| 2010年02月20日(土) |
JOKERには敵わない 1 |
“ガチャッ”と『鳴海探偵事務所』のドアが開けられ、 丸テーブルの側の椅子に腰掛けていたフィリップは突然の来訪者の姿に困惑した。
「照井竜・・・。」
「相変わらず無用心な事務所だな? せめて『セ○ムシステム』位、付けたらどうだ?」
朱赤のレザージャケットとパンツ姿の男は、 まるで自分の事務所に帰って来たかの様に室内にズカズカと足を踏み入れた。
「毎日、毎日、懲りない男だね・・・ この事務所に超常犯罪捜査課の分室でも設立するつもりかい?」
招かれざる客に向かってフィリップは冷淡に言い放つ。
「そうしても良いぜ・・・ キミの『検索』は我が超常犯罪捜査課にとって掛け替えの無い能力だからな。」
ふと、竜はフィリップが座っている丸テーブル上に置かれたチェス盤と、 盤上に並べられた赤と白の象牙の駒に瞳を留めた。
「ほぅ・・・チェスか、そんな物がこの事務所に有ったのか?。」
「鳴海荘吉・・・この事務所の前の所長がかなり好きだったらしい。」
素っ気無く答えながら、 フィリップは、赤のナイトをf3へ移動し、白のナイトをc6へ移動させた。 どうやら頭の中で二手に分かれて一人チェスを打っているらしい。
「今度はチェスにハマっているのか?『検索小僧』」
「さっき若菜さんがラジオでチェスの話をしてたんだ・・・。」
独り言の様に呟きながらフィリップは、 赤のビショップをb5に移動させ、白のポーンをa6に移動させる。
「若菜さんは、 たまにお父さんと対戦するけど、強くて全然敵わないって話をしていて、 それを聴いたら、つい・・・。」
す・・・っと脇から伸ばされた竜の細長い指が赤のビショップを取り上げ、 c6の白のナイトを盤上から奪い去った。
「一手、お手合わせ願おうか? 俺もチェスには自信が有る・・・それに、キミとの勝負はなかなか楽しめそうだ。」
ムッと不機嫌そうに眉間に縦皺を寄せ、 不躾な乱入者を睨み付けながらフィリップは白のナイトを奪った赤のビショップを dファイルの白のポーンで取る。
「照井竜・・・ キミは僕には勝てないよ。」
「大した自信だな?そんなに勝つ自信があるなら、 どうだ?一つ賭けでもするか?」
竜は赤のポーンをd4に移動させながらフィリップに問う。
「賭け?」
「キミが勝ったら、次に事件の『検索』を頼む時は依頼料を3割増しで払う。」
「悪くないね・・・亜樹ちゃんが大喜びするよ。」
竜が移動させた赤のポーンをe5に置かれていた白のポーンで取りながら、 フィリップは艶やかな唇にふわりと微笑を浮かべた。
「じゃ俺が勝ったら・・・キミを貰う。」
竜は赤のナイトでd4に置かれた白のポーンを奪った。
「・・・僕は物じゃない。」
フィリップは白のポーンをc5に移動させた。 彼の口元から途端に微笑みが消え、唇がキュッと硬く引き結ばれる。
竜は赤のナイトをb3に移動させた。
「フィリップ、キミの能力は素晴らしい。 そして何よりもキミの『ガイアメモリ』に対する知識が、今後の俺には必要だ。」
「僕に復讐の片棒を担げとでも言うのかい?」
フィリップは不快さを露にしながら、白のクイーンで赤のクイーンを取る。 すると、
「俺から家族を奪い、この街を悪魔の巣窟にした『ガイアメモリ』、 それに関してはフィリップ、キミにも責任の一端はある筈だ・・・。」
赤のルークで白のクイーンを奪い取る竜の言葉に、 いつに無く底冷えのする響きが含まれているのをフィリップは肌で感じ取る。
(照井竜、 ひょっとしてキミは・・・)
もしかして知っているのだろうか? ミュージアムの研究所で『ガイアメモリ』を作っていたのがフィリップだと云う事実、 フィリップもまた、風都に災いを齎した悪魔の一人であると云う事を・・・。
「判ったよ、受けて立とう。 もしキミが勝てたら、僕を相棒にでも何でも好きにすればいい。」
「じゃ、このまま俺が赤でキミが白で勝負と行こうか・・・。」
竜は赤のビショップをf4に移動させた。 フィリップはクィーンサイドにキャスリングを行う・・・。
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