| 2010年02月16日(火) |
こんな刃野刑事はイヤだ!(『仮面ライダーW』ネタ) |
「なぁ翔太郎、お前んトコの探偵事務所にいるあの子・・・一体何モンだ?」
風麺の屋台に並んで腰を下ろし、無口なラーメン屋の主人への注文を終えた後、 ふいに刃野刑事が翔太郎に尋ねた。
「・・・フィリップの事ですか?」
“ああ”と肯きながら、刃野はおしぼりをビニール袋から出し、 両手と顔をゴシゴシ拭った。
「真倉が話してたんだが、なかなか頭の切れる子らしいじゃねェか? 九条刑事の右足の怪我を一目見ただけで彼女の正体を見抜いた洞察力、 そして照井警視のガジェットの映像を一見しただけで、 即座に『超常犯罪捜査課』に駆け付け、 俺のピンチを救ったあの勘の鋭さ・・・大したモンだ。」
刃野は主人が出したビールを翔太郎のグラスに注ぎ、 自分の分は手酌で注いで、グッと一口飲んだ。
「翔太郎・・・俺が思うにあの子は普通の子供じゃないんじゃないのか?」
ハッ!と反射的に息を呑んだ翔太郎の表情を見て、刃野は満足そうにニヤリと微笑った。
「・・・図星だな? 翔太郎、もう一度尋くぞ・・・あの子は一体何モンだ?」
(やるな、ジンさん・・・なかなか鋭いぜ。)と、翔太郎は内心ヒソカに感心する。
だが、フィリップが組織ミュージアムの研究所でガイアメモリを作っていた事実を 刃野に話す訳には行かない。
グラスに注がれたビールに口を付け様ともせず、 重い表情で黙り込んでしまった翔太郎の左肩を刃野はポンと叩いた。
「まあ、お前が言いたくない気持ちは判る。 だがな翔太郎、俺に隠し立てしても無駄だ。 俺は俺なりに推理して、あの子の正体を突き止めた!。」
「え?マジっすか?」
驚きに鳶色の瞳を丸く見開いた翔太郎の鼻先に人差し指をビシッ!と突き付けると、 刃野はこう言い放った。
「あの子の正体は・・・鳴海荘吉だ!どうだ?当たりだろ?」
「・・・はァ?」
予想外の答えに思わず声を上げた翔太郎を尻目に刃野は熱く自説を語り始めた。
「俺の推理はこうだ! 謎の組織を追っていた鳴海荘吉はある日、 組織の構成員に捕らえられ、新型の毒薬を飲まされてしまい、 その副作用に依って身体が縮んで子供の姿になってしまった!」
「・・・何か、どっかで聴いた様な話ッスね。」
「鳴海荘吉が生きている事が判れば、、 周りの人間にも危害が及ぶと考えた彼は、 敬愛する名探偵フィリップ・マーロウの名前を名乗り、 探偵事務所の居候として身柄を隠しつつ時々お前の捜査に協力している。
鳴海荘吉が行方を眩ましたのと、あの子が『鳴海探偵事務所』に現われたのは、 ほぼ同時期だしな。
どうだ!バッチリだろ!俺の推理!」
「いや、ジンさん、全然当たってないんですけど・・・。」
“Pririri・・・”と、突然、翔太郎のジャケットのポケットから電子音が鳴り響いた。
ポケットから取り出したスタッグフォンの受信ボタンを押して耳に当てると、 かなり動揺しているらしい相棒の声が響いて来た。
“翔太郎!ファングに変身するよ!”
「ちょっ・・・!おい!フィリップ!どう云う状況にハマってんだ?!」
“いいから!早くドライバーを装着して!”
翔太郎はスタッグフォンを切ってポケットにしまい、刃野に背を向けると、 こっそりダブルドライバーを装着し、小声で“変身!”と唱え、 ジョーカーメモリを挿入した・・・。
「はい、風麺ナルト入り、おまちどうさん!」
ラーメン屋の主人が湯気を立てている丼を刃野の前に置き、 続いて翔太郎の前に置こうとして、思わず手を止めた。
「おい?翔太郎・・・?」
翔太郎は屋台のテーブルに突っ伏して意識を失っていた。
「おい?おい!起きろ!翔太郎!ラーメン伸びちまうぞ!おい!」
刃野は翔太郎の左肩に右手を掛けて揺さ振ってみたが一向に目覚める気配を見せない。
「・・・ったく、しょうがねェなぁ。」
刃野は割箸をパキッ!と割り、ナルトと丼の縁の隙間に挿し込みながら、
「まさか、 これから翔太郎の声色を使ってあの子が推理ショーでも始めたりして・・・な?」
誰にともなく一人そう呟くと、 フゥフゥ・・・と息を吹き掛けながら、ラーメンをズルズル啜った。
その時、 背後の道路をカツカツカツ・・・と硬い靴音を響かせて来る者の気配が通った。
「ん・・・?」
振り返って見ると、黒いトレンチコートを着た一人の男が刃野の背後を通り過ぎて、 向こうの曲がり角へ消えて行く処だった。 男にしては珍しく腰まで長い銀色の髪を垂らしている。
(この辺りでは見掛けない顔だな・・・?)
刃野が首を傾げながら、再びラーメンを啜ろうとした時、 “タッタッタッタ・・・”と、 軽快な足音がトレンチコートの男の後を追うかの様に走って来た。 紺色のブレザーに赤い蝶ネクタイを付け、大きな黒縁メガネを掛けた小学生位の少年は、 周囲をキョロキョロと見回し、 刃野に気付くと、いかにも子供らしい丁寧な口調で尋ねた。
「ねぇねぇ、おじさん・・・。 さっきこの辺を黒いコートを着た背の高ぁ〜い男の人が通らなかった?」
「その男なら向こうへ行ったよ、坊や。」
刃野が答えると、その子供は急に大人びた声になって、こう吐き捨てた。
「くそっ!ジンのヤツ・・・! この街に来たのは一体何の目的だ?まさか『ガイアメモリ』を?!」
「ジン・・・?俺もジンさんだが、何か用か?」
刃野に掛けられた声にハッと我に返ったらしい少年は、再び子供らしい口調に戻って、
「何でも無いよ!ありがとうね!おじさん!」
そう言いながら可愛らしい仕草で手を振りながら駆け出して行った。
「おい!坊や!子供がこんな遅い時間に一人で出歩くんじゃ無いぞ!」
すると少年は刃野を振り向いて背中越しに微笑いながら、
「坊やじゃないよ!僕は・・・通りすがりの名探偵さ!」
次回『Kの孫/ジッチャンの名にかけて!』
「おやっさんの名にかけて、この簡単な事件!俺が二週間保たせてやるぜ!」 「いいよ、翔太郎!5分で解決して残り時間はカラオケに行こう!」
これで決まりだ!
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