Monologue

2004年11月14日(日) クラピカのレモン日記

『キスマークを消すにはレモンスライスや馬肉が効果的である』と、
松尾貴史氏の著書『犬も猫舌』に書かれていたので、早速レモンを購入して来た。

ご存知の通り『キスマーク』とは唇で強く吸われた事に依って出来る内出血の事だが、
私の同居人レオリオはこの『キスマーク』をやたら私に付けたがるのだ。

“服で隠れない処には付けるな!”と何度も何度も何度も注意しているにも関わらず、
襟が高目のタートルネックでも隠し切れない首筋に幾つも鬱血痕が残されている。

全く、あれ程口を酸っぱくして言っていると云うのに!!
(だからレモンを買って来た訳では勿論無いが……)

お陰で買物に行く時も、わざわざマフラーを巻いて隠さなければならなかった。

大分肌寒くなって来たとは云え、マフラーを着用するにはまだ早過ぎる。


「さて、と……」

濡らして軽く絞ったタオルを電子レンジで温めている間に、
買物袋から買って来た普通の物よりもかなり大きなレモンを一つ取り出す。

それにしても珍しく大きいレモンだ。

まるでグレープフルーツの様に大きなこのレモンは、
先刻行ったスーパーのフルーツ売場で普通のレモンの隣に並べられていた。

表示には『プルチダ・レモン』と書かれていたが、あのプルチダ地方のレモンだろうか?

確か1センチ程もある厚い表皮のみを使用してレモン酒を作る種だった筈だ。

この辺ではあまり見掛けない珍しい品種だが、値段は普通のレモン2個分より安い。

大きくても効能は同じだろうし、
どうせ多量に使用する事になるのだから……と考えて、このレモンを購入した。

半分に切ったレモンの片方をラップに包んで冷蔵庫にしまってドアを閉めるとほぼ同時に、
“チン”と電子レンジが軽快な音を立てて鳴った。

まず本に書いてあった通りに首筋の『キスマーク』の有る箇所を蒸しタオルで温めてから、
その後に半分に切ったレモンの切り口をそっと押し当てる。

皮膚から立ち上る水蒸気に温められたレモンの酸味の強い匂いが鼻腔をツンと刺激した。


“ガチャ”

ノブが廻る金属音と共にキッチンのドアが開いて同居人のレオリオが入って来た。

「ただいま、何か軽く摘めるモン有る?」

パッ!と反射的に首筋に押し当てていたレモンを離すと、私は慌てて居住まいを正す。

「ず、随分早かったのだな?」

「ん?今日は早番だって言ってったじゃねェか?」

「そ、そうだったか?」

まるで悪戯を見付かった子供の様に鼓動が大きな音を立てて鳴り始める。

別に疚しい事をしていた訳では無いのに……


「……あれ?」

“クンクン……”と何か匂いを嗅ぎ付けたかの様に鼻をヒクつかせる。

こちらに近付いて来ると、
ふと、私の掌に握られている半欠けのレモンに瞳を留めた。

「それ、もしかして『プルチダ・レモン』じゃねェか!?」

「え?」

呆然としている私の右手首を軽く掴んでレモンごと私の顔の前に持ち上げ、
懐かしそうに黒紺色の瞳をすぃ……と細めた。

「やっぱ、そうだ!ガキの頃、ダチと一緒によく畑から盗んで喰ったっけな……」

「盗んで、だと?」

“何と恥ずべき行為を……”と言わんばかりにキッ!と睨み付けると、

「だってよ、畑のおっさん、皮だけしか使わねェで中身は全部捨てちまうんだぜ!
ちょっと酸っぱいけど、普通のレモンよりも汁が多くてスゲェ美味いのに……」

“ホント懐かしいなァ”

そう呟く彼の表情はまるで少年の様にあどけなくて……


「お前も喰ったの?」

「あ、ああ……」

「そっか、
 
 それで、か……」


やけに嬉しそうに微笑うと、私の頭を抱き寄せて髪に顔を近付けながら小声で囁いた。


「お前もレモンの匂いがする……」


“ドク…ン!”と鼓動が高鳴る。


「まだ冷蔵庫に半分残ってるから、取って来……」


冷蔵庫の方へ行き掛けた私の左肩をレオリオの右掌がグイと捕えた。



くくっ……と喉を鳴らして微笑いながら、レオリオは私の首筋に唇を近付ける。

おそらく最も強くレモンの匂いが強く残っているであろう左の耳朶の真下に……


「……ッ!」


湿った舌が耳朶の下に這わされて、

レオリオの唇が首筋の皮膚を“キュッ”と強く吸い上げる……





………明日は馬肉を買って来よう(涙)


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