してしまったんだろう?
ずっと握ったまま、離さずにいれば良かった。

あの掌のぬくもりの記憶だけが、
かろうじて僕を『人間』に繋ぎ止めている様な気がした。


ズキズキズキ・・・とこめかみが激しい頭痛に疼く。
アミノフェンを飲まなきゃ・・・。
早く作業に取り掛かって、
遅れている分のメモリを作らないと、どんな目に合わされるか判らない。

ファングの身体を放してベッドに掌を着いて重い身体を起こす。
「ぐ・・・ッ!」
『Pain』を使われた余韻の痛みが全身の神経に針の様に鋭く突き刺さり、
くらくらと眩暈がした。

「・・・う・・ッ!」

ベッドから降り、
部屋の壁に掌を着いて、ふらつく身体をかろうじて支えながら、
アミノフェンのビンを置いてある機械室に向かって廊下を歩いている・・・と、


「・・・おい、おまえが『運命の子』か?」


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