Monologue

2010年02月22日(月) Pの記憶/小さな恋のメロディ 1

“なんで・・・わたしをおこらせるの?”

そう呟くと、
僕の瞳の前の人影は、落ちていた石を拾い上げて、
遥か向こうに立っている冷たい瞳をした人物に向かって投げ付け様とした。

“・・・ダメ!”

僕は駆け寄って、その人の振り上げられた右拳を掴んで引き止める。

“そんなことするの、本当の・・・・ちゃん・・・じゃないよ!”

僕がそう言った途端、
その人の右拳は一瞬、硬直し、僕の掌の中でぶるぶる小刻みに震え始めた。
まるで敵に怯えた小動物の様な、柔らかくてほんわりと温かい、拳の感触・・・ 。


瞳が覚めた。
左のこめかみがズキズキズキズキ・・・と激しい頭痛に疼いている。

ああ、また、あの夢か・・・。
あの冷たい瞳をした人物による理不尽な暴力に対して、
怒りを込めて拳を振り上げた人物に駆け寄って引き止める夢。

この研究所内では誰かの手に触れる機会など無いに等しいから、
これは削除される前の記憶の欠片に違いない。

記憶は無いのに、残像だけが時折フラッシュバックする・・・。


暗闇に等しい薄明の中で、身体を横たえた状態のまま視線だけを上に泳がせる。
部屋の主電灯は点いていないが、
PCの液晶画面やこの部屋内を埋め尽くす機械類のボタンやランプの明かりだけでも、
充分周囲の状況を把握出来る。
どうやら、また作業室で『ガイア言語』の入力をしながら、
うっかり床で眠ってしまったらしい。

それにしても、この頭痛・・・
頭が割れそうにズキズキする。

“ギィァァアア・・・!”
フッ!と、瞳の前に降り立った小さな白い影が、尖った尻尾を上げながら、
高く咆哮を上げる。

「やぁ、ファング。」

そう僕が呼ぶと、
白銀の恐竜型のメモリガジェットは“ギィァァ・・・”と甘える様な声を上げて、
尻尾を振りながら、僕の眼前でピョン、ピョンと可愛らしく跳ねた。

このガイアメモリ・・・ファングには『牙の記憶』が封じ込められている。
だがファングには他のメモリには無い特殊性が2つ有る。

第1は、僕の生体DNAコードがインストールされており、
離れた処に居ても、
僕の居場所はもちろん、僕の呼吸の変化や心拍数の増減まで把握する事が可能である事。

第2は高い知能と自分の意思を持ち、自由に動き回る事が出来る事。

このメモリガジェットは僕の前任者が作ったらしい。
直接会った事は無いが、僕以上の技術を持っていた人物である事は間違い無い。


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ななか [HOMEPAGE]