Monologue

2003年02月16日(日) ビター×スイート×バレンタイン 5

二人の住処である星型のお家の窓から、暖かそうな灯りが漏れている。

しばし中に入るのを躊躇い、クラピカが入り口の扉の前で立ち尽くしていると、
“ガチャッ”とドアが開く音がして、

「よォ、遅かったじゃねェか?」

すぐ瞳の前に立っている背の高い相方は、
心持ち上半身を屈め、頭一つ分小さいクラピカの顔を覗き込むと、
ホッと安堵の溜息を吐きながら、やたら嬉しそうに微笑った。

「あんまり帰りが遅いからよ、
そろそろ捜しに行こうかと想ってたトコだったんだぜ?」

だが、何故か……
レオリオの顔をまともに見る事が出来ずに、視線を外して俯いてしまう。

「すまなかった、心配を掛けて……」

下を向いたままボソリと小声でそう呟くと、
“ポン”と、細い左肩にレオリオの大きな右掌が乗せられた。

「寒かっただろ?早く中に入れよ」

軽く力を込めて押された彼の右掌に促されるままに家の中に入った途端、
ふわり……と甘いカカオの香りがクラピカの鼻腔を擽った。

「何だ?この甘い匂いは?」

そう云えば、
さっきは気付かなかったが、
部屋の明かりの下で、レオリオが家事用のエプロンを着用している事に改めて気が付く。

「ん、ちょいと……チョコレートケーキでも造ろうと想ってよ」

ポリポリ……と右頬を掻き乍らレオリオは答える。

「チョコレートケーキ……だと?お前がか?」

クラピカは訝しそうに眉を顰める。

「何だかやたら甘いモン喰いたくなっちまってよ……見様見真似で挑戦中ってヤツ。
やっぱ『バレンタインディ』だからかな?」

照れ臭そうにハハハと微笑うレオリオの笑顔は、何処と無く寂しそうに見えた。

(……甘い物は苦手じゃ無かったのか?レオリオ……)

クラピカの胸の奥で何かがキュ…ッと音を立てて軋んだ。



つまらない意地など張るのでは無かった。
下手な小細工など考えるのでは無かった。


あんな恥ずかしい衣服など着たりしなくても、
無理に特別な台詞を言ったりしなくても……


きっと、
その辺で売っている市販のチョコレートを買って手渡しただけだとしても、
この優しい男は、手放しで喜んでくれた筈なのに……


意を決したクラピカは、くるっと踵を返して玄関のドアへと向かった。

「おい?こんな時間に何処行くんだよ?」

背中に掛けられた声に振り向こうともせず、

「チョコレートを買って来る、すぐに戻るから……」

そう言い残して外へ出て行こうとすると、
いきなり後から右肘を強い力でぐぃっと掴まれた。

「な……ッ!」

反射的に立ち止まって振り返ると、黒い瞳が真正面からクラピカをじっ…と見つめている。

「……行くなよ」と低い声が呟いた。

さして力が入っていない筈のレオリオの右手を、
クラピカは何故か振り解く事が出来なかった。


「いらねェよ、チョコなんて……
 んな義理みたいなモンだしよ、それより……」

ほんの僅かだけ、
レオリオの右掌に力が込められ、クラピカを見つめる瞳が熱を帯びる。

「レオリオ……」

「それより、ケーキの飾り付け手伝ってくれよ……な?」

ウインクしながら、クラピカの肘を離した右手の親指を立てて明るく言うレオリオに、

「ああ、判った」

肯きながら答えたクラピカはレオリオの後に追いてキッチンに入った。

レオリオはキッチンのテーブルの上に置かれていたボールを取り上げると、
中のチョコレートシロップ入りの生クリームをしきりにシャカシャカ泡立てながら
“ヨ〜ロレイヒ〜♪”とハミングし始めた。

だが……
クラピカはキョロキョロとキッチンの中を見廻しながら、首を傾げる。


「どうしたんだよ?クラピカ、浮かねェ顔して……」

「レオリオ、お前が泡立てている生クリームを飾り付けるべきスポンジケーキが
何処にも見当たらないのだが?」

クラピカが胸に沸いた疑問をそのまま口にすると、

「何言ってんだよ?
この生クリーム(チョコシロップ入り)は、直接お前に飾り付けるに決まってんじゃねェかvv」

そう言いながら、スケベオヤジの如き微笑みを唇の端にニヤリと浮かべる。

(え……?)

クラピカの明晰な頭脳でも即座には意味が理解出来ないレオリオの台詞に
呆然と立ち尽くしていると、

レオリオは生クリーム(チョコシロップ入り)を泡立てていたボールをテーブルに置き、
クラピカの背後から両腕を廻して、

「服来たままじゃ汚れちまうからよ……」

そう言いながら両掌を蒼い衣服の中にすっ…と滑り込ませる。

「ア……ッ!」

ビクッ!と肩を震わせたクラピカの耳元に唇を寄せながら、小声でこう囁く……

“服脱いだ後でもあのエプロンだけは、ちゃんと着てくれよ、な?”


ようやくクラピカはレオリオが『何』に生クリーム(チョコシロップ入り)を塗ろうとしているのか、
『バレンタインディ』に食べたくなった『甘いモン』が『何』なのかを理解した。

そして……

「な……ッ!何をするのだ!バカ者ッ!!」

言うが早いか『硬』を込めたクラピカの右拳がレオリオの左頬に見事に炸裂した。

「ッ……!!痛ってェな、いきなり何すんだよ?!
お前ェ、エプロン買ってノリノリ♪じゃ無かったのか?!」

瞬時に『堅』を固めたレオリオが、
それでもガードし切れずに受けたダメージに依ってヒリヒリと疼く左頬を掌で撫でながら叫ぶ。

「オレは『バレンタインディ』と云うイベントを盛り上げてやろうとだな……」

「ばッ、馬鹿者!恥を知れッ!!」

緋色に変化した瞳だけで無く、全身を真っ赤に火照らせながらクラピカは鋭く言い放つ。


レオリオと云い、あのニセモノと云い……考えている事が全く理解出来ない。

唐変木と呼ばれても良い!どんなに色事に疎くても良い!!

自分は『清純派』……じゃ無かった、正常な道をまともに歩んで生きて行きたい!と、
クラピカは切望する。

「私はこれから武の道に生きる為に山へ修行に行く!さらばだ!レオリオ!!」

キッパリと宣言すると、クラピカはくるっと踵を返して、キッチンを出て行こうとする。


「お、おい待て!クラピカ!考え直せ!オレが悪かった!な?な?なッ?」

蒼い衣服の端をグィッ!と掴み、
拝み倒す様な口調で、黒い瞳をうるうる涙で潤ませながらレオリオが縋り付く、

だが……

「離せ!
もうお前とはコンビ解消だ〜〜〜ッ!!!」

『レオ×クラ×ンド』の夜空にクラピカの絶叫が甲高く響き渡った。


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