| 2003年02月14日(金) |
ビター×スイート×バレンタイン 3 |
「……それで、一体この私に何の用だ?唐変木」
ニセ・クラピカは瞳の前で苦虫を潰した様な顔をしたまま、 項垂れている本物のクラピカの顔をジロリと睨み付ける。
「いきなり家に尋ねて来て、ずっとだんまりとはいい態度だな? 私はダーリンvv(←ニセ・レオリオの事らしい)に捧げるチョコを造らなくてはならないのだ。 悩殺ポーズvvの最終確認もしなければならないし、いろいろ忙しいのだよ」
“さっさと帰れ!”と言わんばかりな冷たい口調のニセ・クラピカに、
「お前に……尋きたい事がある」
そう言うとクラピカは、 『ピンク・エンジェル』と黒地にショッキング・ピンクのロゴが入った袋を懐から取り出す。
「お前、やっぱり本当にあのエプロンを買ったのか?」
半信半疑だったニセ・クラピカは想わず大声を上げてしまった。 思わずクラピカは恥ずかしそうに頬を赤らめる。
「最初はこんな物を買うつもりなど毛頭無かったのだが……」
ぼそり……とクラピカは話し始めた。
「今日は『バレンタインディ』だから、 レオリオが欲しがっているチョコレートを買う為に朝早く家を出て、 あの店の前を通り掛って…… ショーウィンドーを眺めていたらあの店の女性が、 “これを着てチョコレートを手渡したら彼氏も思わず“グッ!”と来てしまうわよvv”などと、 しきりに薦められてしまって……」
「それで買ってしまった・・・・と云う訳か?」
クラピカは耳まで真っ赤になりながらコクと肯く。
「その……レオリオには、いろいろと世話になっているから……」
“ズキ…ン”とニセ・クラピカは微かな胸の痛みを覚える。
「……それで、元恋仇の私に何の用だ?」
わざと突き放した様な口調でそう言うと、
「このエプロンの着方が良く解らないのだ……」
はぁ?と首を傾げるニセ・クラピカに向かって、クラピカは更に消え入りそうな声で言う。
「お前は、こう云う事に詳しそうだから、何か知っているだろうと思って……」
「それで、来たのか?」
「ああ……だが、忙しいのなら仕方無い」
そう言ってクラピカが椅子から立ち上がり掛けると、
「待て」
静かな声が制した。
「ハニ…… 元ハニーvvを喜ばせたいのだろう?唐変木……」
ニセ・クラピカはクラピカの手から『ピンク・エンジェル』のロゴが入った袋を 半ば引ったくる様に取り上げると、 中から透ける素材で織られた布地で造られた可愛らしいフリルのエプロンを取り出し、 瞳の前にピラッと拡げた。
「フン!こんな物に着方もへったくれも有るか、 普通に身体に巻いて腰でリボンを結べば良いだけだろう?」
「しかし、それだけでは身体の……何処も隠れないでは無いか? せめて下に何か着るとかするのでは無いのか?」
躊躇いがちに言うクラピカに向かって、ニセ・クラピカは一喝する。
「何処を隠すのだ?!年に一度の大勝負なのだぞ!」
「しかし、これでは……ま、丸見えでは無いかッ!」
「些細な事を気にするな、男だろう?」
「男だから、気にしているのだッ!私は……」
ひたすら平行線を辿るだけの不毛な会話に ズキズキと疼き始めたこめかみを指先で押さえながらクラピカはフゥと溜息を吐いた。
「やはり、私にはそれを着るのは無理の様だ。 そのエプロンは、お前に譲る事にする。どうとでも好きにしてくれ……」
だが、 「誰がお前の払い下げなど着るか!」 ニセ・クラピカはキッパリと言い放った。
「まぁ、確かにこのエプロンは、 かなりグッ!と来るデザインだがお前に先に買われてしまったのでは仕方無いし……」
そう言いながら畳んだエプロンを元の袋にしまうと、
「あの後、 ヴェーゼお墨付きの思わずパキ〜ン!と来てしまう新製品をGETして来たのだよvv」
“見るか?”とニセ・クラピカは取り出した『ピンク・エンジェル』の袋を開けて、 パールの様な煌きを纏った白い小さな布地を顔の前に拡げて見せた。
「何だ?それは……まるで腹巻きの様な形状だが?」
「バカ!これは『ビスチェ』と云うセクシー・ランジェリーvvだ!知らないのか?」
だが…… クラピカが目測する限り『ビスチェ』とやらの一番上部を胸の辺りに充てたとしたら、 どうやっても臍の辺りまでしか隠れそうに無い。
「その……『ビスチェ』とやらの下には一体何を着るのだ?」
恐る恐るクラピカが尋ねると、
「何も着ないに決まっているだろう?」
ニセ・クラピカは平然と答えた。
と、すると、つまり……
「そ、それでは……ま、丸出しでは無いかッ!」
「当たり前だ、勝負なのだぞ?」
キッパリとニセ・クラピカは言い切る。
もうダメだ!やはり自分にはこの手の事は全く理解不可能だ!!
クラピカはすっくと立ち上がり、
「キサマには羞恥心と云う物が無いのか?この恥知らず!!」
燃える様な真赤紅に変化した瞳を大きく見開き、頬をカァッと紅潮させながら、 そう言い捨てると、半ば逃げる様にニセ・クラピカの家を飛び出して行った。
「フン、やっと帰ったか、唐変木め……」
ニセ・クラピカは、 クラピカが置き忘れていった袋からエプロンを取り出して、そっ…と拡げた。
(どうせこんな物着てみせる度胸など無い癖に…… それに……わざわざこんな物、着たりしなくても、ハニーvvはお前を……)
掌の中のフリルで可愛らしく飾られたエプロンを見ながら、しばし想いに沈んでいたが、 ハッと我に返って壁時計を見上げる。
「しまった、もうこんな時間か! 早くしなければダーリンvvとの約束の時間に間に合わないでは無いか!」
“今夜は勝負、勝負なのだよ!”と一人呟きながら、 ニセ・クラピカは慌ててキッチンにバタバタと駆け込んで行った。
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