Monologue

2003年07月23日(水) レオリオの指輪物語 2

それは去る4月4日の夜……

(アイツ…やっぱり来ねェのかな?)

レオリオは11時27分を指した腕時計の文字盤をチラと見て、
数十回目の溜息をハァと吐いた。

あらかじめ予約してあったムーディ・レストランの『フル・コース』を、
きっちりデザートまで一人寂しく食べ終えた後、
閉店まで待っても一向にやって来る気配が無い相方・・・・・・
クラピカの携帯の留守電に、
「近くの公園で待ってるから」とメッセージを入れてから、
かれこれ1時間27分が経過している。

もう間も無く終電車が走る時刻だ。

『車』の運転をして来るにしても、
(センリツ達に硬く止められているらしいが)もう随分遅い時間だ。

(やっぱり、今日は来ねェのかな?
 
 せっかく『コレ』買ったのに・・・・・・)

公園のベンチに腰掛けたまま、レオリオはポケットに右手を突っ込む。

ポケットの中の小さな四角い包みを、そっと指先で転がしながら、
ハァ・・…と数十一回目の溜息を吐いた時、

「レオリオ」

ふいに澄んだ声が夜気を震わせた。

顔を上げて声がした方を見ると、
公園の鉄門の向こうから待ち人であるクラピカが現れた。

「すまなかった、仕事がなかなか片付かなくて……」

数ヶ月振りに会う相方・・・・・クラピカはさして悪びれた様子も無く言うと、
レオリオが腰掛けているベンチの前で足を止めた。

「いや、すまなかったな。忙しいのに、わざわざ来て貰っちまって・・・・・・」

慌てて立ち上がった弾みで、
レオリオの指先から離れたポケットの中の包みが“カサ・・・”と乾いた音を立てた。

「ところで用件と云うのは何だ?」

クラピカは不機嫌そうに細い眉を顰めると、

「お前が
“どうしても、どうしても、どぉおうしても今夜は来て欲しいんだぜ!!”などと言うから、
こうしてわざわざ来たのではないか!」

キッ!と瞳を吊り上げて睨むクラピカから、レオリオは照れ臭そうに視線を外すと、

「実は、その……
ちょぃと、お前に渡したいモンが有ってよ」

・・・・・と、ポケットから青いリボンの付いた四角い箱を取り出して、スッと差し出した。

「誕生日おめでとサン♪」

その台詞を聴いて、
ようやくクラピカは今日(4月4日)が自分の誕生日である事を想起したらしい。

鋭く吊り上がっていた瞳が、今度は驚きと戸惑いで円く見開かれる。

「何、キョトンとしてんだよ?」

呆然としているクラピカの右手首を軽く掴むと、
“ホレ”と掌の上にリボンの付いた小箱を乗せた。

「すまない、レオリオ・・・・・・」
「いいから、気にすんなって」

先刻とはうって変わったすまなそうな表情で掌の上の小箱を見つめるクラピカに、
レオリオは事も無げに微笑いながらひらひらと右掌を振ってみせる。

「それにしても・・・・・・
お前は、ついこの前、受験が終わったばかりではないのか?
なのに、こんなムダ使いをして」

「うるせぇ!オレのお袋みてェな事言う前に、さっさと開けてみろっつーの!!」

レオリオは胸ポケットからタバコを取り出して咥えるとライターでカチッと火を点け、
フゥ・・・・・と溜息混じりに紫煙を吐き出した。

「受験が終わったからこそ、買ったんだぜ・・・・・・オレ」

「?」

レオリオの言葉の意味が理解出来ないらしいクラピカは
訝しそうな顔で首を傾げながら、青いリボンを解いて包装紙を剥がした。

「な?キレイだろ?このオレ様が念入りに選んだんだぜ♪」

「確かに、良い宝石(いし)だな・・・・・・」

「だろ?」

街灯の光を反射してキラキラ輝いている赤い石の付いた指輪を
まるで魅せられた様に見つめているクラピカの耳元にそっと唇を寄せると、
レオリオは小声で囁いた。

「ところで……
その指輪なんだけどよ、出来たら、お前の左手に……嵌めてくんねェかな?」


「わざわざお前に言われるまでもなく、私の右手にはもう何処にも嵌める処が無いが?」

さらりと言いながら、クラピカは己の瞳の高さに右手を掲げる。
細い5本の指に嵌められた鎖が“ジャラ…ッ”と金属音を立てて鳴った。

「だ・か・ら!そう云う意味じゃ無くってよ………」

ゴニョゴニョ……と言い難そうに語尾を口腔内で噛み潰している。

「何だ?言いたい事が有るならはっきり言ったらどうなのだ?
 その様に煮え切らない態度は男らしくないぞ!!」

「ああ!もう!めんどくせェなァ!!」

クラピカの左手を掴むと
持っていた指輪を半ば強引に薬指にグイ!と押し込んだ。

「おお!さすが、オレ様!サイズピッタリじゃねェかよ!!」

自我自賛しながら勝手に“うんうん”と一人悦に入りながら、
レオリオは唇の端をニヤリと上げると、

「受験が終わったからこそ、買ったんだって言ったろ?
・・・・・・ま、いわゆる『男のけじめ』ってヤツ?」

ハッと息を呑みながら、
ようやくレオリオの意図が理解出来たらしいクラピカは
左手の薬指に嵌められた指輪を見つめたまま黙り込む。

幾ら(ななかさん(仮名)の書く)クラピカとは云え
レオリオが付けたがっているらしい『男のけじめ』とやらを
一から説明されなければ判らない程『唐変木』では無い様だ。


「お前もさ……今度オレに指輪くんねェかな?」

「え?」

しばらくの間、
じっと指輪を見つめて考え事をしていたクラピカは弾かれた様に顔を上げる。

「いつでも良いぜ、お前の気が向いた時で構わねェからよ……
あ、別に安モンで良いんだぜ、
いっそ『シティ・ハンター』(懐)みてェにジュースのプルトップとかでも……」
                            (↑最近は無さそうだ)

照れ臭そうにガリガリと黒い頭を掻くレオリオに、


「用と云うのは・・・・・・これだけか?」

「あ、ああ」

「そうか・・・・・では、電車の時間が有るので、私はこれで失礼する」

静かな口調で言うと、くるっと踵を返して公園の門から出て行った。

「え?何だよ!もう帰っちまうのかよ?おい!」

次第に遠ざかっていく、
全てを拒絶する様に向けられた小さな背中が、それ以上彼の後を追う事を躊躇わせる・・・・・・


「チェッ!相変わらずつれねェなァ・・・・・」


もちろんレオリオも、

あんな指輪一つで、

クラピカを縛れると、拘束出来るなどと考えていた訳では無い。

だが・・・・・


吸い終えたタバコを携帯灰皿で揉み消すと
フゥと重い溜息を吐きながら、元居たベンチに腰掛ける・・・・・と、
そこに置いたままになっていたビニール袋がガサッ!と、音を立てた。

(あ!コレ!・・・・・・アイツの分の『フル・コース』!)

先刻、泣く泣く一人で食べる羽目に陥ったムーディ・レストランの『フル・コース』の内、
テイク・アウト可能な料理だけ包んで貰ったのだ。

「お〜い!クラピカ〜!これ持ってけよ〜!!
レンジでチン♪すりゃ、まだバッチリ喰えるぜ〜!お〜い!!」

ガサガサと乾いた音を立てる袋を片手にレオリオは公園の門を潜り抜けると、
クラピカの後を追って、夜道へと駆け出して行った。


(続く・・・・・・ごめんなさい(;;)) 


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