Monologue

2002年03月27日(水) 『記念写真』がゆく(『修学旅行・後日談』〜幕末編〜)

(三谷幸喜さんの舞台『彦馬がゆく』のパクリなので、観覧予定の方はご注意下さい)


時は文永2年・・・


「くらぴか先生!」

塾生のれおりおに声を掛けられ振り返ると、くらぴかは突然左肩を抱き寄せられる。

「うわっ!な、何をするのだ?いきなり・・・」

「ごん!きるあ!」

れおりおは同じ塾生仲間の、ごんときるあに声を掛ける。

「今だ!『写真』!・・・『写真』を撮ってくれ!」

『写真』と言う単語を聞いた途端、くらぴかの顔がハッと蒼褪める。


「『写真』・・・だと?」

「そ♪俺達の『記念写真』・・・

近所に新しく出来た『写真館』から、えげれす製の最新版の『かめら』を借りてきたんだ。

撮影方法も、ばっちり習って来たしよ!」

得意気に片目を瞑ってみせる、れおりおと、くらぴかの前に、

ごんときるあは借りて来た『かめら』を三脚を立てて据え付ける。



「まだこの辺じゃ『写真』に収まった奴は、ほとんどいねぇしよ・・・

俺達ふたりの一生の『記念』になるぜ、先生vv」

嬉しそうに言うれおりおに向かって、

「バカ!お前知らないのか?

『写真』を撮ったりしたら、魂を抜かれて半年以内に死んでしまうんだぞ!」


「・・・・・・・・先生、まだそれ信じてんのかよ?」



嗚呼!!

『日本の夜明け』も近いといふのに・・・!

くらぴかの時代遅れな言葉に、れおりおは魂を抜かれそうになる・・・


「魂抜かれるなんて『嘘』に決まってんだろ?

 それとも先生・・・ひょっとして『写真』撮られんの、怖いのかよ?」

にやりと微笑いながら、れおりおに言われて、くらぴかはむっ!と膨れる。

「こ・・・怖くなど有るものか!仮にも日本男児だぞ!私は・・・!」

「よぉし・・・じゃ、撮ろうぜ」

「く・・・来るなら来い!」

そう言いながら、くらぴかはれおりおの腕の中で身構える。


「はい、じゃ先生、顔塗るね」

ごんは刷毛で溶いた白粉をくらぴかの顔に満遍なく塗り付ける。

「な!何をするのだ!」

「仕方無ェじゃん・・・顔、白く塗らねぇと、綺麗に写らねぇんだってよ・・・」

と、れおりおの顔を白粉で真っ白に塗りながら、きるあが言う。



顔を塗り終えた後、ごんはくらぴかの首に木製の支柱を充てがう。

「こ、これは何だ?」

「『首押さえ』・・・頭はぐらぐらして動き易いからこうやって固定すんだって」

れおりおの首に支柱を充てがいながら、きるあが説明する。



「よ〜し!準備出来たっと!」

「んじゃ、撮るぜ!お二人さん!」



ごんときるあは『写真機』の傍に立つ。

 
「じゃ、真ん中の『れんず』を見て…」


ごんに言われた通り“じぃ・・・っ”と『れんず』を見つめるが、

くらぴかの顔は緊張の所為か、かなり強張っている。


「ほら微笑えよ・・・せっかくの『記念写真』なんだからよ・・・」

れおりおが耳元で囁く・・・だが、くらぴかの顔は硬直したままだ。



ふとれおりおの脳裏にある考えが閃く。

「先生・・・」

「何だ?」

「今まで生きて来た内で、一番愉快だった事を思い出してみな・・・」

「今までで・・・一番・・・愉快だった事?」

「ああ・・・・」

「そんな事・・・」

“急に言われても・・・・・”と、くらぴかは言い掛けたが、何か想い出したらしく、

硬直していた唇をふわりと綻ばせ・・・彼はまるで花のように微笑った。


「はい!そのまま顔固定!」

きるあに指図されるまま、二人は笑顔のままで静止する。


「数かぞえま〜す!・・・・ひと〜つ、ふた〜つ、み〜っつ、よ〜っつ・・・・」


「おい・・・れおりお」

『笑顔』を固定させたまま、くらぴかは小声で囁く。

「何だ?」

『笑顔』を固定させたまま、れおりおが答える。

「・・・ごんは一体、幾つまで数えるのだ?」

「ああ、40・・・」

さらりと答えたれおりおに向かって、

「何?!40だと?!そんなに数えるのか?!」

くらぴかは大声で叫びながら破顔してしまった。



「あ〜あ・・・駄目じゃん、先生」

「動くなっつったろ!・・・やり直しじゃねぇか!」

悪態を付く二人に、


「す・・・すまない」

くらぴかは心底済まなそうに項垂れる。

「まぁ気にすんなって・・・先生♪」

れおりおは言葉を掛けて慰める。


ごんときるあは『版』を変えると、二人に向かって声を掛けた。

「じゃぁ、撮るよ!

「もう動くなよ!太陽が沈んじまったら『写真』撮れねぇんだからな!」


「そ、そうなのか?」

くらぴかが不安そうに尋ねる。

「ああ・・・だから、あんまり時間は無ェって事・・・

でも、そんな事、気にしなくたって・・・」


「はい!じゃ、真ん中の『れんず』を見て・・・・・・」


『れんず』を見つめる、くらぴかの表情は、やはり緊張で強張ってしまっている。


「ほら先生、微笑えよ、先生・・・さっきみたいに・・・」

れおりおがくらぴかの耳元に、そっと囁く。

「さっきみたいに・・・か?」

「そ♪・・・思い出してみな?

『今まで生きて来た内で一番愉快だった事』・・・・」

れおりおは片目を瞑って微笑ってみせる。


「そうか、よし・・・!せんりつ先生の、おでこ・・・せんりつ先生の・・・おでこ・・・・・」



くらぴかは呪文の如く、ぶつぶつと唱え始める・・・・・・




「数かぞえま〜す!・・・・ひと〜つ、ふた〜つ、み〜っつ、よ〜っつ・・・・」




昔・・・『写真』を撮るのは、本当に大変だったという『お話』(^^;)


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